カラフル・アナグラム4
一体私は何をしているのだろうか。
現在進行形で商談が進んでいる。
相手方はなかなか癖の強い商人さんのようで、方言で九割ほど何を言っているのか理解できない、わからない。双子は会話ができるらしく、ぽんぽん会話が進んでいて相手がニコニコしていることだけは理解できる。
さて、腹の中はどんなもんかと目を凝らす。
楽しい赤、前向きな黒。概ね肯定的なようだ。
赤と黒だね、なんて双子に聞こえるように小さく呟く。
二人は元々頭が良いのか、飲み込みが早いのか、色チャートの暗記を数日でこなしている。色名だけで何を言っているのかわかるのだ。暗号のようだが、私からしてみればそのままのことをしゃべっているだけだ。
商人にもその呟きが聞こえたのか、小首を傾げていた。それはそうだろう。彼の目にはこの場に目立つような赤いものも黒いものも見当たらないのだ。
双子は笑って誤魔化して話を続ける。
私はその横で無表情で座っている。
出された料理には手をつけないことと言いつけられているから、飲み物一つ手に取っていない。そもそも言いつけられずとも、何が入っているかわからないから飲食したくない。
本当、何をしにきたんだかわからない。
私はただ座っているだけである。
色の観察ができるのは楽しいけれども。楽しいだけの仕事って、それは仕事なのだろうかと疑問に思ってしまう。
いや、そういう仕事もあるのだろうと自分を納得させて放置している。
話を聞いていようにも何を言っているのか理解できない。方言もそうだが、そもそも頭のいい人の会話ってよくわからないよね。
学校の休み時間、とても頭のいい子たちが宿題でもないのに笑いながら問題解いてて正気かコイツと思ったことがある。
私はそんな典型的な頭の悪い人なので理解できなくても仕方がない。
「それで、その件は……あ、ほらこれ没案件だったから、遊んでていいよ」
挙げ句の果てには、両親の仕事についてきた子供扱い。
私はそんなに幼くないのだけれど……。
渡された紙をみる。注文表のようだ。
裏は白紙。ペンなら香水瓶みたく素敵な瓶に入れられたインクと羽ペンが置いてあったが、双子の甘ロリの方が何か書いている。
紙だけで何をするか。
折り紙くらいしかやりようがない。
そういえば鶴の作り方こそわかるが、やっこさんとかバラとか風車とか折れるだろうか。作り方自体は見た記憶がある。まだ覚えているかどうかは怪しいところだ。
正方形に形を整える。手で切ったので少し不恰好になってしまった。それから思い出しながら丁寧に手を動かす。
結局バラと風車は覚えていなかった。手裏剣ができた。
色々やるのも面倒になって、折り鶴量産機と化していた。ふと視線を感じたので見ると三人がこちらを見ていることに気がついた。
「…それ何?」
「つ…あぁーっと、鳥です。鳥」
鶴といって伝わるか分からないから鳥ってことにした。
手裏剣については言及しないことにした。手投げナイフには見えないが、他に説明のしようがない。
「鳥かぁ、ここが羽で? こっちが頭ねぇ、ふむふむ、器用だねぇ」
一羽ずつ持ってくるくる回して眺める双子。ボーイッシュな方がとてもよろしい笑顔でこちらを見ている。
「これ売れるかなぁ?」
「ただの手遊びですけど」
「え、売れるよ」
レシピと色紙セットで売るそうで、今度はもう少しバリエーション作れと言われた。やっこさんの作り方と箱の作り方を教えておいた。他に何か覚えていただろうか。
今のところ思い出せそうにない。
「よしよし、今日の仕事おしまーい」
「まーい」
双子がにっこりしながら手を繋いでいる。
甘ロリの方が手を差し出してきた。
「ん!」
「ほら、手!」
何かわからず手を差し出すよう促されたので、両手を差し出す。それに満足そうな顔をした双子。ボーイッシュな方が自身の手を私の手と絡めた。
手を繋ぎたかったらしい。そうならそうと言ってくれ。
私の空気を読む能力は低い方だから、彼女らの要望に気づくことができない。
「帰ったら、食堂に行こう、ご飯ご飯」
「ばあさまにオヤツもねだろう」
オヤツ…この人たちこんなふわふわ少女みたいな絵面なのに年齢高いっぽいんだよなぁ。具体的に予想はできないが、どう見ても40、いや50以上か…?
「…何か失礼なこと考えてない?」
「いえ、別に」
余計なことは言わないに限るのだ。
「「うげっ」」
食堂は人が少なかった。中にいた青年に双子が嫌そうな声をあげた。
苦手な人だったのだろうか。ぱっと見は優しそうな青年だ。色も濁りがない。よくよく見て、観察する。どうやらポジティブな方のようだ。黒と赤の組み合わせだった。だいぶ赤が多めなので凶楽、楽しむことが大好きすぎて少しタガを外す人のようだ。
この団に入ってから赤や黒をよく見る。
思い切り人生を楽しんでいる人が多いのだろう。実際彼らは自由で楽しげで笑っているのをよく見かける。
「そんな嫌そうな顔しないでおくれよ……その子が新人くんかな?」
「話、聞かなくていいよ、あいつは変人だから」
「ばあさま、天ぷら定食二つ…えっと、君は?」
流れるように彼を否定する片方と、無視するもう片方。
本気で嫌がっているようではないと色でわかった。戯れ合いに近いのだろう。
「え、あぁ……コーンスープで」
「主食は?」
「……パン…硬いやつがいいです」
ふやかして食べるのが好き。ひたひたにして食べる。
私たちの喋る姿を眺めていた青年は、ニコニコしたままだ。
無視されても気にならないらしい。
「もう仲良しなんだね、羨ましいよ。俺のとこは、皆仲悪くて一緒にいるのなんてキャミー先生とノーズ君くらいだし」
ノーズ君なんて、俺とは仲良くしてくれないからさぁ、と呟く彼は少し寂しそうだ。
キャミーとノーズ。知らない人の名前だな。
「そうだ、名前はなんていうんだい?俺はヒサギ、諜報部の魔法使いさんだよ」
「ヒサギさん、ですか」
魔法使い、嘘をついている感じはない。マジックでもできるのか、それともスキルのことだろうか?
「嘘教えないでよ、『スキル』がちょっと特殊なだけでしょ?」
「でしょ?」
「……そういえば、双子さんの名前を聞き損ねていた気がするのですが」
「「あ」」
もう数日一緒にいるのに、名前も知らなかった。
随分と仲良くなるのが早い気がするが、双子たちの距離感の問題だろうか。
「はい、僕はライリー」
「僕、ルエレー」
ふむ、ボーイッシュな方がライリー、甘ロリの方がルエレーのようだ。どっちが上の兄弟なのか聞くと、ライリーの方だそう。
「君はドルチェちゃんでしょ?」
「えぇ、そうです」
甘ったるいお菓子見たいな名前だ。実のところ辛党なのであまり名前と合ってないと思う。




