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38.撃ってもダメなやつ


 二日目。役場の業務を終えて午後五時過ぎに貯水池に向かいます。

 役場の業務、っていうか僕の本来の仕事ですが、内容はゾンビの安全対策ですね。万が一大量にゾンビが出た場合の対策です。広い牧場周辺ですので、とりあえずローダー、トラクター等の大型車両で道をふさぎ、バリケードを作る。牧場から出さないように電柵を張り巡らせる。誘導先は牧場。残念ですが牛に犠牲になってもらって、牧場から一歩も出さないという捨て身の作戦です。牛には非情なようですが町民に被害が出るよりマシです。

 あとは一人ずつ、ゾンビと人間の判別をしながら警察に確保してもらう。町としてやれるのはそれぐらいの対策ですね。猟協会が撃つわけにいきませんから。


 あと先輩とカノ子ちゃんの、町への安全広報の監督とか、万一のための病院の対応、事前連絡です。

 ついでに市立病院に村田さんの容体聞きますが、元気だそうです。「町立病院なんか信用できるか!」とか救急車の中で騒いで市立病院連れて行くことになり、入院中の現在も看護師さん相手に大威張りして嫌われているようですな。

 ゾンビになるかもしれませんので個室です。国の「法定伝染病」と同等の扱いになりまして、つまりコレラ、結核、赤痢、ペストとかと同じ扱いですな。面会謝絶です。今は様子を見ているというか観察されてます。蝦夷大医学部の人が派遣されて張り付いてますよ。


 日が傾いた貯水池。ジムニーで貯水池に向かいます。助手席にはカメラ係の沙羅先輩が乗ってます。


「こんばんは、どうでした?」

「今日も何も出なかったよ」

 猟協会の馬稲町支部会長、長門さんとバトンタッチです。

 これから夜中の十二時まで僕の担当。

 警察の人も三交代で見張り続け。なかなか大変な作業ですなあ。


「水流すペース早めたら?」

「初志貫徹。そこ変えたら思わぬアクシデントになりますって」

「慎重だなあなかじーは」

 あのねえ先輩、調子に乗ってなにかやらかす、という失敗ケースを行政は大変嫌うんですよ。マニュアル通り、というのは、マニュアル通りにやる必要があるのだからマニュアルなのであって、施工業者が計算して定めた排水量をオーバーさせることは厳禁です。下流で洪水起こりますから。


 水だいぶ減ってきました。水量はもう半分以下にはなってるはずですので、根気よくやりましょう。


 夕暮れ、そろそろ日が沈みます。


 警察の人も交代時間が近くちょっとダレてきてますか。配給車が来てまして夕食の時間でもありますからね。こういうのんびりした時間、何か現れるフラグのような気がするのは僕の頭もだいぶ先輩に毒されてきたってことになるんでしょうか……。


「次は何が出るのかねえ」

「会長それフラ……不吉なこと言わないでくださいよ」

「あっはっは、じゃ、俺帰るわ!」

「はい、お疲れさまでした」

 そうして会長と、反対側にいた戸田さんが手を振り合ってます。


 軽トラでおじいちゃん来ました。今日はライフルのレミントンM700を背負ってます。

「どうだシン」

「なにもなし」

「お嬢ちゃんもご苦労様。それにしても今度は何が出るのかね」

 だからフラグは……。


 ぼこっ。 ぼこぼこっ。ぼこここここっ!

 ほうら言わんこっちゃない!

 浅くなってきた貯水池の真ん中からいきなり大量の泡が!

 帰りかけた会長と戸田さん、交代に整列していた警官隊がいっせいに貯水池の岸に駆け出します!

「なんだ!?」

『貯水池に異変あり! 貯水池に異変あり! 全員貯水池周囲の警戒に当たれ! 繰り返す! 貯水池に異変あり!』

 無線が飛び交います。なにか出てくる前兆でしょうか。


 ざぶっざぶざぶっ。激しい波と水しぶきが吹き上がります!

 そして荒れる水面から突き出す角!

 なにか大きな、ヒレのような、いやアレなんだ?!


「ちょちょちょ、なにごと!?」

 松本三佐が駆け寄ってきます。

 なんだか特撮物でこういうシーン見たことあるような気が……。


 ごぅおおおおおおお――――!

 ものすごい音というか、鳴き声というか、頭のようなものが水面から持ち上がります。

「いやあれサイじゃない?」

 角のある頭!

 確かにサイにもカバにも見えますが、大きすぎでしょ!


 ざぶ……ざぶ……ざぶ……と浅くなった水を押しのけて、岸にたどり着きます。

『避難! 岸にいる者は避難――――!』


 警察の無線が避難命令を絶叫します!

 悲鳴と共にクモの子を散らすように警官隊が離れます。

 僕らは排水路にいますので、貯水池から100メートルぐらい離れてこの様子を見ています。沙羅先輩、もうすでにカメラ抱えてこれを撮影中です。肝が据わってきましたねえ。

 すり鉢状になっている貯水池の岸をのっそのっそと上がって、水をバシャバシャと体からたらしたその大型動物の全容が明らかになりました。


「サイ……?」

「違いますよ! アレ、恐竜です!!」


 大きな頭! 鼻先の角! 目の上に二本の角! そして首の後ろの襟巻状の平たい板! ものすごくぶっとい体、太い四肢! そして長いしっぽ!

 恐竜図鑑で見たことある、トリケラトプスそのまんまです!


「シ……シン、アレ、撃ってもいいのか!?」

 会長がブローニングAボルト300マグナムを出して言います。

「ダメです! 絶対に撃たないで! お巡りさん!」

 そばにいたお巡りさんに駆け寄ります。


 ごぅおおおおおおお――――!

 トリケラトプスが咆哮します。

 喉笛のような、呼吸音というか、なんか鳴き声って感じじゃないですが、大音響です!

 どすんどすん。周りにいる人間には目もくれず、岸を上がってきます!


「お巡りさん! 全員に絶対発砲しないように伝えてください! 発砲禁止!」

「発砲禁止! 全員発砲せず避難しろ! 繰り返す! 発砲禁止!」

 お巡りさんが無線で全員に伝えます。


『発砲禁止!』

『発砲禁止だ! 避難を優先!』


 全長10メートル近いんじゃないでしょうかね。

 トリケラトプス、給水の関係で少し小高い位置にある貯水池から町営牧場を見渡せるんですが、そこを眺めています。

 拳銃やらライフルやら警棒やらさすまたを持った警官が逃げてきます。


 どすん、どすん、どすん。

 トリケラトプス、歩き出しました。

 牧場に向かってます!

 牧場には牛たちが放牧されています。寝ていた牛、草を食んでいた牛たちがなにごとかと地響きに起き上がってこちらを見ています。


「牛が食われるぞ!」

 会長が焦ります。

「大丈夫! 大丈夫だから様子見てください!」

 どすん、どすん、どすん……。


 トリケラトプス、貯水池のある丘から下って、アスファルトの道路を乗り越えて、牧場の柵をバキバキと踏み倒し、牧場に入りました。

 ぶも――――。

 ぶも――――。 牛が吠えて走って逃げだしていきます。


 トリケラトプス、牧場の真ん中まで進んで……。



 草を食いだしました。



次回「39.恐竜の駆除って無理っぽい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発送が面白い [気になる点] 猟友会の苦労話、裏話、現代の警察、行政のダメな話関連のやりとりがくどいです。 メインの北海道に魔物が出た話に集中できないし、すごい邪魔に感じました。 そういう…
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