新天地③
年度末が近づきました。
進級や卒業、入学と進路が分かれていきますが、それ以外の人も気持ちが不安定になりがちです。
コロナ禍の卒業や入学は、保護者も不安がありますよね。
新しい環境の切り替えと今現在の環境内での不安解消は、人によってはかなりのものがありますよね?
KYも今、苦労しております。 誰か打開策がありましたら、お教え願えないでしょうか?
隠れ里の生活はとても居心地の良い物になっている。
自警団のお陰で、危険なモンスターは到達する前に討伐され、食料や素材になる。
換金部位は、シンに渡されてギルドで換金後に里で必要な道具や物資になり、生活に潤いを与えている。
シンの石鹸も里の一部で生産が開始され、今では一定量の生産能力を維持した状態でそれらも里に恵みを齎せていた。
「里の生活も落ち着いて何よりです。」
「ありがとうございます。 シン殿のご尽力のお陰です。」
「生産状況はどうですか?」
「はい。 手すきの者を当てていましたが、やはり専業の者を・・・と、考えております。 今の所は一回で20から30くらいは生産が出来ます。」
「それはありがとうございます!少しずつで良いので、良い品をお願いします!」
「無論です。 シン殿から頂いた恩、必ずやお返しします。」
「・・・いや、そこは・・・別に良いです・・・。」
「?」
石鹸の生産を担当していた長老の一人が、首を傾げていた。
シンの意図が見えず、長年の経験からひとまず突っ込まずに様子を見ることした。
里での状況はうまく行っていた。 石鹸や魔物の討伐部位、薬草やその他の工芸品や手芸品等で大いに潤った。 生産品も石鹸を始め、シャンプーやリンスも少量ながら生産が始まった。 それ以外の換金製品も生産出来始めたことでより一層安定したものとなった。
「主様。 里の者より新しい住居の提供がありました。 見に行かれますか?」
「えっ?ヤニス?どういう事?」
「はい。 長老さん達より主様の新しい住居が出来たことを聞きまして・・・。 それで報告をと。」
「・・・そうなんだ。 でも、どこに?」
「はい。 最初の住居より奥に行った所だそうで・・・。 行きますか?」
「ああ、行こう。」
「こちらです。」
ヤニスに案内されるまま、たどり着いた場所には少し大きめな建物が建っていた。
そこは今までの様な間に合わせで作ったような小屋ではなく、材木を組んで建てたログハウスの様な立派なもので、それまでの小屋は移築されて倉庫になった。
建っている屋敷は他の家から見ても大きかった。 最低でも2軒分は。
「こんな立派な家を貰っても良いの?」
「・・・多分。」
「村長に言われてきたの?」
「はい・・・。 主様の小屋を移築して倉庫として使うからと言われまして・・・。 代わりの家を用意したので、引っ越して欲しいと言われました・・・。」
「・・・そうですか・・・。 とりあえず中を見るか・・・。」
「はい・・・。 分かりました。」
引っ越し予定のログハウスは、入り口を開けると、そこには大きなダイニングテーブルが。
奥には浴室とトイレがあり、キッチンもダイニングテーブルに背中を向ける形である。 入り口左奥には浴室とトイレを隠すように回り階段があり、二階へと続いていた。
「二階もあるのか・・・?」
「そこは主様の執務室兼作業室と三つの個室だそうです。 豪華ですね・・・。 あと、二階の階段奥には屋根裏部屋に行く階段があるそうで・・・。」
「それは・・・至れり尽くせりだね・・・。 凄い・・・。」
「あと、滞在中は二名のお手伝いさんを配置してくれるようで・・・。」
「それはそれは・・・。 感謝しかないね・・・。」
「はい・・・。」
引っ越しは元々少なかった荷物の為にすぐに終わった。
彼らの手伝いの女性達によって、掃除が行なわれてこの領地の統治官としての役割は果たせそうなくらい立派だった。
そして、そのまま過ごすことに。
「シン様。 ヤニス様。 お茶を入れました。 どうぞ。」
「「ありがとう。」」
奉仕される事に慣れていないヤニスは表情が硬い。
欠くいう自分もあまり慣れていないのだが・・・。 それでも里での執務というより皆からの相談や引き渡し品を受け取ってという仕事をして過ごした。
その後で領主様の街で清算をしに向かう。 街に着くと、いつものように商店主たちと会話をしながらギルドへ向かう。
ギルドに着くと、いつものように迎えられる。
「シン様。 ヤニス様。 ようこそギルドへ。」
「やあ、また買取を頼むよ。」
「はい。 いつもありがとうございます。 では解体場へ。」
受付嬢の案内で解体場へ案内される。
解体場で預かった大量の討伐部位や素材、肉を納品する。
出された納入品を仕分けをしていく職員さん達。
「大量に納品ありがとうございます。 仕分けに時間がかかるので、お待ちいただけますか?」
「ええ、勿論です。 出来ましたら呼んでください。」
「はい。 またお呼びします。」
俺はヤニスを連れて、ギルド併設の酒場に向かう。
酒場は昼頃であるにも関わらず、冒険者達が酔っぱらっており、その空気だけでも酔いそうな感じで何人も飲んでいた。
「おっ?そこにいるのは、シンじゃねぇかよ!どうよ?景気は?」
「ボチボチだよ。 そっちは?」
「俺かい?それなりよ!おう!そういえばよ!あの森でよぉ、お前らの事を探してる連中がいたぞ?」
「俺を?名前はわかる?」
「そこは必要ないだろうよ。 お前の元居たパーティーの三人だよ。」
「あいつらが?どうしてだ?」
「そこは多分、お前さんの森の家を探してんじゃねぇか?男爵領から引き揚げてきた連中が、森の中のなにかを探す依頼を受けた奴がいるって、聞いたからよ。 多分そうだぜ?」
「そうか・・・。 ありがとうな。」
「へっへっ、ありがとうよ。 また飲めるぜ!」
話を聞けた酔っ払い冒険者に銀貨数枚入った巾着を投げて渡す。
そして、そのままカウンターへ向かう。 カウンターで飲み物を注文する。 注文を受けたマスターが用意をしているうちに思案を巡らす。
普段と違う顔にヤニスが心配そうな顔で声を掛けてきた。
「主様・・・。 やはり・・・お仲間の方ですか?」
「ん?ああ、そうだな・・・。 あまり会いたくない・・・というか、今でも笑顔で会う事すらありえないくらいの裏切りをした連中だよ。」
「!!! では、もしかして・・・!」
「多分だけど、彼らが捜索隊だね。 そうなると、彼らが男爵の依頼を受けたんだと思う。」
「では、どうされますか?」
「いらいの清算が終わったら、ひとまず戻ろう。 前以上に警戒しながらね?」
「畏まりました。」
それから間もなくして、呼び出されて提出した素材等の計算が終わった事で、代金を受け取り、焦らないようにして里を目指した。
道中は気配を消し、警戒しながら進んだ。 出来るだけ急いで進んだが、ひとまずは他の冒険者や昔の仲間にも発見されることなく、里に着いた。 里に着くと、直ぐに監視小屋に登る。
小屋にはダークエルフの男女の戦士とドワーフの戦士の三人がいた。
「シン殿ではないですか。 どうされました?」
「残念な報告だ。 街でここの里を見つけ出そうとしている連中がいる事が分かった。 どうやら隣の男爵の差し金という事も。」
「!!・・・本当ですか?」
「残念だが、本当だ。 その連中も俺の昔の仲間だ。 そいつらはすでに首が回らないくらいに借財をしている。 達成しようとするだろうよ・・・。」
「・・・。 それはですが、どこまで警戒すればよろしいでしょうか?」
「別れてからどの程度の実力を付けたかは分からない・・・。 まずは擬装は念入りにと監視の交代の際に気配探知か獣人の配置を頼みたい。 それから里の外で活動する際は、必ず三名以上で行動してもらいたい。 頼めるか?」
「勿論です。 ですが、発見した際はいかがしますか?我らでは対応できるか怪しいですが・・・。」
「倒す必要も相対する必要もありません。」
「?・・・ではどうなさるのですか?」
「あとは付けられない様にはして下さい。 斥候をしていた私がいないので、剣士の男から逃れれば、逃げ切れます。 最悪、狩りと採集を一時的に辞めても平気ですか?」
「そうですねぇ・・・。 狩りは問題はありません。 余剰分は干し肉や燻製、塩漬けにしています。 採集は・・・なんとか2週間ほどなら・・・。 その分を里内の畑の作業に振り分けます。 それでどうでしょうか?」
「十分です。 彼らは2週間も居れません。 金欠なので。」
「分かりました。 ひとまず今日だけは良いですか?薬草の株を採りに行っている5人グループがいますので・・・。」
「スイマセン。 よろしく。」
アラン達の件もあるので、数日はこの隠れ里のお屋敷にいる事を決めた。
彼らがここを見つける事はほぼ出来ないとは思うが、用心に越したことはない・・・。
里では、ひとまずの買い込んでいた屋台売りしていた食料を半分ほど払い出した。 それでも100キロ近くはあるが・・・。
「これだけ出せば、少しは足しになる?」
「・・・いえ、十分です・・・。 ありがとうございます・・・。」
「すげぇ・・・これだけあれば・・・どれくらい生活できるんだ?」
「おまえ・・・それも予想付かないのに言っているんかよ・・・俺も知らんけど・・・。」
「何をグズグズしておる!シン殿のくださった物をダメにする気か?!早う運ばんか!」
「「「「はいぃぃぃぃ!!!!」」」」
運搬要員として集まってきた獣人の若者は、族長に怒鳴られて大慌てで目の前に積まれた食べ物や薬草の束をそれぞれの倉庫に向けて、歩き出した。 その光景を見ていた他の種族の男性も手伝い始め、スープはそのまま囲炉裏にかけられた。
「ひとまずは里に籠って、監視をしよう。」
「はい。 主様。」
それからは俺は里の見回りや監視小屋を見て回ったりした。 森の探索にも参加しようとしたが、獣人やダークエルフの戦士たちに遠慮するように頼まれた。
やはりそういった所は、スキルがあっても生来のモノには勝てないらしく、苦笑いされながら言われた事で下がった。
しかし、それからは色々な報告が来た。
「男爵領の森入り口付近に例の3人、発見。 熊に追われていました。」
「あの3人さん。 蜘蛛の罠にはまって、神官さんが怪我をした。」
「魔法使いの姉ちゃんが、むきになって魔法撃ち捲ったらトロールを怒らせた。」
「剣士の人が狼の子供を虐めていたら、親狼達に追いかけ回されていた。」
上がってくるのは、かつての仲間の醜態の数々。
前までの彼らならどうにかできた事が、今は手を焼いているようだった。
「ここの入り口の魔物なら彼らでも対応が出来そうだけど・・・。」
「そうなのですか?彼らを見つけた方々の話では、動きに精細に欠けているように見えたとか・・・。」
「可笑しいな・・・?アランの奴は剣技の大会の優勝者だし、あの2人もそれぞれの道ではトップクラスの実力なんだけど・・・。」
「そうですか?あと、言いにくい事ですが・・・。」
「ん?何?」
「あの・・・睦言で言われてもと、思いまして・・・。 もう少し私を見ていて欲しい・・・です。」
「あっ、御免!」
今自分自身はヤニスと褥を共にしていた。
朝起きた際に聞いた話をそのまましていた事を忘れていたからヤニスに苦言を呈された。
怒ってはいないが、不満はある様で釘を刺された。
すぐに謝ったが、やはり視線をそらしてしまった・・・。
「ヤニス、すまん・・・。」
「知りません・・・。」
その後、なんとか許してもらい、再び同衾してもらえる権利を守り通した。
彼女自身もそこまで嫌いになっていなかったらしく、再び眠りにつく頃には少し触りしても許してくれるくらいになった。
「許してくれてありがとうな。」
「許しているわけではないですよ?主様。」
「えっ?許してくれた訳ではないの?!」
「それは・・・少し困らせた方が・・・向いて貰えるかと・・・思いまして・・・///。」
なに?この可愛い動物は・・・。
ヤニスは自分の意見を言った後で、恥ずかしさのあまりにかけていた毛布を被ってしまう。
それでも自分の事を気にしてくれる主思いの頭を撫でている自分がいる・・・。
かつての仲間ではありえないことだった。
しかし、夜が明けた後にも追加の報告が来たが、どれもかつての仲間の醜態か、捜索の困難さを知るものだった。
「やつら・・・苦労してんなぁ・・・。」
「主様を捨てられた罰です。 いい気味です。」
「それは・・・とはいえ、あそこでこれだとここまでたどり着けるか?」
「多分、無理でしょうな!」
「ロビさん、お疲れ様です。 やはりそうですか・・・。」
「はい!我らの接近にも気が付かない上に、魔物の妨害を排除できない彼らはここに着けません。 それにシン殿に申し付けられた通りに偽装工作も念入りにしておりますので、より一層発見しずらくなっていますのでな!がっはっはっはっ!!」
「そうですか・・・。」
対策がうまく行っている為か、ロビさんもどことなく嬉しそうだ。
その後も3人はかなり頑張って捜索したみたいだが、里の発見すらできないようで結局、魔物の討伐位しか成果がない状態で、男爵領に帰還して行った。
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