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44.やっぱりそうなりますか


「それ異世界の剣ですか。没収されてましたよね。よく警察から取り戻せましたね」

「スキを見て異空間に収納して消したんだ。ケーサツの人、『剣をどこへやった!』って怒ってたな。でもコレはもうダメだね」

 引き抜いて見せてくれます。ぽっきり折れてます。

「最後の魔女との戦いで折られてしまった。まずったよ」

「見せてください」


 折れたところを見ます。よく見るとところどころ巣があって、折れた断面もデコボコしてます。

 手の込んだ感じがしなくて、安い作りですねえ。見た目はカッコいいですがこんな薄い剣を両刃にして焼きを入れたらそりゃあ折れやすい剣になりますよ。そんなの素人の僕でもわかります。


 刃物ってのは鎌でも包丁でもそうですが、折れる前にまず曲がります。これ以上力を入れた作業したら危ないということがわかるようになってます。

 日本刀も同じですね。硬いものを斬ろうとして曲がっちゃって鞘に入らなくなるとかあるそうです。

 曲がらずにいきなり折れちゃう刀があったらそれは伝統的な手法で作られていないニセモノの日本刀ということになりますか。柔らかめの鉄に硬いハガネをかぶせて刃の部分だけに焼きを入れてあるのが日本刀です。

 これは猟で使うハンティングナイフもそうでして、力を入れたら折れちゃうナイフってのがあったらいくら硬くて刃持ちが良くても工業製品としては欠陥品です。折れたら使う人がケガしますから。

 実際にハンターの解体用に高速度工具(ハイスピード)鋼のナイフが有名なナイフメーカーから売られていましたが、販売期間が短く短命なモデルでした。切れ味は良かったんですが折れたり欠けたりしやすいという欠陥が生産中止の理由でしょう。

 ブランさんのはいかにも西洋の剣って感じで、精緻を極めた日本刀の技術にはぜんぜん及びつかないという感じがします。


「魔女との戦いとは?」

「さっきの勇者との戦いのとき逃げられた。なかなか見つからなくてね、どうやら別の(ほこら)の近くで儀式をやって、ゾンビを大量に作り出して手下にし、召喚士も仲間にしていた」

「召喚士ってのは?」

「ラルトラン正教国という国があってね、初代勇者の伝説を掲げるうさんくさい宗教国家だが、そこが召喚術が発達していて、ゾンビを作る術にも長けているんだ。召喚士はそこのキーリスっていう若いけどやり手の男だが、まさか魔女があいつと組んでいるとは思わなかったな」

「なるほど、魔女と召喚士が手を組んで国家転覆をもくろんでたと」

「そう。まあ勇者を殺された逆恨みなんだろう。他にも目的はあったのかもしれないけど」

「召喚士ってなにを召喚するんです? ゾンビ?」

「葬られた死体をゾンビ化するのは魔女のしわざらしい。ヒドラや、ムラサキデカイクモ、ドラゴンも呼び出せるのが召喚士」

「たしかさっきのやつをミドルドラゴンって呼んでましたよね」

 トリケラトプスのことです。

「ああ、あんなのも召喚できる。一番やっかいなのは魔王とも呼ばれるダイノドラゴンだけどね」

 フラグになるとイヤなので聞き流します。


「鶏のから揚げです」

「ほくっほくっほくっ! こ、これもうまい! サラは料理の天才だね!」

「あらいやだ」

 なにクネクネしてんです。

 おっぱいぶるんぶるんさせてアピールですか。あざといですね。

「お恥ずかしい。こんなの庶民料理ですわ」

「先輩……、きっと植物油ってのが貴重品なんですよ」

「そうなの?」

「油って、大豆とか、とうきびから絞って取るでしょ? 農業が十分に発達していない世界ではそんなもったいない使い方はしないで、大豆もとうきびも食べちゃいますからね」

 日本じゃ徳川家康がカヤ油の天ぷら食って喜んでたぐらいだから、植物油なんて贅沢品だと思います。

「そうなんだ……。私が異世界行ったら、私でも料理上手でやっていけるかも」

「こっちの料理が再現できるわけがありません。日本は世界中から食材輸入してるんですから、同じぐらい農業や流通が発達してないと不可能です。だいたい味噌も醤油もないでしょう? カレーが何からできてるか知ってます?」

「夢がないこと言うなあ、なかじーは」

 はいはい。


「じゃ次。ブランさんが倒れてたあの池で、大量の死体が発見されました」

「ああ、最後に戦った奴らだね」

「ブランさんが斬ったんですか?」

「そうだ。洞窟のダンジョンに追い詰めて、魔物をよこしたキーリスを倒し、最後にゾンビと魔女を斬った」

「首取れてましたね」

「手加減できなかった。強力な魔法を使う相手だったし」

「魔女、どんなやつでした?」

「ムチムチのグラマーで若い。露出の多い三角布にマント、三角帽子」

「同じかっこしたヒモビ……三角布のおばあさんが首を斬られてましたが?」

「ババアだったのか! 魔力で化けてやがったか……」

 魔法で歳もごまかせると。なるほどねえ。


「……最後のゾンビも斬ったら、逃げようとして転移魔法展開しやがってね、洞窟の奥にあった(ほこら)を覆うような巨大なやつだよ。ギリギリだったが、こうして飛ばされてしまったところを見ると間に合わなかったかな……」

 クソッ、先輩の言った通りじゃないですか。ほうらもうあの先輩のドヤ顔ったらないですよ。


「ではブランさんがこちらに来たのは事故だったと?」

「いや、ワームホールが悪用されてる可能性は女神さんから聞いていた。ワームホールがつながるところ。地脈があふれるところ。やつらはそこを利用して強力な魔力を得て、魔王を召喚する実験をしていたってね。そこは別の世界につながってしまって、こっちの魔物がいくつか送り込まれてしまっていた。そこを塞いで、異世界に行ってしまった魔物を倒すことも女神様の依頼のうちさ。すべてが終わってからにしようと思っていたが、タイミングが早くなっちまったな」

「そのワームホールがつながっていた先が僕らの地球だと」

「そうそう。女神ナノテス様がこの世界から君を召喚しようと用意しておいたワームホールがやつらに見つかって悪用された形だな」

「って全部アンタたちのせいだったのかいいいいい――――!!」


 なんてことですか。全部全部、その女神様と勇者のアンタが元凶だったとは!


「僕らそのせいでどんだけ迷惑かけられてると思ってんですか!」

「わ……悪いとは思ってるよ。でも俺の立場もわかってくれよ。女神様に無理矢理頼まれてるのは俺も同じなんだからさ」

 まあそう言われてしまえば僕もお気の毒ですとしか言えません。

 お互い様ですか。僕ら似た者同士なのかもしれませんね。


「あああああ……。もうどうでもいいです。じゃあ、ブランさんはこの世界にもう魔物が出てこれないようにすることができる?」

「できる。協力はしてもらうが」

 すごいです。なんだか希望が出てきました。


「その方法は?」

「今、召喚士が死ぬ間際に召喚したゲートを移動中の魔王がいる。そいつは近いうちにここに現れる。ヤツがゲートにいるうちは塞げない。それが出現したら、ヤツを倒し、ゲートを塞ぐ」

 最初っから塞いじゃえば出てこれなくて話し終わると思うんですけど。

 そこは異世界都合なんですかね。


「魔王か……どんなやつです?」

「魔物化したダイノドラゴン。俺も教会の絵でしか見たこと無いが、トカゲみたいなやつで、手が小さく、頭が大きく噛み付きが凄い。二本足で歩き、尾が長く、人間の十倍ぐらいの大きさがある」

「先輩、ちょっとパソコン貸して」

 先輩にあげたお古のシンクパッド起動してもらって、ちゃっちゃとサイトを画像検索してブランさんに見てもらいます。


「コレですか?」

 ブランさんパソコンにもビックリなんですが、それよりディスプレイの絵です。

「……コレだ。よくわかったね。この世界にもいるのかい?」


 ティラノサウルスですか。

 あーあーあー……。おめでとう僕。ついにフラグ、回収できました。



「……ゲートがなくなったら、ブランさんどうやって自分の世界に帰るんです?」

「そこは女神様が呼び戻してくれるから」

「呼び戻してくれなかったら?」

「魔王を倒さないとそうしてやるって言われてるよ」

「ひどい女神様ですねえ」

「あっはっは……」



 その後、食べ物がなくなったので、三人で歩いてコンビニ行きました。

 ブランさんはそのままだと目立ちすぎるんで、上に先輩のTシャツ着てもらいます。寝巻代わりにダッブダブのやつ持ってましたから。

 街灯が照らす夜の街にも、行き交う車たちにも、ブランさんには驚くことばかりです。なによりコンビニの商品の豊富さには驚きみたいですね。

「こんな夜遅くまで開いている店があることがびっくりだよ」

 でしょうねえ。

 コンビニなんて本格的に普及したの、北海道でも平成になってからですよ。この町にコンビニができたのもほんの五年前です。

 もう弁当やらお惣菜やらお菓子やらお酒やら買いまくり。

 こっそり先輩が0.03mm買ってるの僕は見逃しませんでしたが、関わりたくないので見逃しました。


 お店を出て、歩きます。

「俺の話信じるのかい? シン君。ケーサツの連中はまったく信じてくれなかったけど」

「普通の人は信じませんよ。精神異常者の作り話だと思います」

「私は信じる!」

 先輩テンション高いですね。浮かれてます。

「僕も信じないとダメでしょうなあ。最初からこの事件に関わっていますし、精神異常とか中二病とかの患者は絶対に話に矛盾があります。でもブランさんの話はちゃんとストーリーが通ってました。順を追って聞いていけば矛盾がないことがわかります。なにより魔法見せてもらいましたし、警察の人は聞き方がヘタなんでしょう」

 田舎警察ですからね。

「そりゃあありがたいよ。やっぱりナノテス様の言う通り、君に相談してよかった」


「最後の質問ですけど、警察からどうやって逃げてきたんです?」

「転移魔法で」

「転移魔法ってなんですか」

「テレポテーションだよなかじー。ほら悟空の瞬間移動!」

 先輩が凄ーい! って顔して驚きます。

 ……そりゃあ無敵だわ。


「どうやって使うんです?」

「思った場所に行く、あるいは思った人のところに行ける。行ったことのない所には行けない。会ったことのない人の所には行けない」

「なるほど……だから僕だったわけですか。今頃警察で大騒ぎかな……」

「ちょっとやってみようか。さ、二人、手を出して」

「こう?」

「そうそう」

 深夜の街角で、三人で手をつないで輪になります。

「ジャンプ!」


 ……びっくりです。

 一瞬で先輩のアパートの部屋の中に三人、手を繋いで立ってました。

「ぎゃー! 靴! 靴脱いで!」

 土足でした。すいません。


「ブラン様、お風呂へどうぞ。髭剃りも石鹸もありますから」

「そりゃあありがたい! いただくよ!」


 ブランさんがお風呂に行きます。

「なかじー」

「はい?」

「帰って」

「はいはい」


 ま、こうなると思ってました。

 明日にはブランさん、指名手配されてるかもしれませんからねえ。

 ほら、あの魔女と召喚士斬った死体があったんです。容疑者ですね。

 指名手配って言っても、身元も明らかでもありませんし、手配するには容疑が不十分ですし、先輩のアパートに寝泊まりする分には時間稼ぎになるでしょう。

 ターミネーターをやっつけるために未来から送られてきた戦士さんみたいです。

 あの映画のヒロインの名前もサラさんでしたか、先輩がハマりそうな設定ですなあ。


 僕にはやることができました。

 ティラノサウルスが出るんです。あの貯水池跡から。

 今からアレを倒す手を考えておかなければなりません。

 今の戦力で倒せるか。なにか方法があるか。

 周りの人間をどう説得していくか。

 どうやって信じてもらうか。


 残された時間は少なそうです。



次回「45.ティラノサウルスの倒し方」

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