48.ティラノサウルスズ
全員、貯水池を囲んで待機します。
レーザー光線で重力波測ってますから、エンジンも切って静かにしていますよ。
僕はトラクターの運転席で、無線のイヤホン耳に挿しこんで、バイクのヘルメットかぶっています。
ブランさんは僕の真ん前。20メートルぐらい先におとなしく座ってますね。これからティラノサウルスと戦うというのに落ち着いたもんです。もうすぐ日付が変わりそうです。
『中島くん』
大柴先生から無線入ります。
「変化ありました?」
『それがどうも妙なんだ』
「はい?」
『波形が変わった』
「……どんなふうに」
『バラバラなんだよ。昼まではこうじゃなかったのに。もしかしたら……』
バラバラ?
「もしかしたら?」
『……これ二匹かもしれない』
「四足という可能性は」
『無い』
四足で歩いてるならそれはそれで一定のリズムになるはずですよね。
なるほど……。二匹ですか。
って聞いてないよ――――!
「ブランさん!」
トラクターのドアを開けて怒鳴ります。
ブランさんが座ったまま振り返ります。
「二匹かもしれないそうです!」
勇者ブランバーシュさん、えっという顔になります。
『来た! 来た来た!』
大柴先生の無線が入ります。異常があるのがわかります。
貯水池になにかオーロラが逆さまになったような光が吹き出します!
明るいです! デカイです! 前回ゾンビが出たときの魔法陣みたいな人工的なものじゃなくて、わけのわからない自然現象のようです。
丸く、歪んだ円になって、光の輪の中が真っ暗です。まるで穴が空いたように。
『測定値が振り切れた!』
来るなら来い。さあっ、何が出るか!
トラクターのエンジンかけて、安全ベルトを締め、作業用ライトも全方向に全部点灯します!
穴からなにか出てきました!
頭、首、ちっちゃい前足! そして全身!
ティラノサウルスです! 二頭! 暗い穴からまるで階段上ってくるみたいにゆっくりと足踏みしながら!
「発砲!」
ドォン!
ドーン!
ドッガーン!
ドッゴオオ――ン!
僕の無線の指示を受けておじいちゃんたち四丁のライフルが一斉に発砲です!
何の遠慮がいりますか。先手必勝です!
僕から見て右のティラノサウルスががくっと右足を折り跪きます。当たったか!
ブランさん抜刀して走り出しました!
ああああああ! 余計なことすんなあああああ!
「発砲中止! 発砲中止!」
ブランさんに当たったら大変です!
ブランさん、右手に剣、左手に火球作って……今足を折ったほうのティラノにその火球をぶつけます!
ファイアボールってやつですか?
顔面に火の玉ぶつけられたティラノ、顔をのけぞらせて叫びます。
ごぅおおおおおおおおお――――っ。
喉笛のような、大量に空気を吐くような。
恐竜には声帯がないそうです。映画みたいに「アオーン」とか吠えたりしません。
でもダメージ食らって叫ぶのはどの動物でも同じですか。
ブランさんティラノの足元を駆け抜け、撃たれた方と反対側の足に斬りつけます。
ものすごい勇気です。よくやりますねそんなこと!
たまらずティラノが前に倒れ、ドズンと腹ばいになります。
当然もう一頭のほうがズシンズシンと歩み寄り、ブランさんを咥えようとします。
「撃って! 胴体でいいから動いてる方撃って!」
足を狙うとブランさんに当たりそうです。高い所、胴体を狙うしかありません!
ドォン!
ドーン!
ドッガーン!
ドッゴオオ――ン!
四発のライフル弾がキュインッて甲高い金属音立てながら飛んできます。
歩いてるティラノの体に次々着弾します。当たるたびにビクッとしますが倒すまでには至りません。
トラクターのギアを前進に入れ、貯水池の岸の斜面を駆け下ります。
3メートルの段差を下ってドッドンとものすごい衝撃来ます。トラクターはサスペンション無いですからね! 必死にハンドルにつかまってビーッ、ビーッってホーン鳴らしながらブランさんを追うティラノに迫ります!
ティラノサウルス、トラクターの轟音に気づいてこちらに振り向きました! 体が真横に見えてます。
操作グリップに手を伸ばしてフロントローダーを下げ、アクセル全開で突っ込みます!
ドスーン! ローダーをティラノの足に突き立てます!
ぼぎいっ! 足が折れました!
ティラノの体がフロントローダーのアームに倒れ込みます!
どんな動物だって、全装備8トンのトラクターの突進、真横から受ければ足ぐらい折れますって。
そのまま押します。押して押して、トラクターの4WDのタイヤが滑ります!
クソッ! 貯水池だったしね! 一面泥でそりゃまだ乾いてないよね!
転がったティラノサウルス、激怒して片足立ちになります。
横ではブランさんが倒れてるティラノの背中に剣突き立ててます。
撃てないでしょ! 離れてろよ勇者! ジャマだよ!
ぐわっと大口開けてかかってくるティラノに、フロントローダーのアームを上げて迎え討ちます。
牧草ロールを掴み上げるロールクラブを思い切り広げて、ティラノが噛み付いて来たところでつかみ上げます。
惜しい、つかみそこねた!
もう一回!
閉じたグリッパーをもう一度広げて、僕の横に回り込もうとするティラノを避けて、トラクターをバックで旋回させながら正面に捉え続けます。
直径1メートルを超える牧草ロールを掴むグリッパーです。ティラノの首を締められるほどは閉じません。首下の胴体の太いところを狙いますか。
すこし高さを降ろして、ちょうど胸の手のある位置まで下げます。
大口開けてかかってきます。
ギアを前進に切り替え、胸元狙って蛇行させ、グリッパーで掴みます。
できたっ!
腕のある胴の太い部分、掴むことができました!
レバーを入れて油圧で締め上げます!
ごうぉおおおおおおお――――!
ものすごい大音響の悲鳴を上げるティラノサウルス!
右に左に、体を振ります!
それに引っ張られトラクターのフロントタイヤがズシンズシンと持ち上がっては落ち、左右にズルズル滑ります。二本足のティラノサウルス、片足折られているにもかかわらず凄いパワーです。掴んでしまえば身動き取れないと思ってたのに、舐めてましたかっ。
この大きさになるまで戦って生き残ってきただけのことはあるわけか!
このままではトラクターが転倒させられそうです。
リアのリフターを下げてサブソイラの爪を地面に突き立てます。
そのまま跪かせようとアームを下に下げます。
無理かっ! 総重量8トンのトラクターのフロントタイヤが浮いてしまいます。
「撃って――――!!」
ドォン!
ドーン!
ドッガーン!
ドッゴオオ――ン!
無線で叫ぶとそれに応えて間髪入れず四丁のライフル弾が着弾します。
ティラノに当たってるはずですが、どこに当たっても弱まる気配がありません。
シカやクマ撃ちライフルじゃ全然威力が足りませんか。なんたるタフさ!
ティラノ、小さい手をブンブン振ってましたが、その二本の爪がグリッパーの油圧ホースを引きちぎりました! 小さくても、それぐらいの力はありますか。
ぴゅるるるるとオイルを吹いて力の抜けてしまったグリッパーが広がり、難なく抜け出してしまうティラノサウルス。
一番あてにしていた武器がもう使えない。クソッ。
アームを上に上げて、ティラノの頭と同じ高さにして牽制します。
油圧回路は一つじゃない。まだアームの上下はできます。
リアのサブソイラを上げて地面から抜き、ハンドルを切り、右ブレーキを踏みつけて右旋回させてアームをなぎ払います!
トラクターのブレーキは左右に分かれています。
右だけブレーキを踏めば右のリアタイヤがロックしその場で右旋回、左だけブレーキを踏めば左旋回ができるようになってるんです。
トラクターのアームに横っ面をぶん殴られてティラノが怯みます。
トラクターの片輪が浮くほどの衝撃がきます!
もう一発、今度は左っ!
かわされました。
頭を下げ、アームの下からトラクターに噛み付こうとします。
アームを下げます。頭を上から押さえつけます。
これはどうだっ!
抜けられました! ダメかっ!
ティラノ、アームの上にのしかかり、体をエンジンの上に乗せて、大口あけて突っ込んできました!
頭を横にしたティラノにトラクターの運転席が噛みつかれます!
6トンの噛み付きです! キャビンのフレームが歪み、ガラスが細かくひび割れ、視界が真っ白になります。ぐらんぐらんと運転席が左右に振られます!
トラクターのキャビンのフレームは転倒したときの安全フレームを兼ねています。レーシングカーのロールバーみたいなもんです。総重量6トンを超えるトラクターの自重を受け止める強度があります。でも噛まれるのはわけが違いますよね! キャビンごと噛み砕かれるのは時間の問題です!
「そうくると」
僕は横に縛り付けておいたレミントンM870の紐をほどいて、脇の下に抱え、フォアエンドをジャキンと前後させ、前に向けます!
「思ってたよ!!」
ドッガ――ン!
3インチマグナムショットシェルのスラッグ弾が粉々にひび割れた窓ガラスに穴を開けます。ジャキッ! フォアエンドを前後させ連発します!
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャッ!
最終弾撃ってフォアエンドを後退した位置でストップ!
ガラスが血まみれになって吹っ飛び、前が見えました。
目の前がティラノサウルスの口の中です。赤黒い、肉の穴です。
ティラノ、突然の謎の激痛に頭を引きますが、キャビンのフレームに歯がひっかかって抜けません。アゴを撃たれて口が開けなくなりましたか?
とっさにクラッチを踏んづけて、トラクター、引っ張られるままにします。
このチャンス逃してたまるか!
ポケットに手を突っ込んで、ショットシェルを再装填。
排莢口に直接、ショットシェルを放り込んでフォアエンドを前に送り、もう一発。
今度は口の中から頭の上に向かって!
ドッガ――ン!
ティラノサウルスの脳がどこにあるかなんてわかりません。
僕のスラッグで脳を突き破ることなんてできません。
でも口の中なら?
口の中、上アゴの裏からなら、そのすぐ上に脳があるはず!
ドッガーン!
ショットシェルを追加してもう一発!
ティラノ、ぐたっと力が抜けます。でも歯はまだキャビンにひっかかって噛み付いたままです。
シャキ、シャキ、シャキ、シャキ。
今度はM870の下の装填口からショットシェルを詰められるだけ詰め込んで、
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャッ!
脳があると思われる方向に一発撃ち込むたびにティラノの体が電気ショックのようにケイレンします。
そのたびにトラクターがぐらっぐらっと揺れます!
もう一度装填してっ!
ドッガーン! ジャキッ!
ドッガーン! ジャキッ!
……。
眼の前が血だらけです。
運転席が血まみれのガラスの破片だらけです。
ティラノサウルス、撃っても動かなくなりました……。
完全に死んだということになりますか。
今撃った二発を追加で装填し、グラスハッチのドアを蹴りますが、歪んでしまって開きません。
リアのハッチを開けて、そちらから身を乗り出して、なんとか外に出ました。
横を見ると、これも倒れて死んでいるもう一頭のティラノサウルスの上で、ブランバーシュさんが突き立てた同田貫正国を引き抜いて、布で拭いています。
地面に降りてトラクターを見上げます。
運転席に噛み付いたまま、もう動かなくなったティラノサウルスがべたっとトラクターに乗っかってます。
ヘルメットを脱いで、無線のイヤホンを耳から引っこ抜いてもまだ耳がキーンとしています。
狭いキャビンの中で発砲しましたからねえ。難聴になりそうです。
「やるねえ、シンくん」
そう言ってブランさんが声をかけてくれますが、アンタ話をややこしくしてるだけじゃないですかね。
「そりゃどうも」
なんだか腹立ったのでつっけんどんに返事します。
今頃になって自衛隊の装甲車がかけつけまして、貯水池の上からこちらにライトを当てて見下ろしてます。M2重機関銃がこっちに向いてます。怖いですね。
「おーい、大丈夫か――?!」
松本三佐が走ってきて声かけてくれます。
……なんですかそのでっかい筒。あ、ロケットランチャーですか。
一応用意していてくれたんですか。出番無くてよかったです。
自衛隊員が緊急とはいえティラノサウルスにロケランを発射、後で大問題になりますよねえ。
手を振って、無事をアピールします。
……。
でかいなあ。ティラノサウルスって。
いまさらだけど。
次回「49.勇者さんの帰還」




