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名もなき湖を見下ろして

2話完結の話です。

サクッと読めたらいいですけど、文章が重くなってしまったのでどうしたものか…

ある王国には大変美しい姫がいた。彼女は賢く、何よりも優しい心を持っていて国民からも慕われていた。

「もし、ご機嫌いかがかな?王女よ」

しかし、彼女は夜になると1人の…いや、一匹の魔物のところに赴くのが日課で、その経路は本人のみが知り得る情報となっていた。

「あら魔王様、何の用ですか?」

その魔物の風貌は猛々しくあり、禍々しくもあり…力の権化とも言えてしまうようなものだった。それには人々も畏怖の念を抱き、彼を魔王と呼んでいた。

「用がなければ、貴女の御尊顔を拝せませぬか?」

「普通なら恐らくは。私の顔など大した価値もありませんでしょうが」

「そのような物言いは感心しませんよ」

1人と1匹は非常に高い塔の上にポツンとある小部屋で向かい合う。小部屋には一等豪華な寝台と小さな円卓、そして2脚の椅子が用意されていた。また、1人と1匹がいる時だけ、部屋中を温もりある明かりが満たしていた。

「私はただ王と妃の間に生まれただけで、魔王様のように賢く、勇猛というわけでもないというのに」

そう寂しげに呟いた姫は2脚の椅子を両手でそれぞれ引きずり、湖を見下ろせる窓の近くに並べた。窓の外は夜になっていて、雲一つない空から青白い月光が湖全体に降り注いでいる。

「ではこの魔王の力も立派な両親がいたからとしか言えませんな」

「そのようなことは…!魔王様は努力家で…」

「ええ、日々の鍛錬がなければ、今こうして貴女と話すこともなかったでしょう。きっと我々は偶然だけでここにいるわけではありますまい。私達が持っている身分や地位なども同じ力なのですから」

魔王は姫に誘われる形で片方の椅子に座り、姫も隣の椅子にゆっくりと座った。

「やはり貴方を私の騎士にするべきでしたね」

「それは……あってはならないことです。私は………俺は魔王である以上、貴女の近くにいてはならないと…」

「いるではありませんか」

姫は肘掛に置かれた魔王の毛深い手に自らの手を重ねる。すると魔王は驚いたように目を見開き、彼女の美しい顔を見る。

「ほら?魔王様は決して危険な魔物ではないでしょう?」

姫は優しい笑顔で魔王を見つめ返す。

「王女……貴女は優しいお方だ」

しかし魔王は彼女の優しい笑顔を見た途端、それは今までにないほどに寂しい顔をした。

「魔王様?」

魔王は姫の重ねた手から自らの手を引き抜くと、両手を両膝の上に置く。それから深く息を吐き、窓から入る冷たい夜風を取り込んだところで口を開いた。


「俺の親友の話では、明日、勇者一行がここへ来るそうです」


その言葉だけで姫の笑顔は崩れ落ちる。

「そんな…」

「ええ、ですから今日中には王宮へ帰られた方がいい。俺との関係性を疑われてはいけない」

「私が!私が国王に進言しましょう!貴方は優しい方だと!」

姫は勢いよく立ち上がり、魔王の前で叫んだ。彼女の顔には驚きと焦り…そして悲しみが入り乱れ、見ている者を辛くさせる表情となる。魔王も彼女から顔を背け、ボサボサの髪を掻き毟る。

「王女よ、貴女がどれほど優しく賢いかは誰もが知っていることだ。しかしこればっかりは誰も聞こうとしないだろう。俺は魔王と呼ばれたその日から、王国の大罪者になった。それを今更覆すことなど…」

「でも魔王様は…!人を殺したことはないでしょう?私は勇者がいかなる人物か知っています。あれは首を縦にしか振れない殺傷兵器です。戦えば…いくら魔王様でも…」

姫は強引に魔王の手を両手で握った。そして彼を立ち上がらせようと非力ながらも引っ張る。

「逃げてください!いえ、逃げましょう!」

「何を…」

「勇者から逃げるのです。貴方のことを誰も知らない異国の地へ」

魔王は姫を見て、静かにため息を漏らした。

「勇者は俺を追ってきますよ。地の果てまで。あれはそういう存在です。貴女が教えてくれたではありませんか」

「ならば私を人質に…!」

姫は魔王の手を胸元に引き寄せ、必死な顔で魔王を見つめる。

「王女…それだけはしてはいけない」

魔王はゆっくりと立ち上がり、姫の目尻に溜まった涙を指で拭う。

「貴女は王女。国の諸悪の根源たる魔王の死は喜ばねばならない。国民の王女なのだから」

「しかし罪もない魔王様を見殺しにできましょうか」

「俺は魔物。王国は人の国よ。それに…易々と勇者風情に負けるほど弱くもない」

姫は魔王に抱きついた。魔王もそれを優しく受け止める。

「勇者は強いですよ?」

「魔王も強いさ」

「死を覚悟したわけではないのですね?」

「魔物とて命は惜しい」

「必ず…必ずや、生き延びるのですよ?」

魔王が姫の頭を撫でると、その手は不気味な光を放った。

「王女との約束を守れなければ、それこそ死刑ものでしょうな…ですから、今はお眠りくだされ」

光が姫を包み込む。すると彼女は力なく魔王の胸に沈んだ。


ーーーー・ーーーー


「魔王……殺したのか?」

眠りに落ちた姫を抱えた魔王の背後には1匹の魔物が姿を見せる。魔王は背中越しにその魔物を見るや苦笑した。

「なんだ我が友よ。俺が誰も殺せぬのは知っていよう」

「自らにそのような呪いをかけるとは…お主も馬鹿よな。それで勇者に勝てると思っているのか?」

「勝てぬだろうな…我が友、今からでも魔王にならんか?」

「お主が言ったのであろう?魔物とて命は惜しい、とな」

「そうだった…ああ、その通りだ」

魔王は姫の寝顔に微笑みかける。

「ならば…足掻くとしよう。誰かのために戦うのも悪くはない」

魔物は魔王の隣に立ち、魔王の顔を見て笑う。

「やはり馬鹿よな。お主は」

魔王が天井に向かって息を吐くと、部屋中を満たしていた明かりが消える。

「悪くない。ああ、悪くない」

キャラクター設定を詰め込むつもりだったんですけど、その辺は想像にお任せしますね。

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