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24.二次災害


 沢の中のヒドラ、びくっと震えて、頭を二つ持ち上げ、ぐるんぐるんとのたうち回り始めました!

「当たった! 撃たないで! 様子見て!」

『当たったか――!』

「先生私語禁止!」

 ぴゅっ、ぴゅってゆっくりした間隔で血を振りまいてます。

 沢に身を沈めて体を冷やしていたので、心拍数が低いんでしょう。

 大型のヘビが水をせき止めた沢の中で暴れてるんですから、水しぶきが凄いです。

 ケガをしていないほうの頭を持ち上げて周囲をぐるぐる見てますが、100メートル離れている僕らのことはさすがに発見できないようです。

 動きが鈍くなってきて、腹の部分が裏返ったまま、のたっのたっとしています。

 逃げ出す様子はありません。苦しそうです。胴が波打ちます。

『なかなか死なないな』

「死んだらあの持ち上げてる頭も落ちるはずです。こりゃ時間かかりますよきっと」

『ホントに当たったのかい?』

「血を吹き出して振りまいてますから、心臓か、動脈か、かなりいいとこ当たったはずです、しばらくお待ちください先生」


 ライフルの音を聞きつけたテレビクルーから連絡受けたのか、上空をバラバラとヘリコプターが飛んできます。うるさいなあ……。

 狭い沢で、木の枝が覆いかぶさっていますから、今まで上空からは発見できなかったんでしょうね。

 十五分ほど双眼鏡で観察してると、やっと持ち上げていたほうの首が下がって、沢にばしゃっと落ちました。

「よし接近」

 会長の指示で、全員でゆっくり近寄ります。

 全員10メートルぐらいまで近寄りました。頭が沢に浸ってます。

 あれじゃ窒息しちゃうはずですから、ま、死んだってことになりますか。


「本当だったらここで頭にもう一発撃ち込むところだけどな」

 クマは死んだふりとかもします。近づいたら頭に一発撃ち込むとかやっておいたほうがいいです。

 キツネなども空気銃で撃つとその場は倒れますが、目を離すとしばらくして回復して、逃げてしまうことがあります。銃の威力が不十分な場合は、もう一発撃ち込んでおく、というのは重要です。

「今回それやったら先生が怒るでしょうからねえ」

 ピクリとも動かなくなったヘビを遠巻きに取り囲みます。水に沈んだヘビの頭、岸に放り出されているような感じのもう一つの頭、双眼鏡で見るとどちらも瞳孔が開いています。

 動物図鑑の写真で見ると、ヘビの瞳孔は猫みたいに昼間は縦になってるものが多いです。夜行性のハンターですから。

「確認します……。みなさんいつでも撃てるようにして下さい」

 猟協会のみんながヘビの頭を狙ってます。

 僕は右手にショットガン、左手にペンライトを持って近づき、まず水に沈んだほうの頭の眼球を照らします。瞳孔が縮んだりしませんね。もう一つ。岸の方の、以前おじいちゃんに撃たれた頭。こちらも、光を当てても瞳孔が縮みません。

「先生、これ瞳孔にライト当てても縮まないんですけど、これで死亡確認OKですよね」

『了解了解! 今そっち行くよ!』

 終了です。



「写真撮ります。みんな集まって」

 みんなにヘビの前に集まってもらって、今日の日付と捕獲場所の「町営牧場」のプラカード持ってもらって写真撮ります。


「はい! 笑わないで! マジメな顔で!」

 パシャッ。


 よくねえ獲物の前で猟協会のみんなが集まって集合写真撮ってるのが流出して『動物殺して喜んで笑顔で記念撮影とか完全に精神異常者』なんて言われて批判されたりしますけど、これやらないといけないことなんです。あとで役場に提出して、獲物の捕獲の証拠写真、参加メンバーの確認なんです。これ撮り忘れると日当も報酬も出ませんからね? こんな写真で笑うことも許されないんです僕ら。


 昔は動物のしっぽとか鳥の足とか持っていけば受け付けてくれたそうです。でもお役人が、汚い、気持ち悪い、そんなもの持ってこられても困るということで写真で持って来いってことになりましてねえ。

 具体的に言うとキツネのエキノコックス感染が広がってからそうなりました。

 写真でもっていくにも頭を右側に向けてスプレーで胴体に日付を書いてとかルールがあります。ほら写真何枚も撮りなおしたら一頭で数匹分の請求出来ちゃいますから。

 今でこそコンビニのデジカメプリントで簡単に写真用意できますけど、昔はフィルムでしたから一頭獲っただけでも写真現像に出してプリントしてって大変な手間と費用だったそうです。一匹千円の獲物でも弾代ガス代まで考えれば完全に赤字ですよね。でも写真付けて出さないと駆除実績になりませんので、「仕事やってない」ってことになって従事者証のおとりあげ、さらには鉄砲のお取り上げにもなりかねません。

 環境省が決めたルールですからしょうがないか。机の上だけで考えてるからこんな膨大な手間暇平気で押し付けられるんですよ。やらされるほうの身にもなって欲しいですねえ……。


 ……そういや僕もお役人でしたか。役場の職員ですもんね。あんまり文句言うとヤブヘビかな。

「中島君これペイントしないでいいの?」

 スプレーで日付書くやつね。

「本当はこのヘビにもスプレーでペイントしないといけないんですけど、個体がこの一匹だけでしょうしそれやったら先生が怒るでしょうからまあ今日は省略で」

「おっけい」

 あと、解散して僕が普通に資料写真撮ってると、宮本先生、スタッフと乗り合わせてランクルでやってきました。

「いやあ、ありがと! ありがとう!」

 そんなこと言って大喜びで沢に長靴で入って来て、スタッフと一緒に写真撮りまくってます。

 いや記念写真はいいからさ。あんたたちがそれやると後でネットで炎上しますよ? 学術的な資料写真を優先してくださいよ。


「奇形ってわけじゃなさそうだな」

「うん、左右のバランスいい。こういう種なのかもしれないです」

「頭が二つある種なんて確認されたことが無いよ。大発見だな」

「ここ撃たれてますね。ド真ん中」

「いやーさすがだねえ」

「しっぽのGPSまだぶら下がったままっスね。よかった回収できて」

「全長! 全長計って!」

「いやこれは……。どうしたもんですかね。巻き尺じゃ足りませんよ」

「じゃ胴回りから」


 先生たち夢中になってますんでね、僕らはそれを眺めて一休みです。みんなタバコ吸って一服ですね。

「なんかだいぶかかりそう」

 会長がウンザリです。

「これどうやって回収すんの?」

「牧場のユニックでなんとかなるだろ」

 クレーン付きのトラックのことですね。それ借りるつもりですか。

 札幌まで借りっぱなし? それ大丈夫なの?


 マスコミのヘリコプター、上空でうるさいです。しつこいなあ。

 これテレビ中継されて、ワイドショーでもニュースでも何度も流れて、それで僕ら猟協会、またメチャメチャ批判されたりするんでしょうか。

 イヤですねえ……。


 バラバラバラバラ。

 ヘリコプターが一台、急に低空まで降りてきました。

 なんだよマスコミ……。そんな近くで撮らなくても……。

 ヘリのドアを開けてカメラ突きだしてるカメラマンの人、必死に手を振って僕らのまわり指さしてます。


 ?


 ちょっとおかしいかな?

 ぷるるるるるるる、ぷるるるるるるる。

 宮本先生の携帯電話が鳴ります。

「なにが近づいてるって?」

 なにか近づいてるんですか?


「クマ? クモが近づいてる?」

 クマ? クモ? どっち?

 蜘蛛?

 クモってなんです?


次回「25.包囲網、突破」

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