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カラフル・アナグラム8

 

 急募、嫌いな相手と二人きりにされた時の対処法。


 双子が席を外した。

 予定ではこの間に何やら証拠品ぶん取ってくるらしい。

 一人にされると心細い。

 双子曰く彼は強行に出るような男ではないから、そんなに危なくないらしい。私が一人でいるのは問題ないとの判断だった様だ。


 狂人は常人では計り知れない行動を取るものだ。

 問題山積みだと、私は思ったけど、上司命令には逆らえない。大人しく言われた通りに待っている。


「久々だね……覚えているかい?」


 こちらにうっとりとした目を向けた彼は声を掛けてきた。


「えぇ、訪問販売のセールスさんですよね」


 当たり障りのない事実を返答として返す。セールスの意味なんて彼は知らないはずなのに、言葉に興味がないかのようにスルーされた。

 そこから唐突で脈絡のない応酬が始まった。


「きみの家族は実に素晴らしかったね。終わり方まで美しかった」


「えぇ、綺麗でしたね」


「姉君が不在だったのは残念だったな……きみも、ボクは昔の方が好みだった」


「姉は相変わらず不在ですよ」


「そうかい。そうかい」


 まるで美術品の評論会みたいな会話。

 家族を失った相手には不躾で嫌悪感を覚えるであろうその言葉たちを、私はなんの感慨もなく受け止めていた。

 興味がなかったとも言う。


 当時の私は、とは言っても今の私もたいして変わりないが、誰かの生死に関して興味がなかった。

 だって一度死んだ身だ。彼らも二回目を謳歌する、それだけだと思う。


「きみ、もう少し絶望感を感じないのかい?」


 今更な質問だと思った。彼もきっとそう思っている。


「何にです? 家族の死に対して? それとも孤独な自分にですか?」


 どれについてもだと彼は言った。

 この時点で私は会談も双子も一団のことも頭から追いやっていた。話に引き込まれているのをまるでドールハウス眺める様に他人事に感じ、それでも足掻くこともなく流されるままに。


「どうでもいいじゃないですか」


 心からの本心だった。


「母は、父は、兄弟は、家族は、皆、素敵に美しく色彩に溶けて青く濃く染まって、色溜まりになって、液体みたいに蠢いて、止まって、だんだん薄まるその姿すら素晴らしくて……それさえ、それだけを、わかればいい」


 一息に吐き出す様に、勢いで喋る。

 それは狂信者か何かの様にも見えただろう。

 私自身、前世と比べてなかなかに奇怪なことになっている自覚はある。

 自覚があっても何もできずに感覚を受け取るまま受けとめて溜め込んでいる。

 たまに吐き出すとこんな風に訳の分からない言葉になる。


「…思いの外、感情的な面があるのだね」


 観察する様なその目はきっと私と瓜二つだ。

 少し気まずくなった。話題の転換を図る。


「そういえば、なんの仕事をされてる方なんです?」


「きみも知っての通り、蜂蜜売りの商人さ」


 飄々とした態度。堂々たるその姿に微妙な気分になる。


「それにしては、双子さんたちと不思議な話をしていましたね」


「きみはもう知っていると思ったのだけど……聞いていないのかい?」


 何をですかと問う。


「ボクが犯罪者って話」


 自白したぞこいつ。


 自白した相手になんと返したらいいのか。

 そもそも罪を告白されたことだってあまりない。

 実は俺昨日お前から借りた消しゴム使ってそのまま筆箱に…って少しすり減った消しゴムと共に告げられた残念なセリフくらいなものだ。


 変に隠し立てするのもどうかと思って、聞きましたけど、驚いただけですと素直に返す。

 隠したところでバレそうな気もした。私は嘘を吐くのが苦手だと、姉に言われたことがある。


「このままいくとボクは捕まるのだろうね」


 妙に達観した声音で彼は言う。


 そうでしょうね、としか言いようがない。

 彼は興味の薄れてきた私の言葉も気にせず会話を続ける。


「いやぁ、君の母上はなかなかにやり手だった。結局きみらに何も売れなかった。唯一の取り分は視力の家の存続を知れたことくらいか」


 はぁ、と聞き流しそうになり、途中で小首を傾げた。

 コイツいつから我が家が視力の家だと知っていたの?

 母が迂闊に言うわけもない。どこで気がついたのか。

 まぁ、黙っていろと言われたこともないから弟あたりが教えた可能性もある。弟がわざわざ言う状況もあまり想像つかないが。


「ところで、きみは何が見えているのかね。そんな可憐で魅惑な目つきをしているんだ。気になって仕方ない」


 その微妙な褒め言葉をどうにかしてほしい。

 寒気がするのを体をさすって誤魔化しつつ、答える。

 だって隠し立てする意味もない。私が言ったところで彼が私の目から感情を隠すことはできないのだから。


「本質を色として見抜けます。ところで気になったのですけど、貴方はどうして緑なんですか?」


 彼は不思議そうにこちらを見る。

 そうだ、色で伝わるわけがなかった。思いの外彼との意思疎通がやりやすかったので、口に出てしまった。


「私の予想だと『失望』あたりかなと思っているのです、それと恐怖、ネガティブな感情。なにに失望して何を恐れているのかまでは知りませんけど」


 知らないからこそ気になるのだ。これは単なる知識欲。


 あ、彼が少し白く染まっている。私のことが怖いのだろうか。見透かされるのが嫌なのか黄色が混ざる。

 やっぱり気持ちのいい色には見えなかった。


「はっきり言って、苦しそうですね」


「五月蝿い、黙ってくれ」


 間髪いれずに彼が静かに吠えた。

 私は勢いにびくともしなかった。

 なんの前触れなく怒られたら流石にビビるけれども、こうも怒りそうな色をしていたら、次の瞬間どう言われたら爆発するかが見てわかる。


「これだから特異能力者は……」


 失望していたのは私たちに対しての様だった。


「やっぱり緑は失望かぁ」


 色の意味がわかって満足したところに、双子が証拠携えて戻ってきたらしい。

 何やら書類を見せてわぁわぁ言っている。


 遠目に見ながら明らかに会話をする前よりも緑成分が多めになっている彼を見る。

 失望が積もり積もって濃い緑に……まるで森の中の様な突き離す鋭い色はなんともいえない素晴らしさがある。

 最初よりも気分がいい。


「いいか、一つ教えてやる」


 双子に手枷をかけられた彼は私を真っ直ぐみた。

 双子は拘束を解かずに歩みを止めた。

 話をしろという意思表示らしい。


「きみは絶対に他者の理解なんてできない」


 他人の理解なんて誰であろうとできないと思う。

 彼の言うことは正しいが、その正しさは当たり前のことで、特異でもなんでもないつまらない言葉だった。


 ここまで勿体ぶって喋っておいて……期待して損した。


「誰であってもそうでしょうに、わざわざ言うなんておかしな人」


 きっと今の私は他愛無い会話をしているつもりだった。彼にとってはそうではなかった。それが失望につながった。

 なんとなく彼の言いたいことを予測することはできる。理解もできているつもりだ。

 できないのは承諾だ。


 私にはそれを肯定することはできない。


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