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31.自衛隊、撤収


「先輩、広報の方はどうなってますか」

「バッチリ」


 広報のホームページ見せてもらいます。

 なんかキャラクターが踊ってます。

 スラちゃん、ヒドラくんです。なんですかこのゆるキャラ。

 ピンクのスライムがぽよんぽよん。ヒドラくんはうねうねうねって二つの頭がハートマーク作ってキスしてます。


「却下ああああああああ!!」

 こんなの大炎上するに決まってるじゃないですか! 何考えてるんですか!


「いや親しみやすいキャラにして怖いイメージを払拭しようと」

「なんで払拭する必要があるんです! こいつら人間見つけたら襲ってくるんですよ? 近寄らないように注意喚起しないといけないのに!」

「ヒドラくんはオスなんでしょ? オス同士一心同体、これはカップリングするしかないでしょう」

「腐らすなあああああああ!!」

「ダメ?」

「ダメです。カノ子ちゃんなんでこれ止めないの!」

「キャラデザインは私ですが」

「カノ子ちゃんもそっちの世界の人でしたか……」

 がっくり、手を机の上に付きます。


「これ総務OKしたんですか?」

「してない! してないから!」

 総務課長がぶんぶんぶんって首振ります。

「公開しちゃいました?」

「まだしてない」

「じゃそのパソコンも給湯のシンクに叩き込まれないうちに全部やり直してください。ゆるキャラとかダメです。町おこしとか考えないで。これ災害なんですから。日本中からこの非常時になにふざけてんだと役場が物理的に炎上しちゃいます」

 暴徒が押し寄せて役場が放火されますよこんなの……。


「事実だけを淡々と報告する内容でお願いします。余計なこと必要ないです。すでに公開されている動画にもリンク貼って町内の人がみんな見られるようにしてください。今のままだとマスコミの報道に煽られてパニックになりますから、今回の大型動物は全部すでに駆除されているってわかるように」

「生き残りいるかもしれない」

「それは自衛隊がやってます。お願いします」

「はあい」

「カノ子ちゃんも」

「はあい」

 この人達に任せるとかないわー。失敗だったかなあ……。

「課長、この二人の仕事見張ってて」

「わかった」

 渋々って感じですけどねえ、これは従ってもらわないといけませんよお二人さん。



 三日が過ぎ、ニュースの方もだいぶ落ち着いてきましたが、国会では今回の出動において「国会の決議が必要だ」と騒いでおりまして、それを内閣が「これは災害派遣だから国会の承認は必要ない」とつっぱねておりまして、例によって「審議拒否」をしておりまして、その間国会は空転しておりまして、「我々は団結して絶対に承認しない!」と申しておりまして、いやだから災害派遣に皆さんの承認は必要ないと再三に渡って総理も防衛大臣も官房長官も説明をなさっておいでですが、聞く耳持たないという感じでして。

 承認が必要だって言う側が絶対に承認しないぞって頑張るのもヘンな話だと思うんですけど。


 町営牧場のゲート前では「一万人集会(主催者発表)」による抗議デモが行われ、二百人ちょっとの人が「自衛隊は出て行けー!」「自衛隊の武力行使を許すなー!」とか、ちょっと毛色の変わった人が、というか外国人さんが「野生動物ヲ殺スナー!」とか横断幕を広げて騒いでおりました。見たところ町民の方はおりませんな。こんな活動する人が町民にいたら、ずっと前から役場に何かというと怒鳴り込んできていて、職員の間で知らない人がいないはずです。停まってる車も他の行政区や他県ばかりですし。

 まあ牧場に出入りするゲートは他にいくつもありますから、好きなだけやっててもらっていいんですけど。

「人の輪で牧場を封鎖する」という案もあったようですが、牧場広すぎることと、おかしな野生動物に襲われても知りませんよということでそちらの参加者はいなかったようです。はははは……。


 僕は抗議活動やってるのとは別のゲートから出入りして、毎日自衛隊の派遣隊長に話を聞き、捜索状況を教えてもらっています。

 隣町の自衛隊駐屯地、基地のナンバー2の方ですね。松本三佐さんです。

 牧場内に張られたテントの中で話します。

「災害派遣ってのは、市町村長の要請により、駐屯地の基地長が命令することができるんですよ」

「あ、そうだったんですか。なるほどね。災害救助ってのは迅速さが求められますからね」

「ええ、別に違法じゃないし、前例はいくらでもあるんです。創立以来自衛隊の災害派遣は三万件を超えています。山岳遭難者の救助から大震災まで幅広いので、いちいち総理大臣や国会の承認や命令はいらないんです。害獣の駆除も前例があります」

 なあんだ。マスコミの人たちが言ってることって全部デタラメなんですね。普通にちゃんと報道すれば何も問題にならないことなんでしょうけど、マスコミには『報道しない自由』がありますからねえ……。

「ただ、今回の場合は我々も武器使用が考えられ、マスコミも注目する事態ですからね。中央省庁に無断で出動というわけには行かず、ストップがかかり、どうしてもOKが出ませんでした」

「まあそうでしょうね……国会でも、謎の市民のみなさんもあのとおりですからね」

 ……三佐さん、苦笑いです。


「今回の出動も、いわゆる通常の災害派遣のルールに則って行われています。町民の皆様には不安に感じることはなにもないとお伝え下さい」

「そのことは町の広報でお知らせします」

「お願いします」

「捜索は?」

「今日までなにも発見できておりません。このまま町境まで範囲を広げ、なにも発見できなければ、安全確認終了ということで、今日の夜に撤収します」

「そうですか……」

 それでいいのか。もっといてほしいとも思いますが、それはダメなんでしょうね。

「私達は全員、猟協会の皆さんがあの未確認動物に立ち向かうところニュースで見ております。あの勇気、決断力、行動力、敬意を表します。我々自衛隊もああでありたいと思います」

「それ、広報に載せられませんね」

「ご内密に」

 にかっと笑う三佐さんが敬礼してくれます。


 まあ、これでおしまいということですな。

 僕が敬礼するのは変でしょうからね。会釈して、テントを失礼します。

 半分ぐらいの自衛隊の方が撤収準備に入っておりますか。

 あいかわらずマスコミのヘリコプターが上空でバラバラとうるさいです。

 立ち去る前に振り返って、「あ、もう一つ」


「なにか?」

 三佐さんが机に広げられた地図から顔を上げます。

「あれ、どこから来たかわかりましたか?」

「……どこからかと言うと?」

「あれ、北海道にいない動物です。世界中にもいません。まるでどこか別の世界からやってきたみたいにおかしな生き物ばかりでした。どこからか持ち込まれたような痕跡はありましたか?」

「……無いですが、一つ」

「はい?」

「ここなんですが」


 町営牧場に隣接する貯水池があります。敷地面積二万平方メートル。

「ここの排水口に、蜘蛛の糸がびっしりと張られていました」

「排水口に……クモの巣があったということですか?」

「わかりません。そうかもしれません」

「排水を開けて貯水池の水を流して、きれいにしてしまいましょうか」

「……悪くない手だと思います。排水路を一時的にせき止めて排水路を水浸しにしたほうがいいかもしれません。もし中になにかいるのだとしたらですが」

「わかりました。近日中にやりましょう。あの、危険がある可能性は」

「……あります。やるときはご連絡ください。私どもで立ち会います」

「お願いします」


 ……なんだか変なことになってきましたよ?




 その夜、深夜0時をもってして作戦終了、なにもなしということで、自衛隊のみなさんが撤収していきました。

 自衛隊の大型車両、輸送トラック、タイヤ型装甲車、軍用パジェロ、次々と牧場のゲートをくぐって、隣町の駐屯地に帰還してゆきます。さすがに戦車の動員はなかったようです。

 それを僕と、役場のスタッフで見守ります。

 たくさんのマスコミのカメラが追っています。この大騒ぎもこれでひとまず収まりそうです。



次回「32.先輩の異世界講座」

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