悲しみの中に産まれる希望
帰ってきた隠れ里でゆったりと過ごしていた。 当然捕虜になった2人も。
ただ、2人の今の状態は天と地ほど違っている。
騎士殿はというと・・・
「お前たち!その程度で獣人の戦士を、亜人の戦士と名乗る気か?!これくらいなら普人の騎士の方が強いぞ!気合を入れろ!気合を!!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「おらぁ!そこ!ダレるな!引き締めろっ!!!」
「はい!すいません!!」
絶賛、訓練場と化した休耕地にて、亜人の若者たちを扱いていた。
当然だが、最初は亜人の若者たちも追い出そうとしたが、彼はそこで決闘を提案し、若者たちは受け入れた。 が、結果はそこにいた全員が叩きのめされるという結果に・・・。
「ここまで立ち向かえなかった・・・。」
「こんなに差があるなんて・・・。」
「ほう?では、ワシが訓練をつけてやろう。 やるか?」
「「「やります!!!」」」」
彼らは向上心は高かった。
その為に降って湧いた様に優秀な騎士が来た。 当然、指導力も高い彼を見逃すはずもなく、彼らは指南を願った。 彼も捕虜生活の余りある時間の使い道を得た彼は、すべての技術を教え込むくらいの気合で彼らを扱いた。 毎日、泥だらけになる戦士たち。 だが、彼らはそれを嫌がらなかった。 それも性別問わず。
その指導は今までとは違い、かなりきついモノになったが、彼らはその吐き出す汗や血がとても有意義なものとして、訓練に臨んだ。
その結果はまだでないが、確実に彼らの技術向上には貢献していた。
一方、姫将殿はといえば、最初の祖国の裏切りが尾を引いていた。
自身の女性としての幸せを諦め、私情すら捨ててまで奉仕した数年間を無にされた事から立ち直れないでいた。 立ち直らなければと、思えば思う程に伝えられた事実が胸に刺さる・・・。
私は・・・私は。 本当に必要とされずにいたのか・・・?誰か・・・誰か教えてくれ・・・。
彼女は自分の生きる意味を見失っていた。
守役の騎士殿のように人生経験があれば、切り替えも出来たであろうが、彼女はまだ若かった事が災いしてしまい、立ち直りが出来ずにいた。
「姫様の様子は?」
「・・・。 引きこもっておられます・・・。 ですが、まだ立ち直るきっかけが・・・。」
「うむ・・・。」
彼女の立ち直りに苦慮している所に里近隣の巡回の話が来た。
普段は里の戦士が担当するが、今回は彼女も行く事に。
「私に何の価値が・・・。」
「そういわずに。 姫、少しは外に出ませんと・・・。 まあ、国でもしていた事ですから平気でございましょう?行ってらっしゃいませ。」
「うむ・・・。 分かった。 行ってくる。」
彼女を含む戦士は5人。
ダークエルフの30代の男性をリーダーにして、若い男女のダークエルフの若者と獣人の女性弓師、ドワーフの男性と彼女の5人。
討伐自体は順調に進み、あと少しで予定の捜索を終わらせようとした時、弓師の女性が声を上げる。
「ん?!何か大きな獣が近づいてくる!構えて!」
「なに?!全員、戦闘態勢!」
「「「おう」」」
全員がそれぞれの得物を構えて、彼女の弓を構える先を警戒する。
徐々に草木を踏みしめる音が、枝葉や木を押し倒す音になり、とうとう相手の全貌が明らかになる。
「フォレストボアの亜種だぁ!!」
「避けろ!」
リーダーの指示で一斉に左右に避けるが、逃げ遅れたドワーフの男性が跳ね飛ばされた。
走り抜けるボアに弓師の矢がボアの右目を撃ち抜いた。
ピギィィィィィ!!!!!
撃ち抜かれたボアの亜種は、片目を撃ち抜かれた相手である弓師を狙う。
獣人特有の俊敏さで避けるが、ボアは諦めない。
暴れ狂うボアは取り囲んでいるリーダーたちを薙ぎ払っていく・・・。
「くそう!手が届かねぇ!」
「おい!弓は?!」
「走り回っている相手を撃ち抜けるわけないでしょ!少しでも良いから止めて!」
「無理だ!くそう!信号弾だ!信号弾を上げろ!」
盾役のドワーフの男性は、まだ失神している。 その中で弓師の女性が、信号弾を上げる。 里の見張り台から見える様に打ち上げる。 これで応援が来るはずだ。 それまでは4人で立ち向かわなければいけないが、彼女は自身の剣を掴んだまま、引き抜けていなかった。
突然に訪れた危機に固まってしまったからだ。 普段ならすぐに対応できた事だが、今までの絶望ですべての行動が出来なかった。
「あっ、あああ・・・どっ、どうすれば・・・・。」
「おい!客人!危ない!」
「えっ?」
彼女が気が付いた時は、すでにボアは彼女に狙いを定めた。 それに気が付いたリーダーの男性が彼女を突き飛ばすが、その代わりに彼が突撃を受けて、近くの気に叩きつけられてしまう。
「ぐはっ!」
「「リーダー!!」」
「あ、ああ・・・。」
「くっ、撤退しろ・・・。 俺は・・・置いていけ・・・。」
「そんな!」
「そんな事・・・出来ません!」
「時間がないんだ・・・いそ・・・げ・・・。」
リーダーが傷ついた体を引きずって、立ち上がる。
他の隊員が彼を守る様に立ちふさがるが、姫将は助けられた状態のままで動けずにいた。
しかし、彼女以外の隊員は傷ついた体を引きずって、リーダーの前に立った。 気絶していたドワーフの男性もハンマーを構えている。
助けなきゃ・・・皆・・・皆、死んじゃう!
「うっ、うぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
彼女がとうとう剣を抜く。
踏み込みで一気に彼らの前に立ち、そのまま突進するボアに向かっていく。
自身の保身を考えていない踏み込みからの斬撃は、片方の牙を切り落とした。 しかし、獣は再び引き返して、彼女に襲い掛かる。
彼女も再び立ち向かい、刃を振るった。
「うらぁぁぁぁぁ!!!!」
ピギィィィィィ!!!!
斬り上げた彼女の一撃は、ボアの右前足を斬り落とすことに成功する。
前脚の踏ん張りが効かなくなった事で、そのまま地面にめり込む様に滑っていき、ひっくり返ってしまう。 しかし、それは好機だった。
「うああああっっっっっ!!!!」
彼女はひっくり返ったボアの顎下から剣を突き刺した。 当然だが、熱い皮がそれを阻む。 だが、彼女は全体重を乗せ、そこから剣の根元まで突き刺す。 しかし、断末魔の声と共にボアがその活動を止める。 周りにいる者もそのまま力尽き、座り込んでしまう。
「やったのか・・・?」
「そうみたいだよ・・・。 客人のお陰でね・・・。」
「ははっ、マジかよ・・・。 でも、動けねぇ・・・。」
「あたいもだよ。」
獣人の女性とダークエルフの男性が話している。 女性の方は目の前の状況に頭が追いついておらず、座り込んでいた。 リーダーもフラフラしながらも彼女の元に行き、彼女に声を掛ける。
「姫将殿・・・、あなたのお陰で我らは助かりました。 感謝を。」
「私は・・・。」
「おーい!大丈夫かぁ!!」
「救援が来たようだ・・・。 俺は・・少し休む・・・。」
「「「「隊長!!」」」」
姫将を含む全員が、救援が来た事で失神してしまう。
救援に来た自警団員たちによって、彼らは里に帰還した。 その獲物であるボアの亜種と共に。
彼らが意識を取り戻したのは翌日の夕方であった・・・。




