迷える民と大金を得る男
今回は少し長くなりました。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫ではないが、ここではどうにもならない・・・。 このままでは全員が飢え死にだ。 もう子供の餓死は見たくない。 行くさ・・・。」
「すまない・・・。 お前に擦り付けるような形になって・・・。」
「気にするな。 俺らはまだ元気だ。 きっといい場所を見つけてくるさ。」
「重ねてすまん。 吉報を待っている。」
とある村の入り口で、一つの一家が村の期待を受けて旅立った。
彼らの出発した村はすでに貧困の極みになっていた上に食料が足りていない為に痩せていた。
土地の作物も僅かな実りしかない。 これでは生活が出来なかった。
税の支払いをすれば、翌日か数日中に死んでしまう事が予想できた。
そこで払う前に新天地に移る計画が数年前からあり、実行するために何組かの家族が出たが、ダメだったのだ。 今回もあまり期待が出来ないが出すことになり、旅立った一組の一家。
「お父さん!今度は私達が行くの?」
「そうだよ。 頑張ろうな。」
「あなた・・・頑張りましょう。」
「そうだな。」
子供は無邪気に楽しそうだが、妻は本当の目的を知っているからか、顔は緊張していた。
彼らの旅は始まった。 新たな新天地を求めて・・・。
<シン>
森で採集を行いながら散策をしていた。
当然、魔物にも襲われれるが、戦輪や持っている剣で倒していく。 食料になりそうな魔物は解体するために収納し、討伐証明程度しか価値のないものはそれだけとると埋めた。
「ふう・・・。 やはり保存食は必要だから干し肉の生産もしたいけど、何分人手だな。 しかし、俺の持ち金で奴隷って、買えるのか? 最悪はゴブリンの上位種を買い取ってもらうか。」
「まずは依頼の報告をした後でまた相談に行くか・・・。」
森に造った拠点にまた食料や薬草を入れていく。
肉は冷所である場所があり、そこにいれた。 薬草も干して置いた。 簡単ではあるが、畑の様な物も出来たことで栽培の簡単な野菜を育ててみている。 うまくなるかは不明だが・・・。
「報告と納品が終わったら紹介して貰えるか、頼んでみよう。 裏切られるのは嫌だからって、奴隷に逃げるのも奴隷に申し訳ないが・・・。」
「買うにしても討伐にも参加してくれる人が良いが・・・。 ガルーダさんに相談だな。 それも。」
俺は拠点予定の場所を後にして、ギルドへ。
いつものように親しくなった連中と挨拶しながらギルドの窓口へ向かう。 窓口ではほぼ馴染みとなった受付嬢のアンナの所に向かう。
「お疲れ様です。 シン様。 依頼の報告ですか?」
「ああ、あと採集と魔物討伐をしたので、それも引き取って貰いたい。 良いかな?」
「畏まりました。 では解体場へ参りましょう。」
「ああ、頼む。」
アンナの案内で解体場に案内され、これまたいつもの巨漢解体担当者の方に指示され、今回の討伐した魔物や獣、前に討伐した魔物も少し出した。 怪しまれない量の以前討伐した物を紛れ込ました。
「いつもながら大量納品だな!これは腕がなるわい!また、酒場でなにか摘まんでいろ!おい!お前ら!仕事だ!シン坊が持ってきた物を解体すぞ!」
「「「ウィース。」」」
号令であちらこちらから様々な道具を持って現れた解体係の男たちは、砂糖に群がる蟻のようにシンの未解体の魔物や獣を解体用の台の上にのせて、運んでいく光景を後ろ髪で感じながらアンナ嬢の案内で、再びギルド内へ。 俺はそのまま併設のギルド酒場で、ワインとつまみを数点頼み、カウンター席へ。
チビチビ飲んでいると、後ろから声を掛けられた。
「相変わらず一人なのか?シン。」
「ん?ああ、これはこれはハーレム男殿。 どうしました?」
「・・・。 お前、嫌味でもそれは辛いぞ?」
「でも仕方ないだろう?後ろに3人も美女や美少女を侍らしたら。」
「・・・。」
声を掛けて来たのは、ウィルという名の冒険者でシンがAランクであることを知っている少ない仲間だ。
彼の後ろには、剣士のマチルダ、魔法使いのオーラ、盗賊の少女キキがいた。 共に奴隷ではあるが、美女・美少女と言っても過言ではない程の女性がいた。 勿論、ウィルは奴隷の彼女らを仲間と思っているために暴行はしないから彼女らも彼に全幅の信頼と奉仕を持って尽くしている。
「とにかく!今日はまた納品か?」
「ああ、そういえばウィルはどこで彼女らを?」
「ん?お前も買うのか?」
「俺は裏切られているからどうしても・・・な?分かるだろ?」
「そうだな。 お前はそうだな。 ん~、俺は王都の奴隷商で買ったんだよ。 迷宮に挑みたかったんだけどさ、仲間が嫌がって潜ってくれなかったんだよ。 それでな。」
「俺はどこで買おうかな?」
「この街でもあるぞ?奴隷商館。 それにお前はガルーダさんと知り合いだろ?紹介状を貰えれば良いんじゃないのか?」
「やはりそうか・・・。 ありがとう。 相談してみるよ。」
「おう!買ったら見せてくれよ?」
「取るなよ?」
「取らねぇよ!俺はこの3人で十分だ!たく、分かっていってるお前は質が悪いな・・・。」
「まあ、見せるのは構わないさ。 でも、変な目で見るなよ?」
「まあ、その時はお前なりの打算があると思っておくよ。 おい、呼ばれているぞ?」
「ん?ああ、すまない。 情報ありがとう。 やる。」
「おっと!サンキュ!頂くぜ!」
ギルドのカウンターに向かう途中で振り返り、銀貨数枚を入れた小袋を投げてやる。
ウィルも危なげなく受け取ると、嬉しそうに小袋を振った。 そのままマスターに声を掛けているから注文をするようだった。 それを見届けると、買取のカウンターへ向かう。
「いつもながら大量の納品ありがとうございます。 状態も良い物が多く、今回も少し色を付けさせて頂きました。 それで代金は金貨12枚と銀貨40枚、銅貨20枚です。 よろしいでしょうか?」
「それで結構です。 よろしく。」
「ではこちらへ。」
チャリーン!
電子音の後でギルドカードにチャージをされた。
それから軽く挨拶をすると、ギルドを後にする。 酒場でウィルが手を振っている。 奴隷の子達も頭を下げている。 やはり女の子に甘味を与えて、自分もエールを飲んでいた。
彼らにも手を振り、外へ出た。
「シンの旦那。 今日は仕事あるかい?」
「おう。 ロビ。 済まないが、ガルーダさんの店に行って、シンが取引したいと伝えて貰えるか?」
「ガルーダさんのとこだね?良いよ。」
「頼む。」
「毎度!行ってくるよ!」
ロビは母子家庭の次男で10歳。 母と兄はそれぞれ働いているが、兄弟も4人いるために苦しい。 そこでギルド前で御用聞きをして、彼は生計を立てる事を思いついた。 しかし、当初は使うものがいない上に怖い思いをすることも多かった。 しかし、俺がこの子に用を頼むようになると、少しずつ使うようになり、回り始めた。 今では彼らとなった10名程のグループで、街の中の雑務を受け持つ様になったのだから立派だ。
「銅貨5枚程度で先ぶれや伝言が頼めるのだからありがたいね。」
よく見ると、同じようなタスキを掛けた少年少女が、街を走り回っている。
彼らも生活の為に頑張っている。
そんな事を思いながら歩いていると、前からロビが走ってきた。 伝言が終わったようだ。
「シンの旦那!伝えてきたよ!お待ちしていますって!」
「そうか。 ありがとうな。 ほら報酬だ。」
「ありがとう。 また、使ってくれよ?またね!」
後払いの銅貨を受け取り、また定位置であるギルド前に戻っていった。
俺はそのままガルーダさんの店に向かった。
店に付くと、すでに従業員の一人が待ってくれていて、声を掛けてくれた。
「シン様、ガルーダ様がお待ちです。 こちらへ。」
「お世話になります。」
案内されて商店内の奥へ。
接客室の一つに案内されると、すぐにガルーダさんが来てくれた。
「シン様。 ご来店ありがとうございます。 今日は取引がしたいとの事ですが?」
「はい。 まずはその前にこの街の奴隷商館は、冒険者の相方を勤められる者はいますか?」
「それは勿論。 仲間を奴隷からお選びに?」
「はい。 私は仲間に裏切られてしまったので、やはり・・・ね?」
「畏まりました。 紹介状を書きます。 それで悪い扱いはされないはずです。」
「ありがとうございます。 あと、いくらぐらいで買えますか?」
「そこは難しいですね・・・。 高い奴隷は金貨2万枚という者もいますから・・・。」
「流石にそれは・・・。」
「ですが、シン様の要求される冒険に耐えられるとなると、どうしても高いです。 金貨500枚は必要になるかと・・・。」
「そうですか・・・。 今回の取引というのが、ゴブリンの上位種の買取をお願いできないかと、いう事なんですが・・・。」
「・・・。 シン様。 それは本気ですか?」
俺は首肯定した。
それを見たガルーダさんは飛びつくように俺に近づいてきた。
「シン様!ぜひ!させてください!」
「あっ、ありがとうございます・・・。 でも、俺から買い取ったというのが、分からないようにしてほしいんですが・・・。」
「無論です!では、参りましょう!倉庫に案内します!」
俺はガルーダさんに引きずられていく様に倉庫に連れてこられた。
倉庫内は本当にガランとしていて、人払いもされているのか誰もいなかった。
ガルーダさんは早く見てみたいらしく、直ぐに指示を寄こした。
「シン様!倉庫中央にお願いします!」
「わっ、分かりました・・・。 よいしょ!」
「おおおっっっっ!!!」
指示を出された場所にキングとジェネラルやナイトやマジシャンを含めた10数体を出した。
その状態のよさに目の色が変わっていくが、査定が進むと暗くなっていった。
その顔を見て、どうしたのかと声を掛けてみた。
「ガルーダさん、どうしました。」
「シン様。 この度はこんな貴重な素材をお売りいただきありがとうございます。 ですが、当商会ではすべてを買取が難しいです。 申し訳ございません。 何分、金貨が・・・。」
「足りないのですか?別に後でも良いですよ?バレなければ良いので・・・。」
「そういうわけには・・・。 そうだ!当商会の小切手帳を用意します!それならお支払い出来ます!」
「小切手帳?それはどういうものですか?」
「主は私達、商会が大口の取引をする際に用いる約束手形です。 この場合はこちらの魔物の支払いが出来ない我らが、シン様に小切手を渡してシン様がそれを商店や商館、商会で購入金額を小切手に書いてその小切手を渡すと、我らがその小切手に書かれた金額を払うというものです。 今回の査定は金貨で500枚にはなるので、その分の金貨を用意が出来ません。 その代わりになるものです。」
「成程。 じゃあ、表の市場で串焼きを買った代金を店主に渡すと、後でお金がもらえるという事かな?
合っていますか?」
「その通りです。 小切手を貰った店主は、商業ギルドに持っていけば、明記された金額が貰えます。」
「凄いな・・・。 今回はそれを貰えるの?」
「はい。 不甲斐ない当商会をお許しください。」
言葉を掛けてくれながらも頭を下げるガルーダさんに恐縮する俺。
ひとまずうまく行ったようだった。
「シン様。 この度は大変良い取引をさせて頂きました。 またのお越しをお待ちしております。」
「ガルーダさん、紹介状もありがとう。 これから向かうよ。」
ガルーダさん達に見送られながら、商館に向けてすすむ。
腹が減ったので、肉を挟んだサンドイッチを売っているおばちゃんとワインを売っているおじさんに試しとばかりに小切手を言われた金額を書き、渡す。
二人共、少し驚いていたが、受け取ってくれた。 ちゃんと使えるようだ。
買ったものを食べながら商館へ。
商館は立派な建物だった。
「これは・・・大きいな。」
「はい。 それはもう。 奴隷を始め、職員も住んでおりますれば。 して、何の御用でしょうか?」
「商館のかた?奴隷を見たいんだけど・・・。」
「どなたかの紹介でしょうか?」
「あっ、はい。 これです。」
「拝見します。 ・・・なるほど、畏まりました。 どうぞお入り下さい。」
「どうも。」
表に会った男性の案内で商館へ入る。
そのまま面談室の様な部屋に通される。 そこで改めて挨拶をされた。
「改めまして・・当商館の主、カーディと申します。 今日はよろしくお願いします。 シン様。」
「私の事も知っているんですか?」
「はい。 紹介状に書いてありました。 ご希望は冒険者も出来る女性でよろしいですか?」
「はい。 それでお願いします。」
「畏まりました。」
主が去り、紹介するために退室した。
これから相棒になるかもしれない奴隷と面談する。
少し緊張する時間が過ぎていくのであった。
<ある一家>
村から出て、森の中に入って数日が経ち、いよいよ大変になった。
新天地はすぐに分かる場所には、作れない。 そうなれば、森の中になる。 それも辿り着かない様な深い森の中。 しかし、当然だが、強い魔物もいるそんな中で探した。
本当にそんなところがあるのだろうか・・・?
そんな事を考えていると、木の根や岩に隠れた入り口らしきものを見つけた。
それは横歩きであれば、進める狭い道だが奥へと続いている。
「ここはもしかしたら・・・あり得るか?」
「あなた、見つかったの?」
「パパ?」
「ひとまず奥へ行こう・・・。」
そのまま進んだ。
そして進んだ先にあったのは、やはり探していた場所だった。
少し捜索をすると、明らかに人為的に建てられた建物があり、入ることも出来た。
建物内は4人で十分過ごせる広さがあり、食べ物もあった。
悪いとも思ったが、干し肉に食らいついた。 もう数日は水しか飲んでいないからだ。
妻も子も齧った。 そうして人心地すると、旅に疲れからか全員で眠ってしまった。
何時間か分からないくらいたった後で、声がする。
「あの、大丈夫ですか?」
この声が一族が助かる福音であることに気が付くのはもう少し後になる・・・。