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10.捕獲成功!


「すいません……。お恥ずかしい所を」

 先輩落ち着いたのか、振り返っておじいちゃんに頭を下げます。


「これ食いな」

 おじいちゃんが干し肉を出します。

 エゾシカのビーフジャーキー、いや、ディアジャーキーでしょうか。手作りです。

「もぐもぐもぐ……変わった味」

「エゾシカだから」

「でもおいしい」

 おいしいかなー。僕は年中食わされてるからでしょうか、美味しいとは思いませんね。シカ肉は飼育された肉牛と違って明らかに別の味がします。レバーっぽいと言いますか、脂身の匂いがまるでしないパサパサ肉になります。


「どころでこのでっかいお姉さん誰?」

「高校の時のいっこ上の先輩。小波沙羅(こなみさら)さん。Aコープでレジしてる」

「どうも、シンの祖父です」

「あ、猟協会の方ですか?」

「そうそう」

「なかじー……シン君にはいつもお世話になってます」

「お世話じゃありません。ずーっと迷惑かけられっぱなしなんですから」

 まったくホントこの先輩には迷惑だけしかかけられておりませんて。


「そう邪険にすんなシン。美人でいい姉ちゃんじゃねーか。『年上の女房は(カネ)草鞋(わらじ)を履いてでも探せ』と言うべさ」

「『畳と女房は新しいほうがいい』とも言うけどね」

「うっ」

 先輩バツイチですからね。あっはっは。


「……スマホで見たんだけど、動画、すごく注目されちゃってるよね。ごめんね」

「あれだけ拡散しちゃったらもうどうしようもないですよ。マスコミが押しかけてくる前に打てるだけ手を打つことになります」

「今日はなにやってるの?」

「とりあえず捕獲できないかと思ってわなを仕掛けてます」

「わな? 捕まるの?」

「まあなんとか。鹿とかクマとかでも捕らえられる鉄骨の箱罠だからうまくいけば捕らえられるかなーって」

「無理無理無理無理! 絶対無理だと思う! だって相手スライムだよ! 狭い穴とか隙間からでもにゅーって抜けられるし、鉄製の檻だって酸で溶かしちゃうし!」

「それはやってみないとわからないでしょう。酸も、昨日のを見たところじゃ塗装がボロボロになったりタイヤの表面が溶ける程度で洗えば落ちましたし」

「姉ちゃんアレがなんだか知ってるのか!?」

 おじいちゃんがびっくりですね。


「いやこの人ねえゲームとかアニメとかの知識でしゃべってるから空想の話なの。本気にしないでおじいちゃん」

「捕まえてどうするの」

「部外者に業務内容を漏らすことはできません」

「それぐらいいいじゃない」

「僕は役場の職員、公務員です。先輩が今こうしていることも公務執行妨害です」

「明日蝦夷大の先生方が来るからね、見てもらおうと思って」

 それ言っちゃいますかおじいちゃん。

「そうなんだ……うまく捕まるといいね」

「来た」



 ごろごろごろごろ。やってきましたスライムが。

 二匹います。

「静かに」

 ライトを消し、アイドリングしていたエンジンも止めます。

 時計を見ます。夜中の十二時です。

「こちら中島。こちら中島。やってきました。罠に捕まるかどうかしばらく観察します。ライトを消してエンジン止めて待機ください」

 ハンディのデジタル簡易無線で通信します。重機に乗って待機中の猟協会のみんなから『了解』、『わかった』、『了解』って返事来ます。みんなルームランプを消灯します。


 目が慣れて月明りですけど見えるようになってきました。

 電柵に触れては離れているようです。やっぱり感電すると嫌がりますか。そこは他の野生動物と変わりないですね。

 でも罠の中に吊り下げられているクマの生肉に誘われてるのか、少しずつ箱罠に近づいてきます。

「暗くて見えない」

「俺も見えない」

 箱罠にWi-Fiの監視カメラつけといたので、ダッシュボードの上にノートパソコンを置いてディスプレイに表示させ録画します。ディスプレイは自動的に調光してくれますがそれでもちょっと明るすぎるので少し暗くします。目が明るいのに慣れてしまうといざという時困ります。

「キーボード光るんだ。シンクパッドかっこいいな……私も次これ買おうかな」

「シンはいろいろスゲエの持ってんなあ。俺にはさっぱりだけどな」

「いいからおじいちゃん鉄砲しまって」

 もう銃袋から取り出して、ショットシェル握っていつでも装填できる構えですね。

 また銃に弾込めはしていません。ベテランらしい安全配慮です。


 ごろごろごろごろ、罠の前で立ち止まってます。さすがに怪しんでいるようです。

 クマ罠のほうじゃなくてシカ罠のほうが興味があるようです。

 箱罠についてる匂いの差かな? スライムでもクマは怖いようです。クマ肉にして失敗だったかな。


「こんなやつ初めて見るわ……。なんなんだこいつら」

「だからスライムですよおじい様」

「そんなことはまだわかりませんて」


 ぐにょーって箱罠の中に一匹入ってきました。

 なんか伸びて肉に近づいています。

 もう一匹も入ってきました。一匹が肉に絡みついて、取り込もうとしています。

 

 ガシャン!

 箱罠の扉が落ちました! 成功です!


「やった!」

「待って!」

 おじいちゃんが車の外に出ようとしますが押しとどめます。

 無線で各員に連絡。

「様子を見ます。もう少し待機して!」

「なんでだよ?!」

「中で暴れるかもしれないから、安全確認してからにして」

 おじいちゃんがイライラしますね。


 パソコンのディスプレイに映ったスライム、扉が閉まってもまったく動ぜずお肉に夢中な感じですね。二匹からみあって肉にとりついています。

 十五分ほど経ちましたが、肉を二匹で引きずり落として、ちぎり、体の中に取り込んでいます。

「やっぱりスライムって体の中に獲物取り込んで消化するんだ」

 いや先輩ゲームでもそんな描写はさすがにないでしょ。どういうグロ画像ですか。

「確保します。出てきていいですよ」

 無線でそう指示して、エンジンをかけ、ライトを照らし接近します。


 重機たちもエンジンをかけ、ライトを全方向に照射しながら柵の前に来ました。

 みんな車を降りて檻を見ます。いきなり光を当てられても動じませんね、スライムたちが中でぐねぐねごろごろしています。

「やったな!」

「うわー気持ち悪いわ……」

「なんだよこれ」

 僕もデジタル一眼レフを取り出しまして、そんなスライムたちをパシャパシャ撮影します。先輩もおじいちゃんも、猟協会のメンバーもみんな出てきて檻を取り囲んで驚きますね。

 まだ中で暴れる様子はありません。一応、成功かな。


「で、どうする? 止め刺しする?」

 会長の長門さんが物騒なことを言います。

「貴重なサンプルです。明日には蝦夷大の先生たちも見に来ますし、生きたまま見てもらったほうがいいでしょうね」

「そりゃそうか……」

 うんうんとみんな頷きます。

「これ殺すとどうなんの?」

「昨日見た限りでは、押しつぶしたり押さえつけたりしてやっつけた奴はどろっとして液状化して、跡形も残って無かったです。地面に吸い込まれちゃうんじゃないでしょうかね」

「クラゲみたいだな」

「ああそうか! そうかもしれませんね! 陸のクラゲって感じしますねそう言われれば」


 海に行くとクラゲ、いっぱい浜に撃ち上げられていたりしますけど、ぐにょぐにょしてて透明で、乾くとただのシミになっちゃうぐらい水っぽいですもんね。

「シンは何だと思ってたんだ?」

「ほら僕、粘菌だとばっかり思ってたもんですから」

「ああ、あの微生物な」

「クラゲじゃないよスライムだよ」

「先輩黙って」

 スライムに固執しますなあオタ先輩は。めんどくさいです。


 透明で、水色です。透明な中にいろんな組織があって、丸い核みたいなものがあります。

 細胞核かな……。

 いやこんな大きさで単細胞生物ってことはないでしょうし。

「あんまり近づかないで、酸の液吹きますからかけられるとたぶんヤケドします」

「おお、こわこわ」

 檻に近づこうとした事務局長の田原さんに注意します。ちぎったお肉を体の中に取り込んでいます。少しずつ消化するのでしょうかね。現代の日本にスライムかあ……。ファンタジーですな。


「こうやって牧場に毎晩やってくるってことは、巣があるのかな」

「きっと異世界に繋がるゲートがあるはず。ダンジョンができてるかも」

「先輩オタ発言やめて」

「で、どうする? 檻回収する?」

「明日の朝までこのままで、現場を保存してそのまんま先生たちに見てもらいましょう。ここに来てもらうのが一番です」

「だな」

「じゃあ俺たちは一晩中ここで見張りか?」

「面倒ですけどそうなりますねえ」

 そんなわけでみんなで交代で見張りです。

 まあもう御年七十歳近い方もいらっしゃいますので、そこは僕ら若手が頑張るということで、みなさん自分のランクルに戻っていきました。

 猟協会の人はみんなランドクルーザーを愛車にしてますが、どれもロクマルとかナナマルとかのやたら古いやつばかりです。ランドクルーザーって二十万キロとか平気で走るし、最新のランクルはデカすぎて電子装備や内装も乗用車みたいに立派でダメですね。ハンティングに使っていい車じゃないです。


「私は?」

「帰って」

 なにメンバー顔してんですか先輩。あなた無関係でしょ。

「イヤ」

「いいから帰って」

「絶対イヤ」

「先輩ここにいることが職員にバレたら不法侵入で捕まりますよ。帰んなさい」

「そんな――――!」

「車、どこに停めたの?」

「ゲートの前」

「職員さんが朝出勤して出入りする時邪魔になるでしょ。さっさと帰ってください!」

 もう本当に帰ってもらわないと邪魔で邪魔でしょうがないです。

「もうわかった……スライム見られたし、帰る……」

 中古のワゴンRでしたっけ。あれじゃ牧場に入ってこれないですよね。


 今、夜中の一時です。

 札幌から出発してこの街に到着するまで高速使って三~四時間、先生たちが来るのは明日の昼近くになりますか。十時間以上こうして見張らないといけないわけか。大丈夫かなあ……。


 スライム二匹、ぐにょんぐにょんしています。

 体に取り込んだ餌のお肉を体を変形させてもみほぐし、消化している感じですか。

 今はこう捕まってくれていますけど、おなか一杯になったら逃げだそうとするんでしょうかね。不安です。

 こんなにぐにょぐにょ変形できるんだったら、鹿罠の檻の隙間からいくらでも逃げられそうな気がしてきました。普通の野生動物の常識が通用しない感じですね。先輩の言うことも一理あるか……。

 

 全員車に戻って、檻を取り囲み監視です。

 肉を食べて満腹になりましたか。一時間ほどして、二匹のスライム、動きはじめました。

 檻の中をゴロゴロ転がってましたが、外に出られないとわかったのか、ぐにょーって形を変えて隙間から出ようとします!

「シン! あれマズイぞ!」

 みんな車から出て取り囲みます。

 にょおおおおおおお。

 隙間から身を細めて出ようとします!


 僕はとっさに電柵の杭、掴んで引っこ抜いて、スライムに押し当てました!

 ビリっときたのか、スライム、身を引っ込めます。

 これは効くみたいです!


「電柵抜いて、取り囲みましょう!」

 みんなが扇型に展開していた電柵を次々に引っこ抜いて駆け寄ります。

「ぎゃ!」

「あちゃ!」

 なんかみんな感電してます。慌て過ぎです。スイッチ切らないと。

「慌てないで落ち着いて! 電源止めますから!」

 電源のメインスイッチをパチンと切って、みんなで箱罠の周りに電柵の杭を打ち直しです。ぐるぐる三重に取り囲み、ハンマーで打ちこんでから電源を入れます。


「ふうー……。これでなんとかなるか。いやあとっさによく思いついたなシン」

「最初に現れたとき電柵に触れてびっくりしてたの見てましたから」

「なるほどねえ。電柵が効くのはいいな」

 檻から出ようとしたスライム、電柵に触れては体を引っ込めます。これでまたしばらくは持つと思います。

「これって箱罠に電気つないで全体に電気かけたらいいんでないの? 箱罠、鉄製だし」

 おじいちゃんが物騒なことを言います。

「そんな事したらこいつらずーっと感電しっぱなしでしょう」

「わはははは! そりゃそうだな!」

 拷問したいわけじゃないんですからねおじいちゃん……。


「下に絶縁になるもの敷くか」

「それだと地面がアースになりませんから通電しませんね」

「ああそうか、難しいな」

 対スライムの箱罠、専用設計して考えないといけないかもしれません。


 何度か感電してスライム、学習したのか、おとなしくなりました。

 結局朝になるまでそんなふうに大騒ぎ小騒ぎしながら見張りです。


 ぷるるるる。

 朝になって役場から電話きました。農政課の大山課長ですね。

「おはよう。どう中島君? スライム獲れた?」

「おはようございます。そんなアライグマ獲るみたいに言われても……。とりあえず二匹捕まえました」

「おお――! すごいな! 早速成果出すところはさすがだよ」

「僕ら徹夜してますんでね、交代の人よこしてほしいんですが」

「あっはっは。わかったよ。」

「蝦夷大の人、何時に来るんです?」

「んー、十一時ぐらい? 向こうも急いでくれてるけど準備があるからって」

 まあ研究道具がいろいろあるでしょうからね。

「それまで僕ら見張ってないとダメなんですかねえ」

「そりゃあそうでしょ。逃げられたら大変だし」

 うわあ……。


 結局僕らもう寝不足でくらくらする頭でお昼まで待ちました。交代、結局誰も来やしねーしー!!

 お腹空いた……。

 おじいちゃんのディアジャーキー、くちゃくちゃ食べました。



次回「11.先生、何やってんすか……」

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