ルネサンスな百合ゲーに転生して、気づいたらハーレムの中心でした(?)
碧凪空と申します。初投稿です。
なのに何を血迷ったかGLです。友情以上恋愛未満、くらいですが。
思いつきで書いたプロットから無理矢理短編に作ったのでツッコミどころ満載です。
楽しんで頂ければ幸いです。
……どうしてこうなった。
目の前の光景を前に、睡魔に襲われて大あくびをかきながら、私は内心で呻いた。
部屋の奥、クッションを抱えて呆然とする私の目の前にあるのは、敷き詰められた九人分の布団と、その上でサドンデス枕投げを繰り広げる八人の美少女たち。その鬼気迫る形相に日頃の面影はなく、たとえ私が男子でもドン引きするだろうな……というレベルで真剣勝負が行われている。
しかも、彼女たちが懸けている賞品というのが、「私の隣で寝る権利」なのだ。毎日交替しても3泊4日の合宿では全員が隣で寝ることは無理、ということでこの枕投げが勃発した。まくら投げで、どうやって最後の二人を決める気なのだろう。
第三者である顧問の先生はというと、枕投げ開始直前に「ちょっと一服してくる」とこのコテージから出て行った。このご時世に女性ながらヘビースモーカーの先生のことだ。喫煙所もやや遠いし、帰ってくるまで十五分くらいかかるだろう。
……本当に、どこで選択肢を間違ったのだろう。
美大目指して浪人中だった私は、うっかりポックリ逝き転生した。死因は忘れた。
そして転生先は、ごく普通の現代日本のちょっと裕福な家庭だった。しかも「桐山彩夏」という名前の派手ではないけど可愛い、といういい感じの美少女に育ったもので「もしかしてなんかの乙女ゲームの世界かも!?」と浮かれていた。
この世界がどういう世界か思い至ったのは、今の女子校に転入した高校二年の春のことだった。
……あぁ、ここ、女の子が女の子とキャッキャウフフする百合ゲームの世界だわ。
「恋、色鮮やかに」というタイトルの百合ゲームは、前世でちょっと話題になったゲームだった。
一見現代女子校の美術部を舞台にした百合ゲーム(絵柄は乙女ゲーム系)に見えるが、実は各攻略キャラクターの全員が、イタリア・ルネサンス期の有名な芸術家をモデルにしている。公式でアナウンスされたわけじゃなく、設定とかを見た人たちの推測なんだけど、ストーリー中の小ネタを見ても、多分これで合っている。
三年生の鈴本麗と青梅芙海は、ロレンツォ・ギベルティとフィリッポ・ブルネレスキ。
二年生の鍵森金恵と立石真愛と小樽有紗は、フラ・アンジェリコとフィリッポ・リッピとサンドロ・ボッティチェリ。
一年生の藤村れおなと聖日色と多々良美華は、レオナルド・ダ・ヴィンチとラファエロ・サンティとミケランジェロ・ブオナローティ。
このゲームが発表された当時、名前だけ借りてきたようななんちゃって歴史偉人ゲームが多かった。そんな中で、名前は違うのに設定の作り込みは「スタッフにオタクがいる」と言われた細かさを誇るこのゲームは、色々な意味で異色であり、キャストもそこそこ豪華、かつ無料のブラウザゲームだったことから割とウケて、男女問わずそれなりの数のプレイヤーがいた。
かくいう私もその一人。前世も今世も部活は美術部一択かつ中学の友人の影響でばっちりオタクと化していた私は、全員を最低一回は攻略していた。攻略するほど設定というか小ネタが細かくて、突っ込みを入れていくのも楽しかった。一方でシナリオそのものは薄めというかダイジェスト気味だったのは、まぁ無料のゲームだし仕方ない。イベントごとのミニエピソードで補完あったし。
さて、ここが百合の世界だと気づいた時、多分美術部を回避していればゲームは始まらなかった。しかし、さっき言った通り、部活といえば美術部、な私の天秤は、ゲーム回避と美術部で学生生活謳歌の二択で後者に傾いた。
どうせ全員女の子だから友達になればいいとか、ゲームのシステム的にハーレムエンドはないとか、色々言い訳をつけて美術部に入った私は、ゲームのことを忘れて、普通に友達として、彼女たちと仲良くなった。
……うん、そのはずだった。つもりだった、ともいう。
ゲーム上プロローグ兼共通ルートである一学期。時に先輩方のライバル争いに巻き込まれて仲を取り持ち、時に天然が過ぎる部長と猪突猛進な副部長と胃を痛めている会計それぞれを支え、時にフリーダムな後輩たちのかわいい悪戯や遊びに付き合っていた。
そりゃ時々、誰かと二人っきりのときなんか空気変だなと思ったけど。女子校特有の空気かと思ってた。
そして今日は念願の美術部の合宿初日。同時に夏休みの初日でもあり、ゲームでは各キャラルートでの導入でもある。一学期終了後、その時点の好感度によってどのキャラのルートに入るのか選び、その後各キャラルートの一話が合宿エピソードだったのだ。
当然現実世界ではルートを選ぶタイミングなどなく、ごく普通に朝早く学校に集合して、楽しみだねーとかきゃあきゃあ言いながらバスに乗り込み、お菓子を交換したりゲームをしたりしていた。
あぁ、休憩のたびに席替えしようと言ってたのも、今考えるとおかしいな。最初は乗車順で奥に詰めていった結果金恵ちゃんだったんだけど、ことあるごとに真愛ちゃんやられおなちゃんやらひぃちゃんこと日色ちゃんが遊びに来てたっけ。
休憩のSAでは、麗先輩や芙海先輩がしきりに「何か食べる?」だの「何か飲む?」だの聞いてくれたけど、あれも何かイベントだったのだろうか。ゲームだとダイジェストで合宿着いたから知らん。
宿泊先であるコテージに着いた後は、キャンバスと絵具を持って、周辺のスケッチに行った。ここはそれぞれ描きたいものが違うので、三々五々散らばった。描いてる途中に様子を見に行ったり逆に誰かが見に来たり、というのは前世や前の学校でもあったので特に気にしてなかった。
で、夕食もにぎやかだったけど、合宿でみんな浮かれてるだけだと思ってた。普段ローテンション気味の有紗ちゃんや美華ちゃんもテンション高めだったけど、楽しそうでなにより、としか思ってなかった。
事ここに至ってようやく気が付いた。
おかしいでしょ、友達の隣で寝る権利かけて争うって。
どうしてこうなった。
再び、大あくびが出た。朝早かったしね。そろそろ睡魔が限界です。
私は、この争いを今すぐやめさせるか、先生が帰ってくるまで放っておくか、迷っていた。
アドレナリンが出まくっているのか、皆まだ元気で、決着がつくまで長そうだ。
このままでは、ここで寝落ちしかねない。寝落ちしたら、どうなるかな……。明日もまだスケッチがあるので、変な体勢で寝てバッキバキになるのも嫌だけど、その前に無事でいられるかな。
これまでの状況が読めてなかった以上、寝落ち後の最悪のケースは、ゲームの何人かのルートであったように寝込みを襲われるパターンだ。……いや、考えたくないな。本来個別ルートに突入したうえでの冬合宿でのイベントだけど、それを言えばこの状況自体がすでにゲームでは有り得ない。
で、寝落ち回避のためにどうするかなんだけど。
今すぐまくら投げをやめさせるなら、他の解決策を用意する必要がある。なんだろ、あみだくじとかでいいかな。でも、自分から「私の隣で寝たければ云々」いうの恥ずかしいな。
先生が帰ってくるまで放っておけば、その後はすぐ寝られると思う。問題は、いつ帰ってくるかなんだけど。そろそろ帰ってくると思うんだけどなぁ……。
ちらっとスマホを見ると、時間は十一時を過ぎている。先生が出て行ったのは……十分くらい前か。あと五分……保たないな。私は意を決して口を開いた。
「あの、皆……」
「ええい、外まで煩いぞお前ら!」
しかし、眠かった私の小さい声は、怒鳴り込んできた先生の怒声に完全にかき消された。先生が一番うるさいデス。ていうか、外まで響いてたんですね、この騒ぎ。それで急いで帰ってきたのかな。
未だに立っていた六人がぴしっと固まって入口の方を見る。
「鍵森、立石、小樽、藤村、聖、多々良! 説教してやるからこっちへ来い」
「え、あの……」
金恵ちゃんがおろおろしてる。部長だから、本当はこの騒ぎを止めるべきは彼女だった。普段おっとりしてるから、こういうのに慣れてないのかな。まあ、一緒にはしゃいじゃった時点でアウトなんだろうけど。
「で、でも、ここあたしたちで貸切だし、多少ならいいじゃないですか!」
「多少ならな。時間を考えろ。本来消灯時間は十時半だっただろう」
あ、真愛ちゃんが粘って撃沈した。副部長だしね、部長がダメなら副部長頑張らなきゃいけないよね、本来は。こういう娘だから、残る一人の二年生に負荷が行ってるんだけど。
「……すみませんでした」
あぁ、有紗ちゃんが凹んでる。私がしっかりしなきゃって言ってたもんね。頑張れ会計。今回はサポートしきれなかった。ていうか投げちゃった、ごめん。
「「「すみませんでした」」」
有紗ちゃんが謝ったからか、一年生三人も頭を下げる。が、それぞれ思うところがあるのか、不承不承といった体が見え見えだ。先生もそれがわかっているのか、大きくため息をついた。
「言い訳はあとで聞く。いいから来なさい」
有無を言わさぬ先生の口調に、肩を落とした同輩と後輩たちがすごすごと部屋を出ていく。残されたのは私と、部屋の端でいかにも寝落ちした風情の先輩たちだった。
と、ドアがぱたんと音を立てて閉じられた瞬間、先輩たちがぱちりと目を空けた。お互いの顔を見合わせると、私のところへやってきて、手を差し伸べる。
「さて、私たちと一緒に寝ましょうか。ね、さやちゃん」
「え、あの、麗先輩……?」
「多分先生の説教は一時間くらいかかるから。その間に寝てしまおう」
「芙海先輩……寝てたんじゃないんですか……?」
状況について行けず思ったままを口にすると、二人は鮮やかな笑みを浮かべた。
「「作戦勝ち」」
そういうときだけ仲いいのって、ずるいと思うんです、先輩方。
心の中でそうぼやきながら、先輩方に誘導されるまま、私は布団に横になったのだった。
おやすみなさーい。
ちょっと色々あって衝動で作った百合ゲームの設定をお蔵入りさせるのもなぁ、ということで無理矢理短編にしました。というかねじ込みました。
ゲームの設定説明が蛇足なことくらい分かってるんだ…本編に関係ないし…