カラフル・アナグラム7
世界的犯罪者について考えていたら、いつのまにか朝になっていた。隙間風が寒いので早急に扉の修復を頼みたい。
壊れた扉をどうしようかと眺めていたら、双子が何事もなかったかのような清々しい朝の顔でおはよおと反響する声で挨拶をしてきた。
おはようございますと、一切の淀みなく言えたのは、双子の色が穏やかな色ではなかったからだ。
双子もまた気が立っているのだろう。それを気が付かせないための演技はとても素晴らしい。私じゃなければ気が付かなかったであろう。
「あれぇ…怒ってないの?」
「あなた方も、眠れていないような色なので。私に繕いは無用です」
「……文字通りのお見通し」
「ずるーい」
ずるいと言われてもこちとら今世はずっとこの眼と一緒だった。渡せるものでもない。
なんと返していいか分からないから、軽くはにかんで誤魔化した。
階段場所は相手方の屋敷。なかなか豪華で高級そうな雰囲気を感じる。
家主もさぞ趣味の悪い格好をしているのだろうと思った。
双子が身構えていた相手は誰かと思ったら顔見知りのおじちゃんだった。
この人我が家によく来た蜂蜜売りのじいちゃんだ。私が会ったのは一回きりだが。
あんた犯罪者だったのか。知らなかった。金持ちなイメージもなかった。顔を見るまですっかり忘れていた相手だ。
蜂蜜になんか変なもん混ざっているからって見抜いた母が毎回断っていたけれど、毎日のように来ていた時期がある。
相変わらずの気色の悪い笑みで泥みたいな色。嫌だなぁ見たくもないなぁと思ってしまう。観察が仕事なのに。
言葉にはしなかったが、彼は私に久しぶりだねと表情で伝えてきた。ちょっと会った顧客の子供を覚えていたらしい。
私は動じない。無表情だ。
変に反応すると煩くなるのだと、姉が言っていた。
姉は私よりも随分と聡くて勘の良い人だったから、姉の言うことに従うのは至極当然だった。
「何色?」
不意に双子のどちらか片方が声をかけてきた。
咄嗟に透明と答えそうになった私。
透明は観察していない証拠だと、二人に出会った時に気がついたのに、見たくないから透明だと言ってしまいそうだった。口の中でなんとか留めたその言葉をこくんと飲み込む。
「白、黄色、緑ですかね。白多め」
端的に述べた上で、目を逸らし、彼にも聞こえないようにぽそりと囁くようにして口に出す。
恐怖心で真っ白な癖して、笑顔を作っている。それだけならさして珍しくもない。黄色と緑はネガティブと失望。
一回見たというのはこいつの緑だ。
暗い内情を明るい外観で包んでいるのがありありとわかる。
「正直に言うと、濁っていて直視したくないですね」
この人のことは家族内でもたまに話題になっていた。
曰く、誰が見ても好印象を持てなかった男。
誰が見てもというのは、我が家特有の表現だ。
視力の家である我が家は多少の能力差はあれど、一般人とは全く違う視界を持つ。それだからこそ、兄が見ると好印象、弟が見ると嫌悪感マシマシ、そういう差は珍しくなく、見解の違いは度々あった。
そんな家族でコイツは無理だと全会一致になることはとても珍しい。
それだけ良くないやつとも言う。
「真っ黒で少し赤い私の上司たちがどれほど美しいか良くわかります」
思いっきり目を逸らし、二人を見て目の休憩をする。こいつの観察は休憩が大事だ。
昔は、嫌な気配と緑の色だけ確認して、本能で無理だと確信してみないようにしていた。
今こうしてみているとなんとも禍々しい混ざり具合。
我らが一団ことパフェ……じゃない…『ニフェ』の諜報部員たちもこの様な濁った色合いの者がいた。
それでも混ざっている色が強くて生命力漲る青に満ちさらに自身の色を混ぜ込んでいてなんとも見事に調和していた。
この目の前の色彩とは大違いだ。
軽蔑とも侮蔑ともとれる目で見ている自覚はあるが止める気もなく、ただただ双子と彼の会話を受け流す様に聞く。
もういっそのこと目を瞑ってしまいたかった。
「…具合悪い?」
「色が濁ってるのが嫌なだけです」
「その言い回しすごくわかりづらいね。わかったけど」
「ものすっごい濁ってるんです」
一度見かけた時もこんなでしたなんて言葉が続きそうになるが、それを言う意味はない。くどいだろうがもう一度言って、また黙り込む。
会話がぽこぽこ進んでいく。
内容は良く分からないが、何やら情報の取引をしているらしい。用語も飛び交うので私には皆目検討もつかないことが多い。
一つわかるのは相手はやり手ということだ。
我が母相手に一生来るなと匙を投げられなかっただけはある。一見楽しげに会話している様に見えるのに、ピリピリとした緊張感を肌で感じる。
恐怖を感じながらも目を逸らして壁を見る。
壁の奥にやたらと黄色い有象無象が蠢いているのが見える。白も混ざってまぁ明るいこと。光っているみたいでひどく眩しい。
どうやらこの建物内に何か飼っている様に見える。
単純に気味が悪い。趣味も悪い。予想では奴隷か動物か、生き物なのは確かだろう。
ひっきりなしに襲いかかる寒気を見ないふりして、また会話に耳を傾けた。




