姿形が違って何が悪い。生きる為にするべき事は同じだ。
魔族に焦点を向けたダークファンタジー。
考えさせられるちょっぴり切ない物語です。
「エターナルブレイドォォー!!!」
「セイクリッド・アロー!!」
「彼の者に聖なる裁きを…ジャッジメント!」
『%#¥@*:;/¥@%#%@¥#%@#%!!!!!!!!!!』
3名の放った技が全身が薄黒く眼球が真っ黒に染まった者に当たると眩い光に包まれた。
辺りが光で視界は白くなる中で、技の衝撃音とその黒き者の叫ぶ声が響き、ドシャッと音がする。
そして光が消えていき現状が露わになる。
横たわる黒き者
そしてキズだらけでフラつきながらも何とか立っている3名
横たわる黒き者から濃い紫色の液体がドクドクと流れその液体は黒き者を中心に大きな水溜まりが出来た。
この濃い紫色の液体が黒き者の血なのだろう。
「やった…のか…?」
「ああ!やった!!倒したんだ!魔王を俺らで倒したんだ!!今夜は宴だ!」
「安心するのはまだ早いわよ!魔王を倒したからって魔族が滅んだわけじゃないのよ。魔族を滅ぼすまで安心したらダーメ!!」
そんな会話をするのは剣使いと弓使いの男、そして魔道士の女の3人パーティだ。
「でもさ!俺らはこれで街に帰ったら世界を救った勇者だ!ってみんなから讃えられるんだぜ!!コレって本当にスゲーよ!
剣の勇者エヴァン!弓の勇者アルク!賢者マルーナ!なんて呼ばれたりすっかなー!!ハッハッハ!」
「なんで私だけ勇者が付かないのよ!!はぁ、でも本当呆れた人ね。エヴァンってば疲れ知らずなの?私はもうクタクタよ。早く街に帰りましょ。」
「こんな凄い事にしたんだからな!疲れだって吹っ飛ぶわ!!よし!そうだな!帰って王様に報告だ!」
高笑いをしながらウルサイ剣使いのエヴァンとそれを正す呆れ顔の魔道士マルーナ、疲れからか終始口を開かず見守る弓使いのアルク達は王座の間から魔王城と呼ばれる建造物から出口へ向かう為イキイキとした様子で出て行った。
世にはびこる魔族とゆう名の人害の生物の王の根城。
魔族は古来より豚や牛等の家畜を喰らいそして人を喰う。
人間は人喰いと恐れ駆除する為に長年争い続けた。そして今日、何百年と王として君臨した人害の王が人間の手に敗れた。
さて、ココは魔王城。
勇者と呼ばれる予定の3人が城を出る頃、王座の間の柱の影からガタガタと身体を震わせ、
1歩づつユックリと血の池に倒れる魔王の側に歩み寄る小さな魔族の子供が出てきた。
「$※€£〆…? $※€£〆!?」
(お父さん…?お父さん!?)
血の池に倒れる魔王の亡骸にすがりつき何度もお父さんと叫ぶが、既に事切れた魔王からの返答はなくただただ泣きじゃくる魔族の子供あらため魔王の子供。
「※※※※ーーーーーーーーー」
(ああああーーーーーーーーーー!!!!!)
魔王の子供は魔王の亡骸にしがみつき悲しみ、憎しみ、怒りなどの感情が爆発し、涙が溢れながらも声にならない雄叫びを上げ、魔王の子供から真っ黒な霧の様な瘴気がゴォォと爆発するように溢れ出た。
魔王と同格もしくはそれ以上の力を秘める者が覚醒する時に起こる現象である。
だが今覚醒しても父は還らない。ますます悲しみが込み上げそのまま朝まで泣き続けた。
いつの間にか寝てしまい夢を見ていた。父が死ぬ間際に叫んだ言葉が夢の中でフラッシュバックする。
『%#¥@*:;/¥@%#%@¥#%@#%!!!!!!!!!!』
(絶対に出てくるなダグディス!!!!!!!!!)
ハッ!としてガバッと飛び起きる。
全て夢であってくれと願いながら眼を開けた。
父の亡骸と父の血に濡れた自分を隙間から覗く朝日に照らされている。
(お父さん…。守ってくれてありがとう。僕はもう泣かない!)
父に最後の別れを告げたダグディスは父を殺したあの3人が父を殺した後に何を話していたのか、なぜ父は殺されなければならなかったのか、何故人間は魔族と違い殺した者を食べずに命を粗末にするのか。普通の魔族とは少し違った純粋な心を持つ魔族の子供ダグディスは復讐をするなど考える前にまずは人間について調べようと思ったのだった。
「&$£€※......................………………」
(まずは人間の事を調べる為には人間の言葉を理解しないと…。でもどうやって勉強したらいいんだろう。そうだ、あの人なら知っているかもしれない。)
そしてダグディスは魔王城から西にある森の中心の沼地周辺に向かった。
向かう途中には殺された仲間の無残な亡骸が何体も転がっていた。
ダグディスの事をよく面倒見てくれたガーゴイル兵、大好きだった家政婦のハーピーさん。みんなみんなダグディスにとって大好きな仲間であり家族であった。
涙が勝手に溢れてきて、流れそうなところを上を向いて自分に、
(僕が必ずみんなを守るんだ!だから泣くな!頑張れダグディス!みんなのために頑張れ!)
沼地に着くまで何度も何度も繰り返して自分に語りかけて涙を堪えた。
沼地に着き大きく息を吸い込み
「アストラスおばさーん!!」
と叫んだ。
すると空気が歪み、そこに無かったはずの小さな小屋が現れる。
小屋の中に入ると、黒装束の真っ赤な眼をした女性が椅子に座っていた。
「アストラスおばさん!無事で良かった!」
「無事で良かったのはこっちのセリフだよ…本当に…よかった…。」
アストラスは涙を一筋流し、飛びついてきたダグディスを強く強く抱きしめた。
「い、いたいよ!それよりもアストラスおばさん!僕に人間の言葉を教えて欲しいんだ!」
「何だっていきなり憎い人間の言葉なんか。人間の言葉は私にもよくは分からないさ。でも1つ方法はあるよ。その変わり中々の難題になると思うけどいいのかい?」
「いい!なんだってやる!」
「わかったよ。着いて来なさい。」
にこりとダグディスに微笑み床下の扉を開け地下に続く階段を降りる2人。
そしてそこには1つの牢屋があった。
隅にはボロ布を纏った痩せ細った少女がいた。
歳の頃は人間で言えば5、6歳位だろうか。
ちなみにダグディスは人間でいえば10歳程である。
「ここの沼地にね、たまに人間を捨てていく人間がいるのさ。こいつは最近捨てられてね、痩せ過ぎて食べようにも不味そうだから餌をあげて太らせようと思ってここに連れて来たのさ。」
「人間が人間を捨てる!?なんで!?酷いよ!」
驚きを隠せないダグディスは眼を見開き少女をジッと見つめる。
「そんなの下等生物のやる事なんか私にもわからないさ。ただこれだけは言えるね。人間は容赦ない最悪の生き物さ。
それよりもコイツもこっちの言葉は解らないだろう?お互いにある程度は言葉を理解する必要があるって事さ。それにコイツ震えてばかりで一言も喋らないのさ。だから相当な難題だって事。それでもやってみるかい?」
「うん。」
アストラスの顔をみて深く頷いた。
ギィィと錆び付いた重い鉄格子を開け少女に歩み寄り少女の前にしゃがみ込み手を差し伸べるダグディスに少女はガタガタと震えてうっすらと涙を浮かべる。
「仲間にそんな酷い事をされて辛かったよね。僕はそんな酷い事はしないって約束するよ。」
ニッコリと微笑み少女の手を掴み少々強引にだが立ち上がらせた。
少女からしたら何を喋っていたかも解らない言葉だが言葉には温かみがあり、自然と震えが小さくなっていた。
ダグディスはそのまま少女の手を掴み階段を上がり、少女を椅子に座らせアストラスにご飯を頼むと、アストラスは豚の肉を焼いてくれた。
ぐぅぅ…
と少女のお腹から空腹音が部屋に響くと少女は赤面して下を向いた。
アストラスとダグディスは空腹音で笑い、少しの緊張感が漂う空気が和やかになった。
少女の目の前にこんがりと焼けて程よく油の滴る美味しそうな豚肉の塊が出てきて少女はゴクリと今にも溢れそうなヨダレをゴクリと飲み込む。
「さぁ!食べて!」
と両手を皿に向けて広げ、ニッコリと少女に微笑むダグディスの様子に言葉は解らないが食べていい事を理解する少女は数日間何も食べていなかったのだろう、あまりの空腹に負けてガッと両手で肉を掴みガツガツと必死になって食べ始めた。
涙が枯れるのでは無いかと思うほどに延々と泣きながら貪りつく少女の食べている肉は何も味付けをしていないのに自分の涙で程よく塩気の効いた、今までに無い感動を与えるものになったのだった。
泣きながらも食べる手を止めない少女の様子をダグディスは目に涙を浮かべ微笑みながら食べ終わるまで何も喋らず見続けた。
(人間だって魔族だってお腹が空けば食べる。なにも違わないじゃ無いか…。)
ダグディスの心に人間に対する少しの変化を与えた瞬間だった。
食べ終わると自分の目の前には魔族の子供と自分を捕らえ閉じ込めた女魔族がいる事を再認識し急にまた怖くなり下を向きブルブルと小刻みに震え始める。食べる事に夢中になって忘れかけた感情がまた戻ったのだ。
「アストラスおばさんありがとう!まずは何から聞こうかな?」
「いいのさ。ダグディスの頼みだからね。まずはコイツの名前を聞いたらどうだい?名前があるのか解らないけど。」
少女にこっちを向いてと話しかけると言葉は伝わらないが、何かを喋っている事を認識は出来る。少女は恐る恐る下を向いていた顔を上げた。
「$&€£※&$£..............?」
(僕の名前は、ダグディス。君は?)
「な、なに…?」
初めて開いた口からはか細く消えてしまいそうな声だった。
言葉の壁はデカく何度も繰り返し同じ事を聞くダグディスだが理解の出来ない少女はただただ困るしか出来ないでいた。
そこでジェスチャーを付けて伝えてみたらどうかとアストラスに言われたダグディスは自分を指差した後に少女を指差してユックリと同じ事を言ってみた。
「あ…なた…とわ…たし?」
初めて違う反応のあった事に感激したダグディスは何度か同じ事を繰り返し、自分を指差して名前だけを言ってみた。
「&※〆€...&※〆€...&※〆€!」
(ダグディス、ダグディス、ダグディス!)
「ダ…グディ…ス…?お名前を…言っている…の?」
少女の口からやっとダグディスの名前が出てきて感激したダグディスはテンションが上がり飛び跳ねたい気持ちを抑えながら首を大きく縦に振った。
「&※〆€!$‘}々?」
(ダグディス!君は?)
そして再度指を自分に向けた後に少女を指差す。
「私は、ジェリス!」
少女も同じように自分を指を指して、名前を言ってみる。
「名前を言ったのかな!?」
「さぁねぇ?もう一度聞いてごらんよ?」
再確認の為にその後数回同じやりとりを繰り返して、少女と魔族の2人の子供はお互いに自分を指を指して、名前を言い合うとゆう不思議な現象が起きている。長い時間名前を知る為に費やし、気付けば夕方になっていた。ダグディスが少女の反応があるたびに満面の笑みで喜ぶものだから自然と少女の恐怖心は溶け、2人は笑顔で自分の名前を呼び続けていた。
子供とは凄いものである。種族は違えど、あっとゆう間に仲良くなれる魔法を持っているのだから。
少女にダグディスは指を向け「ジェリス!」と何度も呼ぶと少女はその逆にダグディスに指を向けて「ダグディス!」と呼び続けた。
日も沈む頃お互いの名前を認識した頃には、恐怖と緊張で少女は椅子に座ったままいつのまにか寝てしまっていた。
「寝ちゃったね。」
「そのまま寝かしておやり。」
そして寝ている少女にそっと毛皮で作った毛布を掛けて、アストラスとダグディスはたわいの無い会話をした後に眠りについた。
この時はまだ知らなかった。
アストラスの企みがある事を…。