50.最終回 僕の日常
一ヶ月も経ちますと、やっと僕の日常が戻ってきた感じです。
ティラノサウルスの死体ですが、もちろん大騒ぎですよ。
マスコミが取り囲んで、ヘリが飛び回って、世界的なトップニュースになりました。
残念ながら今回はティラノが登場したところ、戦闘してるところの記録映像がありません。っていうか、僕がそういうことにしたんです。
あとで先輩の撮ったビデオ見たら、アレと同田貫正国で戦うブランさんしか写ってませんで、そんなの公開できるわけ無いじゃないですか。説明のしようがありませんて! 僕の活躍も少しは撮っておいてくれてもいいでしょうに先輩!
まあそう言っても、僕ら猟協会も合法違法、ギリギリのグレーゾーンで動いてましたし、こんな証拠残ってたらかえって厄介で面倒ですわ。こんなことで有名人になんかなりたくないです。
警察も現場検証してましたけど、トラクターの運転席に噛みついてるティラノサウルスの死体見て、これで緊急避難も正当防衛も認めない警察なんているわけ無くて刑事さんもなんにも言いませんでした。
勇者ブランバーシュさんのことは無かったことになってます。
猟協会とトラクターで倒したと、そういうこと。
もちろん僕はマスコミにうるさく聞かれまくりですが、逃げ回ってます。
町営牧場には怒られましたよ。一番パワーのあるスタメンのトラクターをボロボロにしちゃいましたからね。修理費に四百万円かかるそうです。どうしてくれるんだって!
あっはっは……。
こちらは幸い、そのティラノサウルスと戦ったトラクター、ぜひ貰い受けたいとあの巨大企業のトラクターメーカーが申し出てくださいまして、そのかわり牧場には新品で最新型の、前より大型のトラクター寄付してくれました。さすがは多国籍国際企業、太っ腹です。
町営牧場の職員さんはみんな大喜びです。
本物のティラノサウルスと戦ってボロボロに傷つきながらも勝利した自社製トラクター、そりゃメーカー本社のショールームに飾って自慢したいに決まってますな。大した宣伝になりますって。
古生物学の研究者の人たちからは、いや、世界中から非難ゴーゴですわ。なんで殺した! ってさ。
生かしておけばすごく研究できたのに。二頭いたんだからせめて一頭ぐらい生かして捕らえてほしかったって。無理言うなです。
あの状況でどうやって生かして捕らえるんですか。日本ではね、怪獣は倒してナンボなの。知ったこっちゃないです。僕は猟協会なんですから、あんなの出たら駆除するのが仕事ですって。
異世界から来た動物、生かしておいてたまるかです。これ以上北海道に外来種増やすのは絶対に許しませんよ僕は。
ブランさんが倒したほうがオス、僕が倒したほうがメスなんだそうですよ。ティラノサウルスはメスのほうが体が大きいんです。
とにかくこれで恐竜研究は格段の進歩を見せるはずです。例によってアメリカの世論と大統領がギャーギャーうるさかったんですが、町で二頭の死体のうちの一頭をスミソニアン博物館に寄贈することに決めましたら批判がピタッとおさまりまして、歓迎ムード一色に変わりました。現金なもんです。
日本政府から町長にこっそりそういう要請があったんだとか。強引ですねえアメリカ。
米軍の大型輸送機が近隣の市の空港に着陸しまして、空港までめちゃめちゃでかいヘリコプターで運んでいきましたよ。なんか僕が倒したメスの方を欲しがってましたねえ。悪いことに使わなければいいんですが。
ブランさんが倒したオスの方は、蝦夷大獣医学部に運ばれまして、世界中の古生物学者さんと合同で解剖調査が行われました。あの刀傷見て「どうやって倒したんだコレ?」ってかなり疑問だったんじゃないですかね。既にライフル弾も撃ち込まれていましたし、それは「地元の猟師が解体しようとしたけど無理だった」なんて話が誰が言い出したか知りませんがそういうことになって不問にされてます。
現在も研究は続けられています。アメリカの研究チームがいなくなったんでみんな喜んでますよ。なんだかなあ。
異世界の恐竜を研究して、地球の恐竜がどうだったかなんて分かるわけ無いという気もしますが、まあその「異世界から来た」を言い出すのは学者さんとしてどうなのかというのがあるせいか、誰も口にしませんが。
内臓とかも全部プラスティネーション処理とかいう保存技術で生きていたときのままに近い状態で調査、展示までできるようにするそうです。
京東大、物理学部の大柴先生、膨大な物理観測データが集まったはいいんですが、どれも説明つけようがなくて、困り果てています。
魔法だの、異世界だの、ゲートだの、説明つくわけ無いですよね。
「なかったことにしたい」と申されております。いや、実際、そうなっちゃうかな。あっはっは。
蝦夷大の宮本先生、なにが悪かったのか捕まえていたスライム二匹とも死んでしまいました。研究半ばで残念でしたなあ。
「もう出てこないのか?」としょっちゅう電話かかってきます。
もうイヤです。町で駆除従事者証も『粘菌』で出してますし今度出たら問答無用でショットガンで撃たせていただきます。
医学部の西里先生、膨大なゾンビの死体抱えて、未だにこれがなんで動いてたのかさっぱりわからないそうで。わかるわけないよね。
研究に協力してくれる人も全然現れてくれませんで、途方に暮れてます。
異世界のゾンビなんか研究してなんの医学の役に立つんですか。
もう諦めましょうよ先生……。
そのゾンビを撃った村田さん、もう退院しておりますが、毒気が抜けたのか鉄砲もやめて猟協会も退会しました。書類送検されて不起訴処分にはなったのですが、ゾンビとはいえ人間に発砲したことで警察にそうとう絞られたようで、銃砲は取り上げられたまま返してもらえず、返納しろ廃銃にしろと圧力をかけられて所持の継続は絶望的。ゾンビとは言え人間撃った銃ですから、そんな銃は二度と日の目を見られないわけです。だから撃つなって言ったのに言うこと聞かないから……。
ま、ざまあです。
貯水池の中央に突然できた岩の祠。どうにもジャマなんで崩そうなんて町長が言い出しましたがそれを崩すなんてとんでもない!
「あれが怪物の発生押さえてるんです。絶対撤去したらダメです! 僕の言うこと何一つ信じなくてもいいですから、これだけは信じてください!」
そんなわけで、コンクリで固めて上に「恐竜慰霊碑」という名目で予算ひねり出して石碑建てることになりました。今建設中です。終わったら、神社と地鎮祭をやって、神主さんにお祓いしてもらって、貯水池に水が入れられ、池の真ん中に鳥居が立つことになります。女神ナノテスさんの力が祓われてしまわなければいいんですが。地球の神様が空気読んでくれることを期待します。
町の名所が一つ増えましたかね。
いやこんなもの見に来る観光客もいませんか……。
いやいやいやいや、昨今、何が聖地になるかわかりませんし、案外賑わうかもしれません。
トリケラトプスのトリケンくん、今日ものんびり牧場で牛と一緒に草を食ってます。
今、国の補助で旭丘の動物園で、敷地を拡張して厩舎を建設中です。冬になる前には出来上がりますので、完成したらそちらに引っ越してもらうことになりました。
これについては町内でも反対は殆どありません。連日の渋滞、食料品の買い占め、膨大なゴミの放置にあちこちでトラブルを起こす観光客や外国人、毎日横断幕持ってなにかに抗議している活動家のみなさん、ちょっと外出しただけでマイクとカメラを突き出してくるマスコミにウンザリというのが町民の正直な感想でしょうか。さっさとどっかつれてってくれって、誰でも思いますよね……。
プール付きで世界最大級の動物厩舎です。ギネスブックに申請できるかもしれません。研究施設のようなものも各国の寄付で隣設されまして、国際的な研究拠点になるそうですよ。トリケンをどうやってあそこまで運ぶのかは知りませんが。
「群れを作る習性があり牛と一緒にいると暴れなくておとなしい」という説がすっかり定着しまして、牛も一緒にお引越しです。町営牧場の牛、十頭ほど政府に買い上げてもらうことになりまして、今メンバー選定中です。どうせならトリケンと仲のいい牛連れて行きたいところですよね。
北海道がスミソニアンと並ぶ恐竜研究の聖地になることは間違いないようですな。道の経済の発展に寄与してくれることを望みます。
ブランバーシュさん、指名手配されていますがまだ捕まっていません。
捕まるわきゃないですよね。異世界に逃げちゃったんですから。
札幌美術館の監視カメラにバッチリ写ってまして、有形文化財の同田貫正国の窃盗犯っていうのが罪名です。勇者として生計立てるより、泥棒として生きるほうが儲かるんじゃないですかね。あの転移魔法、犯罪に使えば無敵でしょうに。
先輩からカギ預かりましたが、貯水池の駐車場に放置されていたワゴンRに挿してほっときました。なんで僕が先輩のアパートの整理やらなきゃいけないんですか。下手にそんなこと勝手にやったら僕が先輩殺してどっかに埋めたと言われても言い訳できません。かかわらないのが一番です。
連絡を受けて車を引き取りに来た先輩のご両親が役場に来まして、どうなってるんだと聞かれましたが、外人さんと仲良くなって駆け落ちしたという話をしたら「あの馬鹿娘がああああ!!」と激怒なさっておいででした。あっはっは。
アパートを整理されて、黒歴史でもなんでも家族に見つかって愛想を尽かされればいいんです。そのほうが家族の方もあきらめがつくでしょう。
先輩、異世界で元気にやってます。
なんでわかるかって?
謎のマイチューバー、サランが健在だからです。
どういう理屈なのか知りませんが、サランさんの動画、今でも更新されているんです。やれ異世界でお宿に泊まった、ハンターギルドに入った、今日は魔物を退治した、異世界でマヨネーズを再現してみた、エルフがいた! 魔法を特訓したら使えるようになった、ブラン様が新しい勇者を決める勇者トーナメントに出場することが正式に決まっただのね。
異世界ライフ、楽しんでいただけて何よりです先輩。
どの動画も、めちゃめちゃリアルで緻密で設定が細かく、とても素人が作った動画とは思えない。いくら分析してもCG合成の痕跡がなく、まるで本物の異世界から中継しているようだと大評判です。
フォロアーはもう全世界で五十万人超えてます。
スマホの充電どうやっているんでしょうねえ。いや、それよりもなんで異世界からネットが繋がるんでしょうかねえ。謎です。
女神様がなんかうまいことやってくれたってことなんでしょうか。スマホ異世界に持ち込んで、大変なことにならなきゃいいんですが。
おじいちゃん、許可証を返納して、鉄砲も猟協会もやめました。
僕には空気銃と、自動散弾銃譲ってくれました。譲渡が認められるまで一ヶ月かかりましたけど。
ライフルのレミントンM700は廃銃です。古すぎて引き取ってくれる人がいませんでした。僕がライフルの許可得られるのは十年先ですし。
体の具合が急に悪くなったようで、今入院しています。
お医者さんの話ではガンが見つかった。覚悟はしておいてくれという話です。
「もうお前に教えることは何もねえよ。あんなの仕留めちまうんだからな」と、点滴受けながら病院のベッドで笑います。
もっといっぱい元気でいてもらって、もっとたくさんのことを教えてもらいたかった。でもそれももうかないません。
おじいちゃんの分まで、これから僕も頑張らないといけませんね。
「おーい中島! 澤田さんの牧場、ハト駆除してくれって! 二十羽以上いるんだと」
「またですか……。そうなる前に連絡してくれって頼んでたのに。今いるんですね?」
「ああ、急いでくれ」
うん、ドバトなら空気銃で十分です。簡単なお仕事で、僕は好きな駆除の一つですね。
空気銃って言ってもエアソフトガンとは全く別物の本物の狩猟用空気銃で……いや、そんなことはもうどうでもいいか。
じゃ、またあとで!
――――北海道に魔物が出たので地元ハンターが出動してみた END――――
お疲れさまでした!
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
ここまで読み支えてくれたみなさまにお礼を申し上げます。また、この作品に不快な思いをした方にも重ねてお詫びを申し上げます。
読んでいただけてありがとうございました!
現在北海道に市営牧場、町営牧場は59か所存在していますが、「馬稲町」という町名は実在しません。作品の冒頭で述べられている通り、この小説はフィクションであり、登場する人物、団体、公的機関、法律はすべて架空であることを御承知願いたいと思います。
※2019/3/7 より新連載始めてます。
タイトルは「北海道の猟師のじいさんが異世界に行ってみたら」
今作のスピンオフ、シン君の、おじいちゃんが主人公!




