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小悪魔の悩み

人によってはグロテスクと感じるかもしれない表現があります。ご了承下さい。

チュンチュン チュンチュン


朝になった。

スズメの鳴く声と母親の俺を起こす為の大きな声。この2つの声が俺の朝の始まりだ。


高校生にもなって親に起こしてもらうことを甘えだの言う人がいる。それはその通りだ。

でもこんなことをして貰えるのも今のうちだと俺は思う。大人になって家を出たら嫌でも自分で起きないといけなくなるのだから、今ぐらい親の恩恵を受けてもいいじゃないか。そう思い俺は今日も頼るのだ。


いつも通り自転車で学校までひとっ走り。このクソ暑い中ご苦労さん。自分にそう語りかける。

食堂前の自販機で買ったジュースは教室に着く前に飲み干してしまう。空になったペットボトルを片手に教室に入ると。昨日はいなかった女性の影があった。


「おはよー!佐藤くーん!」


笑顔で手を振ってくる彼女に俺は反射的に目を逸らしてしまう。教室でこういうことをされるのが1番困るんだ。落ち着こう。そう言い聞かせるも、目が泳ぎまくるのは避けられなかった。


「おはよう…」

俺は前髪を触りながら一言そう伝えた。


「昨日は連絡ありがとうね。心配してくれてるんだーって思ったらすごく嬉しかった」


ニコッと微笑みながらそう話す彼女に、俺はまた反射的に目を逸らす。


「ねーねー、今日もまた電話しようよお」


口角を左に上げながら俺の腕を突いてくる彼女。え、電話ってそんな毎日するものなの?


「今日は学校に来てるんだから学校で話せばいいじゃん」

「それは勿論話すよ。でも私は夜も佐藤君と話したいの!ほら、夜に電話ってすごく良くない?」

頬杖をつきながらニヤニヤする小悪魔。良いって何がだ…。俺は返事を返さなかった。

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン


「はい、じゃあ今日の授業は終わり。気をつけて帰れよー」

先生の話が終わるのと同時に号令がかかる。


ここからは部活に行く者、友達と遊びに行く者、そのまま帰る者と様々だ。ちなみに俺はそのまま帰る。


「終わったー!佐藤くーん、帰ろー!」


うーん、と大きく両腕をあげる彼女。そう、小悪魔も一緒なのだが…。


お互い部活に入っていないせいか、俺は小悪魔と一緒に帰ることが多くなった。友達が多い彼女だから、毎日という訳ではないが…。


ルンルンという効果音が聞こえてきそうなくらい、何故か彼女はご機嫌だった。今にでもスキップしそうなぐらいに。


「何かすごくご機嫌そうだね」

俺の言葉に反応した彼女は、んー?とこちらに顔を向ける。


「当たり前じゃん。だって今日も佐藤君と電話出来るし」

まるで俺が承諾したかのような具合に話す彼女。俺はそんなこと一言も言ってない。


「俺はそんなこと一言も言ってない」

…また声に出てしまった。


「うん、言ってなかったねえ。でも断ってもないじゃん」


「うっ、それは…」


彼女は俺のあの無視を承諾の意思表示と無理矢理解釈したのだろう。無理矢理すぎるが。


「決定だね!これ以上の反論は受け付けませんのでw それじゃあまた夜にね!ばいばーい!」


そう言うと彼女は手を振りながら俺とは逆方向に走っていった。


何か最近すごく彼女に振り回されてるように感じるな…。だが不思議なことに、俺はそこに嫌悪感を抱くことはなかった。なぜだろう…考えてみたけどその理由に気付くことはなかった。



22時を過ぎた頃、突然電話が鳴った。不意な着信音に驚いたが、相手は見当がついていた。やはり小悪魔からだった。


「はい、もしもし」

「あ、佐藤君?私だよ!驚いた?」

「突然だったからね、そりゃ驚くよ」

俺がそう言うとあははと笑いだす彼女。

「佐藤君が驚いてるとこ見たかったなーw」

電話の向こうでニヤニヤしてるところが想像出来た。俺はあえて返事はしなかった。


そうして彼女と話をして1時間ぐらい経った時だった。話題が尽きて少し沈黙していた俺達だったが、小悪魔が先に口を開いた。


「これは友達の話なんだけど、聞いてくれるかな?」


空気が少し変わった気がした。神妙な面持ちの彼女が浮かぶ。何の話だろう…。俺は聞くことにした。


「友達にね、心の病気の子がいるんだよ。原因は家族とか、友達とかなんだろうけど、ちょっとしたことが引き金になって頭がおかしくなるんだって。今は病院にも通ってるらしいんだけど、なかなか治らないんだって。その子のこと、私心配でさ…」


心の病気とはなんだろう。何かしらの障害だろうか。こういうのは環境が大きく影響するって聞いたことがある。家族や友達関係と言っていたが、そういうことだろう。


「そんな子がいるんだ。それは本当に可哀想だね。きっとストレスを多く抱えてしまう子なんだろうね」


「うん。それでさ、その子おかしくなってたまに切っちゃうんだって」


切る?何のことだろう。


「何を?」


俺がそう聞くと、少しの沈黙が訪れた。そして彼女は一言こう言った。


「…手首」


…え?どういうこと?つまり…リストカットってこと?例え赤の他人のことでもこういう話に慣れていなかった俺は、酷く混乱してしまった。


「そんな子がいるんだ。本当に可哀想だね。でもそんなこと絶対しちゃダメだと思う」

冷静を装いなんとか会話を繋ぐ。心の中は荒れ狂っているが。


「私もそう思う…。でもやめられないみたい」


…そうか…。やめられるならやめてるよな。見たことも話したこともない子だけど、こんな話を聞いてしまったら気になって仕方がなかった。


「俺で良かったらまた話聞くよ。白石さんも1人で溜め込まないでね」


「ありがとう…また相談させて頂きます…」


泣きそうな声の彼女。まさか彼女からこんな話を聞くとは思わなかった。俺が知ってるこの子は明るくて、元気で、悩みなんてない。そんな子だったからだ。


「もう遅いし、今日はもう寝ようか」

衝撃すぎて頭が完全に追いついていなかった俺は、正直ゆっくり頭を整理したかった。


「あっそうだね。…佐藤君、今日はありがとう。すごく気持ちが楽になった。こんな話、佐藤君にしか出来なくて…。本当にありがとう。じゃあまた明日。おやすみなさい」

電話切った瞬間、大きく息を吐いた。

色んな人がいるんだなぁ…。


新しい世界を知ってしまった俺は、頭が興奮してベッドに入ってもなかなか寝ることが出来なかった。

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