カラフル・アナグラム5
「ドルチェちゃんか、よろしくね」
変人と言われていたが、普通で良い青年だった。変わったところはなかったように思う。
その後、特にこれといった変わったことはなく、コーンスープ飲んで、パン浸して食べて、自室に戻った。
パンをちぎって全部スープに放り込んでいたら、ありえないものを見る目で見られたのは不思議だった。
「さてさて、今日から休日! 定休日!」
「財務部はお休みでーす」
入って二日目にして休日とは、不思議だけれども、そういうこともあるのだろう。二日間、休みらしい。
「休み、何をすれば……」
「えー、部屋で休んだり、出かけたり、遊んだり、いっぱいやることあるよ」
「あるある」
そうは言われても、私は孤児院で惰眠貪っていた者だ。特別にやることなどない。
部屋で寝ようかな。
寝ようと思いはしたものの、眠ることもできずに布団を被って、ぼんやりする。
一人で部屋にいると、なんとなく頭の中で考え事がぐるぐる回る。よくあることだ、前世から。
別に鬱って訳じゃない。
前世では。家族も友人もそれなりの関係。他人から見てどう思われるかどうかはせておき、普通で平凡な幸せを持て余した日常だった。
たまに、ほんのまれに。
他人の笑い声を酷く疎ましく感じて、耳が塞ぎたくなることがあった。彼ら彼女ら、笑っていた人々にはなんとも思っていない、ただの他人の関係。はしゃいだような、嬉々とした黄色い声が大嫌いだった。
そういう時は大抵、音楽プレイヤーなんかで耳を塞いで耐えていた。今世でそんな便利なものはない。
部屋にいても聞こえるどこかの誰かさんの楽しそうな声が心底嫌悪を抱かせ苛立ちを与えてくるのが、うざったらしくて仕方ない。
双子と一緒に外を歩いていた時は、何も感じなかったのだけどな。
いつのまにか眠れていたらしく、気がついたら窓の外は真っ黒だった。黒い中に浮かぶ黄色い丸。灯りの灯った何かと、夜でも騒がしい声。
起き抜け早々不機嫌になった。
色の観察でもしようかと思い、着替えて部屋を出ると部屋の前で小躍りする双子の姿が。
何を踊っているのだろうか。サンバだろうか。
「「あ、おはよう」」
「えぇ……貴方達は何を……?」
楽しそうなのは色を見ずともわかる。問題は少々入り混じる赤み。楽しいより狂っているに近い色がチマチマと。
「テンション上がってるだけ」
「だけ〜」
「そうですか」
よくわからない人たちだ。先程までの不機嫌さは消えてしまった。興味深くて面白い。
「ところで、私。やっぱり休日に何をすれば良いのかわからないんです。何するものなんでしょう?」
やることがないって、酷くつまらないのだなと思った。
孤児院ではそんなこと常日頃からでエブリデイ休日だった、毎日が夏休みだった。そういえば、前世の夏休みはすっごい楽しかったなぁ。
今そうじゃないのは何故なのか私にはわからない。
「休日初心者には自由にやってねは難しかったかー」
休日初心者ってなんだ。社畜であまりにも休みがない人向けの過ごし方講座だろうか。
「教えちゃおーねー」
「ねー」
仲良く二人で反響する二人。
相変わらず可愛らしい双子だ。中身が見える分私は不思議な気分になる。
「まぁ、お手柔らかにお願いします」
反応に困った私は微笑んで誤魔化すしかなかった。
次の日。僕は2人と部屋の外、廊下にいた。
「休日といえば、買い物!」
「ショッピング!」
やたらとテンションが高い二人。赤い。
あんまり赤いと快楽に浸っている相手に見えるので少し抑えて欲しい。
「どうせならあんまり仲良くない子とも一緒に行きたいね」
「仲良しになるチャンス!……でも諜報部のやつはなし」
二人で会話を進めているのを横から眺める。
見ていて飽きない色。なんて素敵なんだろうか。
「んー、……あっ」
前を歩いていたライリー…ボーイッシュな方が声を上げた。
前に小さな何かが見える。ちょこちょこ進んでいく姿は小動物のようだ。
「君は確か、調整部のチビくん」
「チビ?」
たしかに小さい。小さいが、もうちょっとネーミングセンスというものがあるだろう。背丈で見ると、小学校低学年くらいだろうか。
チビと呼ばれたその子は、こちらをみると目をまんまるにした。可愛い。両耳あたりで飛び跳ねた癖毛が特徴的だ。
色としては、なんだろうか。この団にすると珍しく色なしだろうか。色無しがこの世の大半を占めていたのだから、そんな人もいるのだろう。
しかしながら興味を持ってよくよく見ればきちんと色が見えるのだ。今回も目を凝らしてみる。
強いて言うなら黄色。珍しい。ネガティブな子なのか。
「……えっと…?」
驚いた様子で不思議そうにこちらをみる子供。
「あ、初めましてだね。僕ら財務部の者でーす」
「今日うちの部、休みでさぁ? 確かそっちもでしょ?」
「…えぇ、…そうですけど?」
戸惑ったようなその子に、二人は言葉を続ける。
「お出かけ行かない?」
「ショッピング!」
突然のナンパに困惑している模様。わかる。この二人はいつも唐突だ。
「いいですけど…その…」
オーケーはもらえたが、何か言いたいことがあるらしく、しっかり聞くと、辿々しい口調で、上司に相談せねばと話していた。
休みに出かけるのに何故上司に相談なのかと首を傾げていると、双子があの子は特別なのだと教えてくれた。
何やら珍しい種族で、外で襲われたりアジト内で連れ去られたり大変らしい。一緒に行くならきちんと見ていてくれと、通りがかった同部署の方に言われた。
無事許可がもらえたので、四人でお出かけとなった。
この子は最近入った新人で、何やら訳ありではあるけれど、優しくてよく働くのだそう。褒められて照れる姿も愛らしい。しかしながら、少々見目と中身に相違があるようにも見える。別に年齢がとんでもなく上だとか、実は腹黒とか、そこまでではないのだけれど、何か感じる違和感。
「…しらないきゃらだ」
ボソリと呟かれた声は私の耳には入らなかった。




