1
トン、トトン、トン、トトン
少女は一人食卓につき、規則的なリズムを指で刻む。髪を青いリボンでまとめ、ドレスを身に着けているその顔には薄く化粧までのせられている。その姿はどこかのお姫様のようにかわいらしい。
目の前には冷えた料理とケーキが並べられ手を付けられるのを待っている。
「今日は帰ってくるよね…。だって今日は私の誕生日だもん。」
誰もいない部屋で彼女は一人つぶやいた。
時刻は零時を回ろうとしている。
それでも少女は席に着き、リズムを刻み続けている。
本当は彼女だって気付いているのだ。
父親が自分を愛していないことに。息子であればと周りにこぼしていることに。
母親は、少女よりも夜会や舞踏会などきらびやかな世界のほうが好きだということに。
だから、せめていい子でいようと思い、いつも笑顔を浮かべ、わがままを言わない扱いやすい子を演じてきた。母には姿を見せるだけで睨まれ罵倒されるため、母がいる時間は部屋から出ずにじっとしていた。そのほうが母は幸せそうに見えたから。
自分がいないほうが両親は幸せだということに気づかないほど馬鹿ではなかった。
なにがいけなかったんだろうか。
私は今この世界で必要とされているのだろうか。
少女のちいさな頭では何度考えたって答えは見つからなかった。
でも今日は…今日くらいは。
少女はこの特別な日に願わずにはいられないのだ。