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カラフル・アナグラム1

 これは転生者さんのお話であって、カーバンクルさんのお話だけではなかったりします。カーバンクルさんも後々ちゃんと出てくる予定です。

 この話は章ごとに主軸のキャラが変わります。


 

 目の前が一面、色で染まっていた。

 淡い色、水色、サイダーのようなラムネのような爽やかさ。

 深海の寒さを忘れなかった浅瀬の色。

 水色の巨大な水溜り。

 前は酷く濃くて、むせ返るほど青かった。

 長く永く見ていた。

 きっと、自分以外の人には赤黒く見えるのだろう。それでも私にはどこまでも美しい色にしか見えなくて。

 ずっとその場から動きたくなかった。

 私の世界には色がなかった。その水溜りが色だった。

 その色さえあればどうでもよかったのに。



 その水溜りから引き離されて、やる気がなくなった。




 ずっと昔は色があった。世界はカラフルだった。

 ソレはこの世界に生まれ落ちる前のこと。

 この世界は本当にモノクロだ。何も面白くない。

 色がないって言ったって、着色されていないわけではない。

 周りのいうことだってわかるのだ。木は緑、空は青、土は茶色、血は赤。当たり前の色だってわかってる。


 ソレとは別の色が見える。

 それこそが、私の言う色。

 血は青く見える。生命の塊が青く見える。

 この色こそが今の私の世界だ。






 突然のバブちゃんプレイに発狂したくなり、目からハイライトが消えた乳児期。

 転生ガチャに失敗してなかなか面倒な家系に生まれたことを悟った幼少期。

 そして、今は前世と今世で見える世界の違いに苛まれる青年期を過ごしている。


 とある理由から孤児院に移されている私。

 今日も気怠げに孤児院の一室で惰眠を貪る。

 いつものことである。やる気が出ない。

 孤児院にいるのもそろそろ限界に近い年齢なこともあるし、いつ追い出されるかと待機しているような気分だ。その後の行くあてもない。野垂れ死ぬのがオチである。

 現実逃避がしたい。


 そんなやる気がマイナス振り切っている私にいったい何の用があるのか、来訪者がいると言われて、一人個室へ連れて行かれた。


「なぁなぁ、おじょーちゃん。聞きたいことあるんだけどいいかなー?」


「いいかなぁー?」


 いいかなも何も個室にいる時点で断らせる気がないことがわかる、なぜ聞くのか。形式美だろうか。いや、それよりも気になるのは……。

 色が飛び跳ねている。いや、飛び跳ねているのは色でなく人のようだ。

 訂正、幼なげな双子が目の前で飛び跳ねている。

 片方はお姫さまみたいな貴族のような、いわゆる甘ロリ系ファッションで、もう片方がラノベの元気な幼馴染ポジションのようなボーイッシュな服装。

 何をしているのか全く理解できないが、二人は楽しそうである。色の艶や質感、濃さで考えていることが少しわかるのだ。


 ちなみに私は、生命の色は青、ソレの残り香の血が水色として認識している。もちろん表面上は赤だとわかっているが、それと重なるようにして別の色が見えているのだ。


 転生してから少し特殊な目になったらしい。

 これは家系モノなので、この世界の特徴ともいえる『スキル』は別にある。


 それはともかく、今はこの双子のことだ。どうやら、この双子は子供ではない。


 幼なげな姿こそしているが、中身はおそらくかなり老齢。

 子供ぶっても可愛く見えない。中身がわかってしまうというのもなかなか辛いものがある。


 この双子の生命は私に色として認識されているという点でかなり珍種だ。

 私が認識できるもう一つの色は、なんの条件なのか、見えることが少ない。色のないものが大半なのだ。

 世界がモノクロに見える原因である。


 この双子はそのなんらかの条件に当てはまっているらしい。


 人生を謳歌しているとばかりの艶やかさ、それなりの経験をしたことによる色の濃さ。なんて素敵なんだろうか。


 目を丸くして見てしまう。


「……聞こえてるー?」


「るー?」


 反響したようにもう一人が喋るのは癖か何かなのだろう。


「…聞こえてます、えぇ、なんでしたか」


 いけない、返事をし忘れていた。


「あ、返事したね」


「そうだね」


 小声で二人がそう言った。確かに聞こえた。

 返事したら不味かったのだろうか、しかし返答を求めたのはそちらからだった気がするが。


「そうそう、用があるんだよ」


「だよ」


 酷く楽しそうな二人に、テンションがついていけないが、気にしない方針で。


「事件のことで、聞き取りをね」


「したいんだよ」


「事件……?」


 この時、私は本気で首を横に捻った。わからなかった。

 この双子のいう事件とは何か。孤児院内で子供たちによる事件でもあったのか、いつの間にかそれの目撃者になっていたのか、いろいろ考えはしたけれど、皆目検討もつかなかい。


 なによりも、孤児院内のことはわからないことだらけだ。

 なんせ、あらゆる出来事に関心が持てなくなった私は知人の話題や世間話に疎い。

 興味のないことを一切覚えていないので、未だに院内を迷子になることすらある。先生も他の子供の名前も覚えていない。色がなさすぎて興味が湧かなくなったのだ。

 気がついたら一人でぼーっとしていることが増えた。誰一人として話しかけにもこない。

 そんなわけで世間に詳しくなかった私にはこの双子のいう事件が何かわからなかったのだ。


 首を傾げて考え込む私に双子は驚いたようだった。

 次に呆れたような何かに失望するような表情も見せた。


「おじょーさんの家族についてね、そう、死体が一つも見つからないのに多量の血溜まりだけが残っていた事件」


 確かに、それは世間からすれば事件の内に入ることだったのかもしれないと今更ながらに思った。


「それが何か」


 死体一つ残らず美しく、それこそ水に溶かした水彩絵の具のように溶けていった家族たち。アレは綺麗だったなと思い返す。私の家族は皆溶けていった。

 唯一、姉だけは旅に出ていたので、行き先も知らないし、今どうしているのかも知らないが、生きているはず。


「……家の荒らされようから、強盗だって処理されてるけどさぁ? それって本当?」


「本当?」


 反響したように繰り返す双子に、私はなんとも言えない顔をする。意図的ではないが、結果的に私のせいだと言えなくもない。さて、どう答えたものか。



「強盗じゃあないですね、えぇ、その通りです」


「認めちゃったねぇ」


「犯人さんかー」


 双子はどうやら私を犯人だと思ったらしい。

 犯人ではないが、否定できる材料もない。逆に否定するほど証拠があるわけでもない。


「原因ではあるでしょうけど、私がやったわけではないのですが」


「「え?」」


 二人きっかり同じタイミングで同じ表情をして驚く双子に、これがシンクロなのかと珍しいものを見た気分になった。


「じゃあ誰がやったのさ?」


「いったいどういうことなのさ?」


「話す必要、ないですよね……真っ赤な方でしたよ」


 私の見えた色の中で1、2を争うほど強い赤だった。赤は凶楽の色。正直言って好きじゃない。

 他の人から見たら違う色に見えるのかもしれないが、そんなことを話してあげる義理もない。面倒ごと回避のため黙っておく。


「えー、ヒントそれだけー?」


「教えて欲しいなー」



「そもそもそんな話何に使うのですか?」


「仕事だよ」


「だよー」


 子供の見た目でも、やはり中身は大人だったらしい。

 違法労働に見えなくもない図が出来上がりそうだと思った。


「次の取引先が調べてきたら好条件に変えてくれるって」


 なんで調べて欲しかったのか、双子たちは知らないらしい。私にもなぜどんなことが知りたいのかは想像ができない。


「だいたいこれって、僕らの仕事じゃないんだよ」


「そだよ、そだよ。調整部にでもやらせればいいんだよ」


「僕ら財務部だよ、仕事が違う」


 二人は不満そうだった。

 別の仕事を押し付けられてきたらしい。




「忙しいんですね」


 それはただの相槌のつもりだった。


 しかし、その一言を皮切りに、二人はヒートアップして話し始めた。何やら、こんなことをやらされただの、取引相手が変態だっただの、愚痴ばかり。時々仕事仲間の話も混じっていて……この人たちわざわざ孤児院まで何しにきたんだろう。


「あー、喋った」


「楽しかった、また来るね、おじょーさん」


 もうこなくていい。私は口に出来なかった。口の中で言葉を転がすことしかできなかったのだ。


 少し楽しかったことが理由……いや、そうではない。色の観察が目的だ。

 そう、色が観れるのだ。それがあるなら、口煩かったり、愚痴を延々と聞く聞き手になるのもやぶさかではなかった。


 これは群像劇もどきです。もどきなのでちゃんとしてません、ご注意下さい。

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