小悪魔と初デート
ふぅ…疲れた…
6時間目の授業が終わった。今日も今日とて睡魔との熱き闘い。そして昨日は夜遅くまでゲームをしていたせいでその闘いは更に激しさを増していた。
さて、帰ったらまたゲームの続きだ。
そう思って席を立とうとした時、
「さーとーうくんっ」
隣から自分を呼ぶ声。その相手は勿論分かっている。
「ねえ!聞いてるの!佐藤君ってば!」
小悪魔だ。
俺に何の用だろう…。嫌な予感がする…彼女と関わると、何かロクでもないことが起きる。そんな気がする。実際この前は彼女の昼食に付き合って当然遅刻。2人揃って先生に怒られたんだ。
「…どうしたの?」
「あたしさあ、今日お母さん帰ってくるの遅くて晩御飯無いんだよね」
「はあ、まあそれは気の毒だな。まあこの辺
なら飯屋は色々あるし………」
俺がそこまで言ったところで、
「はいそこで!佐藤君には今から私の食事に付き合うことを命じます!いいですね?」
……え?何で?何でそうなるの?
「…え?何で?何でそうなるの?」
…声に出てしまった。
「何でって……佐藤君とご飯食べたいって思ったからだけど…それに佐藤君暇そうだし」
「別に暇なんかじゃ…」
「…暇だよね?顔に書いてある」
確かに暇だった。
「でも白石さんなら他に誘う人いるでしょ」
「友達はみんな部活で忙しいの!それにこの前の昼休みだって一緒に食べたかったのに、佐藤君が逃げたせいでそれどころじゃなくなったじゃん!」
それを言われちゃこっちとしては反論できない。俺が狼狽の色を見せたところで、
「はいじゃあ決まり!じゃあ校門前で集合ね!私職員室に用あるから先行ってて!それじゃ!」
こっちが何かを言う隙を見せてはくれなかった。小悪魔はそう言い残すと颯爽と立ち去って行った。
…………………
教室で立ち尽くす他なかった。
また面倒なことになったな…。小悪魔と2人きりでご飯とは。うーん、そうは言ったものの何を話せばいいだろうか…。
まあ…仕方ない、校門まで行くか…。
重い足取りの中、俺は教室を出た。
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「おーい!佐藤くーん!早く早く!」
彼女は既に校門前で待っていた。
「ごめんごめん」自転車を押しながら彼女に近づく。
「遅いよ、何にしてたの?まあいいや、じゃあ行こっか!」
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小悪魔と出会った時から、俺はひとつ気になることがあった。それは彼女がいつも左手に付けているリストバンドのことだ。普通リストバンドは運動中に付けるものだよな。
「白石さんっていつもリストバンド付けてるよね」
「…えっ、あ、これのこと?」彼女は少し左手をあげる。
「うん、そうだよ。気に入ってるの?」
「あー……うん、まあ、そうだよ。こういうのって気に入ってると所構わず付けたくならない?」
「そういうものかな?」
「…うん、そういうものだよ」
彼女の様子に少し違和感を感じたが、特に気に留めることはなかった。
「…あ!佐藤君!ここにしようよ!」
小悪魔が指差したのはファミレス。俺たちはここに入ることにした。
「学校帰りにファミレスで友達と駄弁る。青春だよね〜!」
小悪魔は嬉しそうな表情を浮かべている。
確かに…高校生って感じがする。正直俺もこういうシチュエーションには憧れていた。
それに……。友達、か。彼女は俺のことを友達として認識してくれているのか。
高校生活…。ちょっとはクラスにも慣れてきたし、話せる人も出来た。でも、こうやって一緒に遊べる人はまだいなかったんだよな…。
「ささっ、入ろうよ!私お腹空いたんだよ〜」
「…そうだね、僕は今なら何だって食べれるよ」
「うそー!言ったね〜?これは大食い対決だっ!」
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あれから何時間経っただろうか。時間は一瞬で過ぎていった。
何話そうかと不安だったが、案外話せるものだ。と言っても大半は小悪魔の話を聞いてるだけだったが…。
時計を見ると既に21時を越えていた。ぼちぼちお開きだな。
「そろそろ帰ろっか」
「え…あ!ほんとだ!もうこんな時間!時間って一瞬だね〜」
同じことを考えていたらしい。会計を済ませ、俺たちを店を出た。
ここからだと彼女とは逆方向なので、俺たちはここでお別れとなる。
「それじゃあまたね。気をつけて」
「うん、佐藤君もね」
ガチャッ 自転車を走らそうとする俺に、
「佐藤君!」
小悪魔が呼び止めた。
「今日はありがとう。デート、とっても楽しかった」
「うん…って、いやいや!デートじゃないし!」
「あ、そうだねw ごめんごめんw あははっ……あ、そういや…私知らないや」
「え…何を?」
「ラインだよ、ラ・イ・ン。私たちまだ交換してなかったよね。良かったら交換しようよ!」
「ああ…そうだったね。じゃあ…交換しようか」
そういや高校入ってライン交換するのは初めてだ。しかも女の子とだなんて…。
俺はちょっとした高揚感に包まれた。
「ありがとー!またラインするね〜。じゃあ今度こそバイバイ!また学校でね!」
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(今日はありがとう。デート、とっても楽しかった)
自転車を走らせながら、彼女の言葉を思い出す。そしてこう思った。
俺も…楽しかった。もしかしたら、彼女以上に。
…小悪魔、か。
なぜか心臓辺りがモヤモヤした。