オッサンズ ティーパーティー
「いやはやとんでもない舞踏会でしたね」
午後の茶会で、侯爵が昨夜の事件の話題を振った。
茶器の用意は出来ていて、テーブルにはサンドイッチや焼き菓子が置かれている。人払いをしたので茶を淹れるのは侯爵で、男性にしては慣れた手つきで、四人分の紅茶を淹れている。
「まったく」
手渡されたカップに口を付けて飲んだ宰相は、目を見開いて茶を淹れた侯爵を見た。
侯爵は、俯いて茶漉しを皿に置いている。
「余は退位したくなった」
王はカップに口を付け、よほど喉が渇いていたのか一気に飲み干した。その途端顔が赤らみ、――ゴホゴホ――と咳き込んだ。
「一息で飲むからですよ」
公爵が、紅茶を一口飲んでから王の背中を撫でたが、彼の顔もほんのり赤くなっていた。
「まさか殿下が、あの場で婚約破棄をなさるとは、思いもよりませんでしたよ」
昨夜第二王子が、婚約者の令嬢に婚約破棄を突然申し渡したのだ。
「真実の愛に目覚め、異世界の転生者である女性と共に生きたいと、訳の分からない事を仰っておいででしたね」
宰相の言葉に一同が頷くと、
「その上、婚約者を悪役令嬢などと言いおって」
王は、カップに注がれた茶をまた飲み干した。
益々顔が赤くなっていく。
公爵もカップを差し出して、お代わりを要求した。
「殿下とその転生者とかいう女性には、考え直すようにと申しておきましたが」
――はてさて――
宰相が頭を捻りながら紅茶を飲み干すと、即座に侯爵がお代わりを注ぐ。
「らから……育て方を間違ったっていふんれすよ」
「なにおぅ」
王が公爵を殴ろうとするが、その拳は空を切り椅子の肘掛けに当たる。
「いらい……」
手をさすりながら、王はゆっくりと床に倒れて絨毯の上で寝てしまった。
「アハハハ!」
公爵も手を叩いて椅子で体を揺らしていると、段々横に体がずれていき肘掛けに寄りかかり鼾をかいて眠りだした。
「これ、どうするんだ?」
宰相が侯爵に問うと、彼は持っていたカップを掲げて一気に煽った。
「心労は、酒で忘れさせるのが一番ですよ」
宰相はそんなものかとカップを侯爵に差し出し、もう隠さなくなったブランデーの瓶から直接酒を注がせた。
「明日は皆二日酔いで、政務に支障がでるなあ」
宰相は、そう言ってグビグビとカップを煽った。
「一日ぐらい、そんな日が有っても良いではないですか」
床に転がった王を、抱き起し侯爵は椅子に座らせた。
――皆様に平穏な日々を送って頂く為に、私はタイムスリップしてきたのですからね――