表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『カギ』×『ハコ』 00

作者: 6‐ナイロン

之に使えそうなキャラを思いついたらメッセージでも感想でもいいので送って下さい。

この設定を使って色々やりたい、っていう言う趣旨の小話です。

ルールは一つ。

『制限時間内に鍵で箱を開けたものを勝者とする』

そして勝者には賞金百万円が贈られる。


少年と少女が家に入ると、そこには既に複数の人がいた。

一人は軽薄そうな雰囲気と服装で、そこそこの体格と身長を持つ二十歳弱に見える男。

一人は自信がなさそうでおどおどとした、みすぼらしい恰好の初老。

一人は何処か落ち着かない様子の、スーツを着た腰の低そうなおじさん。

此処は、ゲームに参加する人の集合場所。

一見普通の3LDKの家。そして此処はリビングだ、けど、人が住んでいる感じがする。リモコンが床にあるし、座布団や衣服が散らかっていて、台所に洗いものがあるんだから、先ず間違いない。

三人を見てから、はっと気付いた。挨拶せねば!

「初めまして。中学校2年の本堂西日ほんどうにしひです。」

「あ、ああ、初めまして。佐藤です。」

「初めまして。山田です。」

「・・・。」

初老の佐藤さんとおじさんの山田さんは答えてくれた。けど、青年は無口のようだ。

「ゲームまでまだ時間がありますし、一寸お話したいことがあるのですが。」

突然山田さんが聞いてきた。何ですか?、と目で返すと、山田さんはちらりと佐藤さんを見て、少しうつむきながら語りだした。

「私は、・・・っああ、佐藤さんもそうなんですけど、生活の為にこのゲームに参加したんです。佐藤さんは、その、ええと、・・・」


「ホームレスなんだよ。」


佐藤さんが、言い淀んでいた佐藤さんの後を引き継いだ。

「だから、生きる為に、之に参加したんだ・・・。」

「私も、結構前にリストラされたんですが、ね。日々就職活動をしているのですが、なかなか上手くいかないもので・・・。

私は、妻と二人の息子の四人家族で、最近蓄えも尽きて来て・・・、切羽詰まってこんな胡散臭い話にまで首を突っ込む始末です。お恥ずかしい。」

山田さんは、一拍置いて、やや声を大きくして続けた。

「ですから、申し上げにくいのですが、出来れば鍵を見つけたら私たちに譲って頂きたいのです。」

大の大人に頭を下げられるというのは、正直中学生にはきついことだ。内容も重いったらない。かなり混乱した。その混乱は、山田さんの話に感じた違和感を吹き飛ばすには十分だった。そして隣の少女に視線で助けを求める、と。

「ふざけんな、くそやろう。」と青年が割って入った。「なんで百万円を見ず知らずの野郎にくれてやんなきゃならねぇんだ!? そんなんだからそこまで落ちぶれることになんだよ。俺はてめぇらみたいな野郎が一番気にくわねぇ!」

正直日本語能力が微妙に低いなと思った。推測するに自ら頑張りもせずに、お涙ちょうだいでおいしい思いをしようと言うのが気に喰わないらしい。でも切羽詰まったら、人間ってそんなふうになるもんじゃないか?

佐藤さんが、苦労も知らない若造が、って感じで嫌味な視線で青年を見る。が、目が合うと顔をそむけた。山田さんは恐縮していた。ああ、きっと自分達が来る前に同じ事があったんだろうな。


ぎすぎすした雰囲気のまま数分が過ぎる。





ノックの音、返事を待たずに入って来たのは、柔和な笑みと真っ白い髭を持った、格好良い紳士服の老人。自分は彼を見た瞬間、内心セバスチャンと呼ぶことを決めた。

「制限時間は一時間。この家に隠された鍵を見つけ出し、この箱に差し込んで開けて下さい。箱を開けた人に、賞金百万円が贈られます。では、ゲームスタート。」

セバスチャンは笑みを深くしてあっさり開始宣言。懐から取り出した箱を、リビングの中央にあるテーブルの上に置いて、さっさと帰ってしまった。去り際に言うには、

「隠し監視カメラがありますので、箱を開けた人はくつがえりませんよ」

おいセバスチャン、突然過ぎだと思うんだけど。

・・・まぁ、そして微妙な空気の中ゲームが始まった。あまりに微妙な空気だったせいで、初めは皆固まっていたほどだ。

山田さん、かわいそうなぐらい必死だなぁ、とか思いながら鍵を探していく。

青年を見ると、乱暴な口調とは異なり、丁寧に鍵を探している。棚の上の物などをどかしてみたり、中身を見たりして鍵が無いと判ったら戻す。背が高いのが羨ましい。

もの探しは整理整頓に似ている。部屋を散らかしながら物を探すのは馬鹿のすることだ。

一方佐藤さんは、動きがぐずぐずしているし、どかしたものを片づけていない。脇にものが溜まっていくし部屋が散らかっていく。駄目だこりゃ。山田さんは必至な感じで、調べた後の物を部屋の空きスペースに集めている。悪くは無い。

そんな中、となりで鍵を探していた少女が話しかけてきた。

「ねぇ、見つけたらどうする?」

見つけた後に考えれば良い事だ。

「佐藤さん、何か真面目にやってるように見えないよ?

誰が見つけても自分によこすはずだと思ってるんじゃない?」

ひねくれた見方だ。第一そんなことは関係ない。百万という大金を、この程度の苦労で手に入れて、さらに人に渡すというような行為は、自己満足を多く含んでいる。『困っている人を助けない自分を許せるか?』それが問題だ。

「見つけた後に考えれば良いよ。」

その後、青年は言い過ぎだとか、山田さんは腰が引けすぎてて気持ちが悪いとか言って来た。

考えを整理するうえでは実に便利な存在だと思った。生返事ばかりを返す自分への不満も隠さず述べて来たので、なんかかわいいなと思った。

少女が言う事はもっともなことだったが、別段気にするようなことでもなく、自分の中の別の疑念が鎌首をもたげた。

山田さんは、私『たち』に譲って頂けないでしょうか、と言っていた。

『たち』? つまり金は山分け? でも例えば、此処には五人しかいないわけで、山分けしたら一人頭20万円。時給で之なら十分すぎる。

つまり、主催者は鍵が見つからないと思っている? って、ああ、そっか。普通に考えて一時間・五人で雑多な3LDKの家を探しきることは出来ない。全体の10分の一も探せたら十分だ。庭も家に入るとしたら、見つかりっこない。

って、あれ? これは、相当酷いんじゃないか? 見つかるはずが無い。

見つかる可能性があるとしたら、どこかにヒントがある場合だ。

ヒントは比較的見つけやすいはず。残り時間はあと30分。

空っぽの冷蔵庫に貼ってあるカレンダーをめくる。本棚にあった本のタイトルの頭文字をつなげてみる。電化製品のメーカーの統一性は・・・、ない。色々考えてみて、気付いた。

此処には、人の意思が無い。

中身のない冷蔵庫。本のジャンルはバラバラ。置いてあるものはそこそこいいものなのに、パソコンが無い。スーツもない。作業着もない。学生服も教科書も、趣味も見つけられない。

つまり此処は、ゲームの主催者側が作ったんだ。

ならば、主催者に金はある。百万なんて痛くない。鍵は無い、なんて落ちは無いのだ。

セバスチャンが言っていた。監視カメラで、見ていると。

金持ちの道楽ならば、笑いたいはずだ。鍵は、思考の盲点で、かつ視界に普通に映る場所にある。はず。残り時間はあと10分。

視線を上げる。視野を広げる。金持ちの嘲笑が潜む場所は・・・。

リビングの中央のテーブルにおかれた箱に近付き、持ち上げた。箱の下にはテーブルの茶色が見える。しかし、

「あった。」

その声に、ずっと自分の横にいた少女以外の三人が、一気に此方を向く。

箱の下には、透明度の高いプラスチックでできた薄い鍵があった。それに手を伸ばす、と、いきなり衝撃。

視界がずれ、箱は手から離れて飛んで行った。

青年に突き飛ばされたらしい。おいおい、そりゃありかよ。

思わず青年の裾をつかむ。二人揃って膝をつく。

その隙に、佐藤さんが鍵を、山田さんが箱を取る。

「このっ!」

はたから見ても判るぐらい青年が怒って、佐藤さんの方へ行く。

最近の若者は、キレて何をするか判ったもんじゃない。

之は駄目だ、と、投げつけようと思って薄型テレビをつかんだ時、芯の通った声が響いた。

「止めなさい! 監視カメラがあると言っていただろう。暴行の明確な証拠になるぞ!」

山田さんだ。佐藤さんと青年の間に入り、まっすぐ青年を睨みつけていた。腰が引けている様子も無い。青年は一旦は止まったが、怒りが収まらないらしくさらに近付いて行った。

「自分等は何もせずに漁夫の利にありつこうってか! っざけてんじゃねぇぞ!」

「暴力を振るっておいて何を言うか!」

「てめぇみてぇな、家族の為にも暴力を振るえない腰ぬけに言われたくはねぇんだよ!」

「そうだ! しかし私は漁夫の利を取りに行く為に、プライドを捨てる覚悟はある!」

今までおどおどし通しだった山田さんが、青年と近距離で堂々と渡り合っていた。

青年もそこでまた少しひるんだようだ。一度止まれば、冷静な判断能力も戻って来る。

「曲がったことが嫌いみたいだけど、曲がりなりにも一家の長が言う事は心に響くみたいだね。」

少女が上手いこと言った。

「力で勝っているからって力で勝負するのは卑怯じゃないの?」

自分はくぎを刺すつもりで言った。

青年は、憤懣ふんまんやる方なしと言った体で、しかし踏みとどまった。

「佐藤さん、鍵を。」

山田さんはすぐに佐藤さんの目の前に鍵穴を持って行く。

この時、いわく形容しがたい感覚が全身を襲った。予知能力何かじゃない。少女の捻くれた考え方が、ほんの一時、うつっただけだ。

震えている手の親指と人差し指で鍵をつまみ、ゆっくりと鍵穴へと近づけていって――――――――――――――――――――――――ぇぇぇぇえええええ!!!!!

山田さんに鍵をかすめ取られた。あっ、という間に山田さんは鍵で箱を開けた。


ゲーム終了。


皆固まった。自分の口から「すげぇ」と言葉が漏れる。

青年は怒らない。寧ろ御見事!って感じで笑う。その行為に堅い覚悟を感じたんだろう。権謀術数けんぼうじゅっすうをめぐらしての勝利は、彼にとって称えるべきことのようだ。

少女は「最低」と、か細い声で言いながら、笑う。きっとこの子は本心とは別に人を誹謗中傷ひぼうちゅうしょうしてしまう困った子なのだろう。

佐藤さんだけが、いつまでも固まったままでいた。


その後すぐにセバスチャンが来て、山田さんをリムジンで連れて行った。防犯対策の為に、お金は山田さんの家の前で渡すそうだ。

かくしてゲームは終わった。






「いやぁ、これはすごいね。この男の子も見事だが、このおじさんがすごかった。」

「うん、だよね。之、最初の何処か落ち着かない様子から、身の上話まで全部、最後の逆転に使うための布石だったんだよ。」

「ええ? それは流石に言い過ぎだよ。」

「言い過ぎじゃないんだなぁ、之が!

山田こうじ 51歳 前年、27年務めた会社を首になり、退職金で月々の給料をごまかすこと19ヶ月。先月遂に金が無くなり、借金をする。で、このままでは駄目だと再認識して、このゲームに出る。百万円で借金返して、残りで妻のご機嫌取りさ。」

「駄目駄目だろ、それ」

「いやいや、彼はなかなか有能な人だったんだ。会社の為に、『仕事』を遂行するプロフェッショナルだったわけ」

「まぁそりゃ、サラリーマンだからね。」

「うん。けど、普通に有能なサラリーマンってのがどれほどのものかと言えば、

家族の為、自分を殺してうん十年。こなした仕事は数知れず。例え家族が冷たかろうと、めげず曲がらず積み上げて、見事に立てた一軒家。ただただ誇るは妻と子と。自分は何処にもありゃしない。

・・・本当に大切なものの為に全部捨てて来た人が、今一度『会社』って媒体無しにその大切なものをしっかり見たんだ。自分の真の『仕事』は、家族を守る事だ、って。

経験を積んだ彼が、今一度目的を思い出して、如何してその『仕事』を遂行できないと思う?」

「・・・、う〜ん。調子を付けて歌うように言われたから、無理矢理説得された感じだけど。でも、山田さんがすごかったのは事実だしね。多分、そうなんだろうね。うん。」

「そうそう、でね、そんな彼はこうよばれるんだ。【企業戦士】ってね。」

「へぇ、カッコイイね。うん、覚えておくよ。【企業戦士】山田こうじさん!」    END

サラリーマンはウルト○マンに勝るとも劣らない!

企業戦士は聖戦士にも狂戦士にも魔道戦士にも勝る強力なジョブです!


みなさん、さえないお父さんを大切に!



ちなみに佐藤さんは今後も変わらずもホームレスライフを全力で生き抜きます。「自分がやらずに誰がやる」という意識改革が起こったってことで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 僕はこういう作品がとても好きです。 一つ質問があるのですが最後の方の「いやぁ、これはすごいね。〜山田こうじさん!」までって誰が話してるんですか?台詞だけの人ですよね? 6‐ナイロンさんはたく…
[一言] 私の好きなテイストの作品でした。でも短編だったので時間の流れがはやくて、じっくりものを読みたい私には少し違和感だったかも。長編になったら、是非読みたいです。 それぞれのキャラが確立していて、…
[一言] 6‐ナイロンさん、はじめまして。 なかなか面白いアイディアですね。 6‐ナイロンさんって、結構、作品評価をされているのに、投稿したのはこれが初めてなんですね。 ちょっと意外ですが、さすがに、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ