シェリル・ボルジャーの憤怒2
本日は一話更新です。
「それでお父様? ブライアン殿下の件、どう言う事なのですか?」
伝令が立ち去った数時間後、シェリルの元には父であるボルジャー公爵が訪れていた。流石に父親である公爵に空き部屋の執務室を使うわけにはいかないので、学園長から許可を貰い応接間で話し合うことになった。
彼女は何故、こんな事態になったのか父親に根掘り葉掘り聞くつもりでいたのだが……応接間に来た父親の顔には疲労が滲んでいた。
「シェリル、済まない。事前に防ぐ事ができなかった」
そう開口一番に謝られてしまえば、シェリルもこれ以上追求する事が出来ない。大人しく父の話を聞く事に決める。
彼の話によると、ブライアンが婚約者用に割り当てられる資金を管理している文官に離職を言い渡したのが発端だったそうだ。
資金管理を担当していた文官は、毎年ブライアンの担当の侍従と共に贈答用の装束を用意し、婚約者であるアレクサンドラへ贈っていた。普段なら、この件に関してはブライアンに報告を上げず、担当の侍従と文官だけでやりとりが終わるのだが、今年は偶然担当の侍従が出払っていたらしい。
その件を引き継いだ侍従が、あろう事かブライアンへ報告したそうだ。すると、その事を聞いたブライアンは「贈らなくて良い」と侍従に命じたそうな。その伝言を聞いた文官が慌ててブライアンの元へ向かい、貴族の義務であると諭したのだが、そのやり取りが煩わしかったのか、諭した彼を「クビだ! 」と言って部屋から追い出したのだ。
ちなみにその文官は、国王陛下の名で職務をこなしているため、第一王子であるブライアンが何と言おうと職務を剥奪する権限は無いのだが、そのことすらブライアンは知らない。
シェリルはその話に耳を疑った。
「ちょっとお待ち下さいませ、お父様。今までのお姉様への贈り物は全て侍従と文官が用意していたのですか?! 」
「ああ、殿下は一度もその件に関わったことは無いそうだ。アレクサンドラが婚約者に決まった年ですら、殿下はその義務を怠り、気づいた文官が侍従が侍女長や王妃様に相談した上で贈られていたものだ。その件については、国王陛下もご存知だし、私も陛下より報告を受けて知っていた」
シェリルはその事を聞いて呆然とする。ブライアンは最低限の義務も果たせない男だったのだ。どうしてお姉さまはあんな奴のために気を揉まなくてはならないのか……そう考えた矢先、その思考を遮るかのように、公爵が話始める。
「それだけならまだ良かったのだ。だが、今年はそれで終わらなかったのだよ……」
そう、毎年王家から付与される資金から婚約者に装束を贈ってさえいれば、王家は公爵家を蔑ろにしてはいないと主張する事ができる。例えブライアンが婚約者に贈っておらず、お付きの文官や侍従が代理として贈っていたとしても……だ。
だが、今回はその後の行動が問題だった。
その件について文官の報告を聞いた上司が宰相に報告を上げている間に、ブライアンが侍従に命じてその資金を自身の執務室に持ち出して、借金返済に使用してしまったそうだ。国王が叱咤するも「婚約者のための資金を私が管理するのは当然です」と言い続け、最後には「ちゃんと返しますから大丈夫です」と胸を張って言い切るだけで、それ以外の国王の言葉には耳も貸さなかったようだ。
「その資金は借金返済に使われ無くなったと……お父様、それは横領ではありませんこと? それとも王族に生まれたお方は、『俺の物は俺の物、婚約者の物も俺の物』 とでも言うのですか? 」
「ああ、ブライアン殿下は気づいていないが……アレクサンドラのために用意された資金を私物化したのだ。勿論横領の罪に当たる」
「それが一国の王子……しかも王太子候補ですか。彼が国王に即位したらこの国も地に落ちますね」
「シェリル、言い過ぎだ。殿下があの状態だからこそ、アレクサンドラが選ばれたのだ」
第一王子であるブライアンには良識を持ち、彼を諌める事ができる者が婚約者に選ばれた。それがアレクサンドラだ。彼女は両陛下の期待通りにブライアンに忠告を述べ続けてきたのだが、残念ながら彼は聞く耳を持たない。
「実際問題、姉の言葉は殿下には伝わっていないではありませんか……と言うか、聞いてすらいませんよね? 」
彼女の言葉に一瞬顔を歪めた公爵だったが、こほんと咳払いをし、答えるつもりはないのか話をそらした。これ以上、公爵という立場ではブライアンについて迂闊な発言ができないのだ。シェリルもその事を理解しており自身が言いたかっただけで、公爵の答えが返ってくるとは思ってはいない。
シェリル本人も「言い過ぎである」ことは気づいていたが、ここまで言わないと腹の虫が治らなかったのだ。
公爵は彼女の怒りにも気づいているからこそ、落ち着かせるためにシェリルに喋らせていた。言いたい事を父親に言い、少し晴々とした顔をしている彼女に公爵は胸を撫で下ろし、本題に入る。
「ちなみに今回の件で私に国王陛下より話があるそうだ。勿論、ブライアン殿下の件についてだ。この件に関しては私から陛下に領主代行であるお前も連れていくと報告して許可をもらっている。したがって明日の午後、登城するように。この件に関しては、学園長とジェフには話を通してあるので、お前が何かする必要は無い。登城する際に必要な衣装はジェフに伝令を送り、話を付けてある。先ほどジェフから伝令が届いたのだが、衣装の件については明日の午前中に寮の自室に届けるよう手配したそうだ。それを着てくるように」
「それは決定事項ですのね?」
「ああ。そうでもしないと、納得しないだろう? 」
「ありがとうございます。お父様」
よく私のことを理解してくださっているわ、とシェリルは心の中で父に感謝をする。そして当事者であるアレクサンドラが明日の謁見の場に呼ばれていないことも聞き、彼女はホッと胸を撫で下ろす。アレクサンドラは責任感が強すぎるがために頑ななところがあり、今回シェリルたちが国王に提案することに反対する可能性があった。だからこの計画は、姉の知らないところで進めていかなくてはならない。
だが、シェリルには一つ疑問があった。明日、父である公爵は、彼女の予想では第一王子を廃嫡するようにと申し出るであろう。だが、どうやって彼を廃嫡に追い込むのか。
(まぁ、それは明日分かるわね)
一応私も何か考えておこうかしら、と頭の片隅で考えながらも、彼女は父と明日の予定について話あったのだった。
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引き続き本作をよろしくお願い致します( ´ ▽ ` )