小悪魔と鬼ごっこ
キーンコーンカーンコーン
入学式からはや一週間が経過した。そして睡魔と格闘していた4時間目もようやく終わりを告げた。長かった、やっと昼休みの時間だ。
授業中の50分とゲームをしている時の50分ではどうしてこんなにも時間の過ぎ方が違うのだろうか。本当に時計は均等に進んでるのだろうか。時々疑問に思う。
授業は退屈だ。特に数学。小学校の時から算数が苦手だった。それは中学、高校と進んでも何一つ変わることはなかった。脳みそが拒否しているのが分かる。国語とか歴史は比較的好きなんだが…。文系脳は本当に苦労する。
さて、昼休みだが……今日も一緒に昼食を食べてくれる人がいない。いや決してぼっちという訳ではない。人見知りの俺だがなんとか田中君という休み時間に会話をするクラスメイトぐらいは出来た。
ただまあ…せっかく仲良くなった子には別のグループが存在するというだけのこと。そういうこともある。
食堂に行くか…
…食堂は良い。孤独が許される数少ない空間だ。うちの食堂には窓際に並べられたぼっち専用(勝手にそう呼んでいる)の1人席が存在するのだが、そこには行き場を失くしたぼっち達が我も我もと集うのである。俺もその有象無象の1人なのだが…。
そしてある日の昼休み。その日も窓際にぼっちは集う。その光景を見て俺はふと思った。
「ぼっちは、ぼっちとて、ぼっちではない」…と…。
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食堂に向かっていた俺だったが、
ダダダダダッ
(なんだこの音…)
振り向くと、後ろからドタバタと走ってくる人がいた。
「佐藤く〜〜〜〜〜〜ん!!」
その人間とは俺がこの学校で最も警戒している、そう…小悪魔女子こと白石だった。
「うわっ…!」
こっちに向かって走ってくる小悪魔に対して、俺は本能的に走り出してしまった。
追いかけてきたら逃げる…。これは人間の反応として当然のように感じた。
「おぉ〜い!何で逃げるの〜!?……待てぇ〜〜〜い!!」
こうして俺と小悪魔の鬼ごっこが始まった。
何分走っただろう…中学は野球部の俺だ。体力にはそこそこ自信があった。なのに…小悪魔は譲らない。付いてくる。それどころか徐々にその差を詰めていった…。
「ハァハァ…ハァハァ…つ〜か〜まーえたっ!って…なんで逃げるの!ばか!」
よく考えると最もだった。
「だって…追いかけてきたから…」
「そりゃ追いかけるよ!だって一緒にご飯食べようと思ったんだから!」
「へ…?」
「ご!は!ん!佐藤君お昼休みになったらいつもどっか行くじゃん!だから一緒に食べようと思ったのに!もー!」
ちょっと怒っていた。そりゃそうだ。だってこの子は俺と昼ご飯を食べたかっただけなんだから…。
理由を知らなかったとはいえ…ちょっと悪いことをしたな。
「ごめん…そんなことだとは思ってなくて…」
「もう…いいよ。だって、今から一緒に食べてくれるでしょ?」
まあ…ここまでさせておいて断れないよな。
「うん、分かった。食べよう」
「やったー!食べよう食べよう!佐藤君弁当じゃないよね?食堂行こっか!」
「そうだね、行こうか」
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「めっちゃ走ったから食堂が遠いねw」
「はい、すみません…」
「あー!走ったからお腹空いたなー!」
「はい、すみません…」
こんな会話を続けていた時だった。
キーンコーンカーンコーン
「「あっ……」」
昼休みは終わってしまったらしい。
「鳴っちゃったね…」
「はい…」
「私お弁当あるんだよね…そうだ!罰として私が食べ終わるまで付き合うこと!いいよね!」
思いっきり顔を近づけてくる彼女。
「はい、すみません…」
こうして、あっという間の昼休みが終わった。