カラフル・アナグラム3
結局、就職の話は受けることにした。
孤児院にいるにはだいぶキツイ年齢であったことや他に行く宛がなかったから丁度よかったことが主な理由だ。
あんなに素敵な色がみれるのだ。メリットは十二分にある。
それに、私が色として可視化するには何故だか条件があるらしい。その条件に当てはまる人はなかなか出会えなかった。
類は友を呼ぶと聞く、色のある人がいるかもしれない。
今まで、生命の色として青が見えることは多かったが、感情を表すような色が見えることはあまりなかった。
双子を見て、興味を持って、着いていってからそこでようやく気が付いた。色を見るにはまず興味を持つのが大切らしい。見ようと思っても、目を塞いでいたら何にも見えないのは当たり前だ。興味ないから見ないを続けていたら見たかったものが見えなくなっていた。
それに気がつけたこと自体が既に収穫なので、就職自体はとてもよいことだったのだろう。
「君は財務部所属になりましたー。ぱちぱちぱち」
「ぱちぱちー」
拍手しながら自分たちで効果音をつける双子。
可愛らしい見目ではあるが、やっぱり中身がなぁ。
「……その呆れた目線やめてよ」
「年齢は内緒ね」
「えぇ、了承してます」
急に真面目な顔をするのもやめて頂きたい。切実に反応に困る。
財務、書類仕事…計算苦手なんだよなぁ。
できるだろうかと考えていたら、二人が顔を覗き込んでいた。相変わらず綺麗な色だ。
「心配そうな顔だね」
「不安?」
どうやら何か察したらしい。顔色を見るのが得意なのだろうか。
「計算ごとは得意じゃないので」
学校では美術科目特化型だった。ポスター作りや広報の絵を描く仕事がしたい。
「平気平気、君の仕事は取引まわりだから」
は?
「相手の色読み取って、教えてよ。有効活用するから」
思いっきりコミュニケーション力が試される仕事だった。それも勘弁して欲しい。
『笑顔大事に』の接客や接待業務は計算より嫌いだ。
接客業がしたくなくてバイトやることにとんでもなく抵抗があった前世を生きていた人間に何をさせる気だ。
まぁ、断る権利はないのだけど。
「じゃあ、明日からがんばろーね」
団員はアジト内に自室がもらえるらしい。
私の部屋は双子の隣だった。
騒がしそうだ。
「まず最初の仕事は、団長に挨拶、次に色彩のチャート作ってね」
「チャート…?」
「見た色とそれは何を表しているのか表にしておいてってこと」
なかなかに厳しいことを言う。だいたいの意味を書けってことだろうが、うまく説明がつくかどうか……。
「ささ、挨拶に行こう!」
「行こー!」
楽しげな二人を眺めていたらなんとかなる気がしてきた。
なんくるないさーってやつか。
団長はかっこいい感じのおじさんだった。
強そうと阿呆で率直な感想しか思いつかない。
入団も何も手続きは紙一枚。場合によっては書かなくてもいいらしい。なんてアバウトな。
入団申請が秒で終わり、部屋に戻ってチャート作りに入る。
今まで見たことのある色で、意味が分かっているものだけ書けばいいだろう。他の色なんてそうは見ないだろうし、見たとして意味を察するまでにかなりの時間を要する。
「そもそも、色の意味ってイメージ通りとは限らないんだよなぁ…わかりにくい…」
まず一番好きな色から。
好きな色というかよく見かける色とも言う。
生命の色、青だ。
命の灯火は赤が印象深いのだろうが、私から見ると青に見える。生命感のある生き生きとした人は色艶の良い青だ。色の濃さは命の残量に見える時もある。
血はだんだん命を失い色が薄くなる。しまいには薄水色になって空気中に溶けたように消える。
次に赤、凶楽の色。喜怒哀楽の楽に近い。あまりにも色が濃いと興奮状態だったり、快楽殺人鬼が人殺す時のテンションの高さだったりするので、あまり良くない。
まぁ適度に赤いのなら丁度いい。
赤と共存しやすいのが黒、ポジティブな感情。喜びとか楽観的思考とかのことだ。
姉が良くこの色に染まっていた。
次は白。姉以外の家族が万年ずっと白かった。どうやら何かを怖がり、恐れていたらしい。対象が何かはわからない。直接聞いたこともあるが、口籠られただけだった。
ネガティブな感情を表す黄色。イメージと正反対過ぎて、最初は楽しいのかと思っていた。よくよくその色の人を観察すると気が沈んでいることがわかった。なんというか、紛らわしい。
最後に緑、滅多に見ない。一度だけ見た。意味はおそらく失望。遭遇する回数が無さ過ぎて意味が間違っている可能性も高い。予想だから仕方ない。
一通り書き終わった後、読み直してみる。
客観的にみると何言ってるんだこいつというほど矛盾したような意味の当て嵌め方だ。自分でもよくわからない。
色が混ざっていても、根本的に混ざり合うことはないから見分けはつく。本来なら色の三原色で混ざり合って色が増えるのに、混ざらないなんて不思議だろう? 私もそう思う。でもそういうものなのだと割り切らないと私のよわっちい脳味噌では理解しきれない。




