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34.ゾンビ、逮捕


 先に救急車来ました。

 町内に消防署はありますが、警察署はありません。駐在所だけですから。

 駐在さんがヒドラに倒れてから警官不在なんですよ。こんな状況じゃ配置されたい人もいませんか。


「え……誰運べばいいの?」

 猟協会の僕ら、自衛隊員、ロープで縛り上げられてうーあーと地面に伏せてもがいているゾンビたち。

 そりゃあ救急隊員さんも困りますよね。


「この人頼みます」

 村田さんを指さします。頭に腐った肉かぶってひどいことになってます。へたりこんで放心状態ですな。

「この人どうしたの?」

「ゾンビに襲われて腐った肉かぶっちゃったんです」

「いやいやいやいや冗談やめてよ。ちゃんと説明して」

「ちゃんとした説明です。これを至近距離で銃で撃ったら肉が飛び散ってかぶったんです。腐った肉、洗浄して消毒して、異常がないか診断してください。病原菌感染を疑って隔離してほしいです」

「ほんとかねえ……。まあそれぐらいなら町立病院で」

「はい、お願いします」

 そうして村田さん、両腕を抱えられて救急車に乗せられ、運ばれていきました。


 三十分ほどして、サイレン鳴らしてパトカーやってきました。

 穂得(ほっとく)警察署の方々です。三人ですね。

「こりゃあ……なにがあったの?」

 もうすっかり暗い現場で車のヘッドライト頼りに現場を眺めます。


「中島ああああ! とうとうやってくれたなオイ!」

 あの刑事さんが僕を見つけて詰め寄ります。

「やったって何をですか」

「人を撃ちやがって。いつかやると思ってたんだよお前は!」

「撃ってませんよ。今日はみんなも自衛隊の方々も一発も撃ってません。撃ったのは村田さんだけです」

「村田?」

「さっき救急車で町立病院に運ばれていきました」

「……いったい何があったんだ?」

 刑事さんが縛り上げられてうーあーと暴れているゾンビ見て、頭吹き飛ばされているゾンビ見て、僕を見ます。


「さあ、それを捜査するのが警察ですよね」

「なんなんだこいつら」

「さあ、それを調べるのも警察ですよね。よかったですね、今まで害獣だから、動物だからってずっと警察の仕事じゃないってあなたたちの出番がありませんでしたけど、今度こそ、人間が相手ですから警察のお仕事ですよ」


 くっくっく、はっはっは!

 管理事務所のプレハブ小屋の水道で手足、体を洗っていた自衛隊さんたちでしたが、みんな我慢できなくなって笑いました。


 さあて現場検証してる警察さんたちの目を盗んでさっそく先輩のビデオカメラとUSB接続して動画を僕のノートパソコンに取り込んでおきます。

 先輩、危ないのでとりあえず会長の車の上にそのままいてもらいます。

 それから、刑事さんにビデオのモニターで一部始終を見てもらいます。


「排水に水を流したら、こいつらが流れてきたと」

「はい」

「で、水死体だと思ったら起き上がって襲ってきたと」

「そうです」

「それで自衛隊のみなさんがこいつらを取り押さえた?」

 三佐さんも「そうです」と頷きます。


「こいつら何?」

「だからそれを調べるのが警察の仕事です。僕らこの人達が暴れるので取り押さえただけですから」

「こんなの連れてけって言うのかい!」

「それが仕事でしょ?」

「どう見ても死体だよね! 腐ってるよね!」

「でも生きてて動いてるでしょ?」

 ロープで縛られてるのにまだしぶとくもがいています。


「だいたいなんの容疑でさ!」

「公有地である町の貯水池への不法侵入です。抵抗するならお得意の公務執行妨害も適用したらどうですか。とにかくこんなところで何をやっていたのか署で話を聞いてあげてください。逮捕するのも釈放するのもそれからでいいでしょう」

「こんなやつら話が通じるかい!」

「黙秘権を行使する権利は誰にもあります」

「お前なあ……」


「じゃあ僕らにどうしろっていうんです? これ猟協会の仕事ですか? これ自衛隊の仕事ですか? 人間相手は警察の仕事でしょう?」

「……いや救急車でこいつら全員病院に」

「ロープ解いたら人襲ってきますけどねこいつら。みなさん誰か一人食べられてみますか? 暴行と殺人未遂の現行犯で逮捕できますよ」

「……」

「さ、僕らの調書もとってください。協力します」

「そのカメラも」

「メモリーカードでいいでしょ。カメラは役場の備品です。もっていかれたら困ります」

「渡してもらうよ」

「どうぞどうぞ」

 警察にメモリーカードを証拠で取りあげられるのはこれが何度目でしょう。町民の血税で購入したものですから、コピーしたら返してほしいんですけど。


 パトカー十台以上来まして、猟協会も自衛隊も全員パトカーの中で調書取られまして、警察の護送バスが来て、帰っていいって言われたのもう夜明け近かったです。

 その間ずーっとゾンビ、縛られたまま「あーうー」と暴れてまして、どうなっちゃうんでしょうねえこれ……。



 帰ってすぐシャワー浴びて、念入りに体を洗いました。もう薬用ハンドソープ使って全身何度も。

 着ていた服は全部ビニール袋に入れて、ゴミ焼却炉で燃やします。

 ゾンビですからね、なにかに感染とかしたら大変ですわ。

 僕だって小学生の時友達の家でバイオ2とかゲームやりましたから、これがウイルス感染とかで伝染するとかあったら怖いです。

 噛まれた人とか、かじられた人は幸いいませんでしたから、大丈夫だとは思うんですが……、村田さんは、どうなるかわかりません。腐肉をかぶっちゃいましたから。


 昼まで寝てて、起きたら家族とテレビ見ながら食事です。

『北海道、馬稲町の町営牧場施設の貯水場で、昨夜未明、陸上自衛隊の捜索により六体の水死体が排水路より発見されました。遺体はいずれも損傷がひどく、一部白骨化しており、先日まで大型毒蛇、毒蜘蛛の発生があったことから、警察では遺体の身元確認と、一連の大型獣の被害との関連性がないか、慎重に捜査を進めています』


 警察が現場検証しているヘリコプター映像と、立ち入り禁止にされた現場の外からのカメラ映像が映っていますが……。そんだけ?

 村田さんは?

 猟協会この件無視されてるんですか。

 ゾンビどうなったんです? 動いていたんだから死体はないでしょあれ。

 もうなんだかなあ。


「……シン、この件きのうお前が出向いたやつなんじゃないのか?」

「うんまあね」

「なにがあったんだよ……死体って、町民なのか?」

 兄貴も家族全員も心配顔です。妹は今高校行ってていないです。

「ゾンビが出たんだよ」

 おじいちゃんがそう言うとみんなぶほっと吹き出します。

 あああああ、おじいちゃんやめてやめてやめて。


「ゾンビだってえ!」

「お嬢ちゃんがそう言ってたべや」

「……おじいちゃん、わかってゾンビって言ってる?」

「いやまったくわかんねえけど」


「本物なのか!? 本当にゾンビなのか!」

 兄貴食いつく食いつく。

 バイオとかホラーでおなじみのモンスターですからね。

「いやそんなのわかるわけないでしょ。今警察で調べてるってば」

「調べるって、どうやって……」

「事情聴取でもしてるんじゃない?」

 自分で言っててシュールです。刑事さんが取調室で、ゾンビ相手に「食え」とか言ってカツ丼出してる光景が頭に浮かびます。


「それって物凄い感染になるんじゃないのか?」

 なんでゾンビって言うとみんなすぐ感染ってことになるのかなあ。

「……ゲームじゃないんだからさ。人間が、生きてるのか死んでるのかよくわからない状態になってるだけ。相手が動物ならともかく、人間なんだからこれ警察の仕事。僕らなんにもやること無いの。関係ないの。あと全部警察がやってくれるの。だからみんな別に心配しないでいいからさ」



 細かいところは何とかうまいことごまかしまして、午後役場に出勤です。

 報告書……いやどう報告したらいいんでしょうねコレ。

「中島君! ゾンビ出たってほんとかい!」

 いや町長も総務課長も農政課の課長も僕のデスクに押しかけるのはやめてくださいよ……。


「中島ァアアアアアアア!」

 怒鳴りながら役場に踏み込んでくるのはやめてください宮本先生。

「昨日勝手に捕獲やったのか! 何か出たのか!」

「出ましたよ」

「蝦夷大の医学部警察に呼ばれてたぞ! なんでこっちに最初に話をせん!」

「人間の死体なんで、先生の専門外でしょ」

「うち以外にサンプル提供しないことになってるはずだ!」

 ゾンビのサンプル欲しいんですか先生。僕だったらいりませんねそんなもの。

「……この件、警察が全部やることになってますから、相手が人間の死体だったんで警察が蝦夷大の医学部に連絡したんでしょう。僕ら他の所に話なんてまだしてませんよ」


「中島ああああああ――――!」

 いやだから警察の制服で役場に踏み込んでくるのはやめてください刑事さん。

 いやほんっとうに制服警官が僕を名指しで踏み込んでくるってシャレでなく状況が最悪ですから。見た人全員、僕がなにかやらかしたと思うじゃないですか。

「お前アレなんだか知ってるだろ! こんなことがずっと起こってるの全部事情知ってるだろ! なにを隠してる!」


 ……いやそんなこと言われても……。今までさんざん知らん顔してきたくせに自分に火の粉が降りかかるととたんにソレですか。


「中島くん」

 松本三佐さん来ました。迷彩の上下です。僕らぐらいの田舎町だと自衛隊さんはみんなこの格好でスーパーとかコンビニで買い物してます。誰も気にしません。

「あ、こんにちは。どうされましたか?」

「いや役場に報告が必要だと思って。君の話だけじゃ信じてもらうのは大変だろう。なんの騒ぎ?」

 強面に囲まれてるデスクの僕見て、気の毒そうな顔してます。

 唯一の味方の登場に泣けてきます。やっぱり共に戦った戦友は違いますね。

「……とりあえず会議室行きましょうか」


 二階会議室。ノートパソコンをプロジェクターにつなぎまして、それをスクリーンに映します。昨日の一部始終全部ですね。撮影は沙羅先輩です。

 まず自衛隊が捜索をした結果、貯水場の排水溝がクモの巣でふさがれていたこと、そこに水を流して、中を洗い流し、中身を押し出してしまおうとしたこと。ここまでは役場の関係者にも事前に連絡済です。

 その後、死体が流れ出てきたこと、流れてきた死体が動き出したこと。自衛隊の皆さんと格闘になったこと。村田さんが発砲し、死体一体を残し全員確保したこと。


 ……。


 全員声もありません。刑事さんは、僕のメモリーカード押収してましたから、見てるでしょうけど。

「ここまではよろしいですよね、松本三佐さん」

「そのとおり。全部中島くんの説明通りですよ」

「刑事さんも了解してますよね。ビデオ映像押収したし、僕らから調書も取ったし、容疑者も全員逮捕したでしょうし」


「これどういうこと……?」

「ゾンビです」

 なぜかちゃっかり席にいる沙羅先輩が町長の質問に答えます。

 もう僕どうしていいかわかんないんで沙羅先輩に任せたいです。

「ゾンビって、あのホラー映画に出てくるやつ?」

「『バイオ』とかに出てくるやつ?」

「『スリラー』で踊ってるやつ?」

「ゾンビってなに?」

 年代で反応がバラバラですな。


「そうです。ゾンビですよコレは」

 先輩、なんなんですかそのドヤ顔は。



次回「35.撃ったらダメなやつ」

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