安寧を害する者
遅れました。 時間が取れずに更新が出来ませんでした。
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シンが隠れ里の皆と生活基盤を頑張って構築している頃、かなり苦しい立場に追いやられているメンバーがいる。
シンを切り捨てたアラン・マリア・セラの三人だ。
彼らはシンが抜けてから資金的にも、物理的にも援助を得られない状況になっているにも関わらず、いまだにそこを切り替えられずにいた。
しかし、その結果が依頼を多く受けているのにも関わらずに常に金欠状態であり、新規加入組の二人の伝手で借財をしている状態だ。 その借金も総額はすでに金貨二桁台の単位にまで膨れ上がっているが、返し切る保証はどこにもなく、ひたすら借財を繰り返していた。
「アラン!どうするの?!借金が増える一方よ!」
「うるせぇな!お前らがシャンプーやリンスとかいうモノを買い捲っているからだろうが!」
「それは聞き捨てなりません!女性にとって大切な事です!」
「五月蝿いわ!そこを無くせば、楽になるわ!」
「「それをいうならあなたの高い酒と女遊びを辞めなさい!!」」
言い争いは平行線のまま。
互いに高額であったり、歓心を得るためのモノを購入したりと、散財を続けていた。
彼女達が気にしている美容も、彼が欲している酒や女も、稼ぎが続かないためにアランは欲した酒を飲むことは出来ず、安酒やエールを飲んでいる。 マリアたちもシン謹製の物を使用したのはかなり前で今は冒険者御用達の物を使用している整髪料を使用していた。 当然だが、少し纏まりは無くなって来ていたのだが、それを気にしてもいられなかった。 何より借財の返済を迫られていたからだ。
「あの~、アラン様、マリア様、セラ様。 話し合いは良いんですが、いつから返してくれますかぁ?」
「いや、そのぉ~な。 もう少し待てねぇか?」
「何言ってるんですかぁ?待ちましたよぉ~。 いい加減にしてくれます?一体、いくらになってると思います?そちらこそいい加減にして貰えます?」
「仲間だろ?なっ?」
「はぁ~。 話になりません。 でもまあ、それもそうですね。 少し相談してみます。 ですが、もし猶予が出ても多分、契約が入りますよ?それは断れませんが、良いですね?」
「「「ああ、勿論!」」」
「分かりました・・・。 交渉してきます。」
離れる手前で振り返り、3人にすごく大変な交渉をするような顔つきで言質を取る少女。
3人は渡りに船と言わんばかりに答えてしまう。 それを聞いてため息のような声を漏らした後に彼らから見えない所で口元が緩む。
良い感じにハマった・・・。 これからもう少し払い出してからグルグル巻きにして、逆らえない状態にして・・・駒に仕込まないとね・・・。 シンさんがいなくなった所で切り替えれば、大変だったけどやはり贅沢を知ると、出られないよね・・・チョロい。
あどけない顔をした少女の顔とは思えない表情した彼女は、同じ様に送り込まれたもう一人の男に視線を送ってから元の顔に戻り、交渉の為に離れていく。
「あの方々はもう無理であろうな・・・。 良い駒にされるしかないな・・・。」
残った男の独り言は、3人には聞こえない様な声で消えていく・・・。
逃れられない見えない糸が彼らを捉え、逃げられないようになり始めている・・・。 しかし、彼らはそれに気づいていない・・・。 自身の、自分自身が駒にされる事を・・・。
彼らはその後で交渉してきたという少女の持ってきた魔法紙の契約書をあまり確認しないでサインをしてしまうのであった。
「はい!それでは契約は成立です!契約の見返り金の3人様へ金貨3枚です!どうぞ!」
「すまんな。」「「ありがとうね。」」
「いえいえ、有効にお使いください!では!」
3枚の契約書を筒にしまった少女は、契約の報酬のお金を3人に渡すと、どこかへ持っていく。
普段と変わらない顔で戻ってくる・・・。
これで駒の完成・・・。 彼らはもう逃げられない・・・。 ふふふっ。
3人は・・・逃れられない所まで来てしまった・・・。
本人たちは気が付いていない上に貰ったお金に目がいっている。
この契約から彼らの苦難の道が始まった・・・。
「おい、マジかよ・・・。」
「疲れた・・・死ぬ。」
「なにしてるんですか!次の依頼をしに行きますよ!ほら!立って!」
「おいおい・・・さっきので4つ目だったろ?休ませろよ・・・。」
「何言ってるんですか!契約ですよ!しなければ、全額直ぐに払ってください!」
「いや、それは・・・。」
「流石にあの額は・・・ねぇ?」
「ならこちらの依頼をこなしてください!」
「分かったよ・・・行くから・・・怒鳴るなよ・・・。」
3人は年下のメンバーに追い立てられるように立って、依頼をこなすために移動を開始した。
依頼は貴族からのものであり、報酬も多いが、大変な依頼や面倒なものが多い。
しかし、彼らは先に結んだ契約で断る事が出来ない。 それも自身らの身から出た錆だが。
彼らは宿とある程度のランクの食事は用意された状態で、貴族からの依頼をこなす生活をしている。 依頼料の大半は返済に回され、行動にも制限があり、自由には動けない。
契約書の力で抗えない。
「ちきしょう・・・このままじゃあ・・・俺らは・・・くそぉ・・・。」
「でも、どうするのよ?契約の関係で依頼の延長じゃないと、動けないわよ?」
「そこでこれなんかどうだ?」
一枚の依頼書を出して話す。
そこにはとある森の捜索・報告の依頼書が。
依頼書を見た二人は不思議そうにアランの返した。
「この依頼に何か?」
「大ありだ。 この依頼主の貴族の隣が子爵家なんだが、最近になって税収が良くなったらしい。 それも急激に。 おかしくないか?」
「そうね・・・。 税収が増えるという事は、収穫物が多く取れるとか、特産品が出来たとかだけど、それだと徐々にか、すぐに場所が特定されるよね?」
「そうですね。 特定がされていないとなると、怪しいモノを扱っているかですが・・・。」
「「これになんか引っかかるの?」」
「ああ、少し調べたらしくてな。 どうやらあいつの造っていたモノがここで売られているらしい。 しかも別物で。 どうだ?興味は涌いたろ?」
「もしかしたらシンがこの子爵領のどこかに?」
「見つけてうまく行けば、あたしたちの借金も・・・いや!前みたいな生活が出来るかも?!」
「どうだ?行く気になったろ?」
「「行く!!!」」
三人は、その足で依頼を受けて件の男爵領へと向かう馬車に乗り込んだ。
彼らの中では依頼は完遂しており、男爵家とシンから金をせしめている自分らの姿しかなかった。
しかし、彼らは分かっていなかった。 捜索する森は高ランクモンスターもいる危険な森であり、シン達のいる隠れ里には、たどり着くには明らかに情報が足りない事に。
彼らがそれに気づくのは、捜索を始めて引き返すことが出来ないあたりであった・・・。
馬車は一路、男爵領へ向かう。
馬車が街道を過ぎ、領地に入ると道は悪路に変わる。 整備が行き届いていないからだ。 当然、乗り上げた後で落ちれば、衝撃は直に来る。 女性陣の二人は御者にクレームを付けた。
「痛っ!ちょっと!もう少し丁寧に操縦してよ!」
「そうよ!男爵領に入ってから運転荒いわよ!」
「すまんねぇ。 男爵領は資金が足りないから領内の道の整備が出来ていないんだよ。 隣の子爵様はそうじゃないんだけどねぇ。 諦めてくんな。」
「ありえない!つうか、払えるの?依頼料?」
「知るか!ひとまず行ってみりゃあ、分かるだろ!」
アランも道の悪路ぶりにヘキヘキしていた。
何はともあれ男爵に会って、依頼を確認して森を捜索してシンを捕まえないといけない。 出来なかったら自分らは詰む・・・。
その気持ちが先走っている為か、外の景色も目に入っていなかった・・・。
明らかに依頼書に書かれているような大金を払えるような状態でない街の景色が広がっていたのだが、分からないまま過ぎていく・・・。
「俺らはここで終わるわけにはいかねぇ・・・。 シンの野郎から金をむしり取って、俺は・・・俺は」
「アランの奴、怖いんだけど・・・。」
「そうですねぇ・・・。 ですが、男爵領のお膝元なのに寂れてません?」
「知らないわよ・・・。 どんな形でもお金が貰えれば。」
三人様々な思惑を胸に馬車は領内の停留所に辿り着いた。
街の中心の停留所付近には、普通は栄えているが、この男爵領はその限りではなかった。
民は覇気がなく、地面に座っていた。 商売をしている者も覇気はなく、呼び込みもしていない。 置いてある品物も形が歪な上に数が少ない。
少し面を食らった3人だったが、そこへ衛兵の格好をした2人組が声を掛けてきた。
「おい!お前らはどこから来た?!理由如何によっては、尋問をする!」
「特に女は念入りにな。 ヒヒヒっ。」
「きもっ。」
「変態です。」
女性2人はこれで最低の評価をした。
実際問題、衛兵たちは明らかに勤勉とは言えない様な状態だった。 よく見れば、他の衛兵も待機所で酒を飲んでいるような者までいた。
しかし、アラン達はそれよりも依頼人に会う事を優先することにした。
「俺らは男爵様の依頼を受けに来た冒険者だ。 男爵様の居るのはどこに行けば良い?変な事を考えるなよな?場合によっては、報告するからな?」
「ちっ!旦那の客かよ・・・。 分かったよ!案内する。 ついてこい。」
「おい、ここの警護は良いのかよ?」
「心配ねぇさ。 ここにいる奴らでも大丈夫さ。 どうせ、騒ぎは起きねえよ。 俺らが起こさない限りはな・・・。」
「・・・そうか。」
「ついて来な。 旦那の所に連れて行ってやるよ。」
「ああ・・・。」
不良衛兵に案内され、領主舘へと向かう。
道々ですれ違う民や商人は、衛兵が通ると道を開けて避けていく。 その目は明らかに怯えがあった。 道に子供の姿もあるが、楽しくしている様子はない。 活気というモノは見えない。
アラン達も支払い能力がある様には見えなかった。
「ここの領主は大丈夫かよ・・・?」
「それはわからないわ。 でも、もう進むしかないよ。 アラン。」
「ああ、まずは面会だな。」
領主舘の門から館へと続く庭を歩く3人を見ている男がいた。
脂肪でボールの様になったお腹を抱え、豪華さのみの服を着た男。 この領地の長、男爵様その人だ。
彼は近くにいる老執事に問いかけた。
「あ奴らが私の金ヅルを探してくる者達か?」
「男爵様、捜索をされる方です。 誤解なきよう・・・。」
「代わらんさ。 見つからなければ、報酬は出さん。 最悪はここいらの危険モンスターでも狩らせるという方法もあるか・・・?」
「そちらは随意に・・・。」
「ひとまずは迎えてやろう・・・。 準備を。」
「はっ。」
アラン達は使用人の出迎えで屋敷へ。
応接室でくつろいでいると、メイドがお茶とビスケットのようなモノを置いて出て行った。
居なくなった所でマリアがアランに声を掛ける。
「アラン、これは報酬は渋られそうよ?街とここでは全然違う。 これは面倒な事になるからそのつもりでいた方がいいわ。」
「面倒?」
「街は活気がないが、館内は豪華そのもの。 これは善政をしいている風には見えないもの。 税金を絞るだけ取っていると思っている方が良い。 同じ貴族だから分かるわ。」
「そうか。 だが、もう引き返せねぇ・・・。 やるしかねぇ。」
「そうね・・・わかったわ。 まずは依頼を確認しましょ。 依頼人はまだかしら?」
「ですね。 ですが待つしかありません。」
「お待たせいたしました。 主様がお会いになられます。 ご同行をお願いいたします。」
愚痴が出始めた頃にノック音の後で入室してきた老執事が、会釈ののちにこちらに準備が出来たことを伝えてきた。 その後で彼に案内され、領主の執務室へと案内される。
「主様。 お連れしました。」
「入れ!」
「失礼します。」
扉を開けると、やはり悪趣味のようなギラギラした調度品に囲まれた中に依頼人がいた。
派手に装飾された革張りの椅子に豚と言ってもおかしくない男が座っていた。 これが依頼人だという事は理解した。
「待たせてすまんな。 ここの管理を任されておる。 まずは依頼だが、我が領地と接する形で森が広がっている。 どうやらその中に隠れ里があるらしいという話が来た。 それを確認するのが今回の依頼となる。 良いな?」
「依頼はわかりました。 しかし、その隠れ里は本当にあるのですか?確認されましたか?」
「このワシが嘘をついているとでも?まあ、よい。 それの存在を確認するのが今回の依頼だ。 当然だがな。 ありませんでしたはない。 確認しろ。 それが確認が出来なければ、報酬はなしだ。 分かったかな?分かったならば、行け。 私は忙しい。 良い結果だけを待っておる。 出ていけ。」
依頼人の貴族の豚はそれだけをいうと、老執事に命じて退室を促した。
執事に促されるまま、館を後にした。
門から出る手前で老執事が声を掛けてきた。
「アラン様、マリア様、セラ様。 この度は来て頂きありがとうございます。 ひとまず街の宿の一つに部屋を御用意しました。 そちらを拠点に活動をお願いします。 魔物の間引きもして頂けると、助かります。 買取はギルドで出来ますので、よろしくお願いします。」
「ああ、分かったよ。 それでそこの料理は旨いのか?酒は?」
「シャワーはあるの?綺麗じゃないと嫌よ?」
「香油はありますか?流石にそのままではちょっと・・・。」
「そうですな・・・。 食事は街の食堂よりはおいしいと思います。 酒は・・・普通です。 シャワーは掃除は行き届いているはずです。 香油はありませんので、ご自身の物を使用されるのがよろしいかと思われます。」
「「「分かりました。 失礼します。」」」
「良き日になる事をお祈りいたしております・・・。」
老執事に礼を言うと、執事は深々と頭を下げてくれた。
執事に見送られ、宿に目指した。
数分ほどで宿に就いたが、王都の宿から比べたら比べ物にならないくらいぼろかった・・・。
「マジか・・・。 ここ?」
「そう・・・みたい・・・。」
「何かでそうですね・・・。」
「しかし、行こう。 紹介だから悪い扱いはしないはずだ。」
「そうね。 行きましょう。」
「はい。」
宿屋に入ると、気怠そうにしている中年女性が机に肘をついて座っていた。
女性は俺らに気が付き、話しかけてきた。
「ん?客かい?いらっしゃい。 泊まりかい?」
「ああ、男爵家から連絡がいっているとは思うが・・・。」
「あんたらかい・・・。 きてるよ。 ひとまず7日分だがね。 それ以降は実費で頼めるかい?」
「分かったよ。 まあ、途中経過も報告があるからその時に追加を頼むさ。」
「そうかい?そうしておくれ。 どうする?食事にするかい?」
「いや、まずは少しふらつくよ。 部屋を教えてくれ。」
「あいよ。 階段を上がって一番奥から3つがあんたら用の部屋だよ。 部屋割はそっちで決めな。」
「ああ。」
女性から鍵を3つ貰い、部屋割も手前からアラン・セラ・マリアの順で決まった。
1時間ほどして3人して宿から出て街に出た。 しかし、街はやはり寂れていた。 店は開いている所もあるが、殆どが開店休業状態らしくその従業員も無気力な姿勢で応対していた。
「おい、この串焼きいくらだ?」
「あ?買ってくれるのか?1本銅貨5枚だ。」
「高っ!串焼きで?!」
「ここでは仕入れにも販売にも税金がかかるんだよ・・・。 だからこの値段なんだよ。 どうする?」
「・・・。 買おう。 3本くれ。」
「分かった。 ありがとうよ。」
店主はアランの注文通りに3本の串焼きを焼き始める。 その最中も視線を感じた。
視線は子供だった。 孤児ではないが、食事が食べられていないらしく、声を掛けてきた。
「お兄ちゃん、一口で良いから食べさせて・・・。」
「食べられてないのか?」
「お父さんもお母さんも仕事がなくて・・・だから食べれないの・・・。」
「そうか・・・。」
「焼きあがったけど、どうする?」
「子供にあげてくれ・・・。」
「ありがとう・・・お兄ちゃん・・・。」
アラン達は逃げる様に串焼きを子供に渡すと、宿屋に逃げ戻った。
そのまま部屋に戻った。 男爵領の惨状が目に見えて分かったからだ。 子供が満足とは言えないまでも食事は食べられているのが、当たり前の王都ではありえないことだ。
「ここはヤバいな・・・。 仕事もしても多分、無給だ。 ギルドへの納品もしよう。」
「そうね。 きっとそうなる。 狩りをしながら捜索しましょう。」
「そうですね。 それ以前に教会は何をしているんでしょうか?あんな状態を放置とは・・・。 信じられません!王都に帰ったら報告しないとです!」
「まずは明日だ・・・。 今日はこのまま食堂の飯を食ったら寝よう。」
「「分かりました。」」
しかし、宿の食事もあまり具の入っていないスープと雑穀入りのライ麦パン3個という料理に閉口した。
市場が寂れているのだから宿の食事が寂れているのは仕方がないのだが、アラン達はそこに気が付かなかった。 貴族の紹介だからもう少し良い物が出ると、思い込んでいたから・・・。
「明日だ。 明日に見つけてやる・・・。 そして、借金を返して・・・自由を。」
アラン達はまだ見ぬシンの隠れ里と紙に書かれた餅を現実のものにしようと見積もって、眠りについた。
しかし、シンの隠れ里は近づいても分からないようになっているし、里には狭い道を進まないといけない為に余計に辿り着きづらい。 それどころか、貴族が素直に支払う気がない事を無視した計画だった事を棚に上げていた。
シンの彼らとの再会もそう遠くない時間で実現してしまうのであったが、まだこの時は互いにその事には気が付かないでいる・・・。
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