ある研究の広告
男は金に困っていた。30半ばで最近バイトをクビになり、残っている金は財布の中にある580円だけである。これでは今月の家賃や光熱費も払えない。
「生活保護でも申請するかな……」
そう呟きながら寂れた商店街を歩いていると、道端に地方紙が落ちていた。男はそれを拾い上げて最近の情報を確認する。世の中はGW。○○フェスや○○物産展などの情報が多くを占めていた。
「みんな金もってるなぁ」
しばらく新聞を羨ましそうに見ていた男だが、ある広告を見つけた。それは、「臨床研究」の応募であった。内容は、「何もない青い部屋で一日過ごせたら1000万円」というものだ。男は驚いてその数字をもう一度数えなおした。
「たった一日で1000万か。やってみる価値はあるかもな」
男は新聞の地図を頼りに、目的地の病院へと向かった。そこはこじんまりとした、3階建ての、所々に赤錆のある薄気味悪い病院だった。今にも「出そう」な雰囲気だ。
男が中に入ると、中年の白衣を着た男性が、嬉しそうに彼を迎え入れた。
「もしかして、広告を見て来てくれたのかい」
「はい。俺は健康で、我慢強いほうです。一日なんかあっという間に終わると思いますが、本当に1000万貰えるんでしょうか」
「もちろん。だが本当にいいのかね?親族にはこのことを言っているのかい」
「たった一日だけなんで何の連絡も。とにかく早く実験がしたい。部屋に連れて行ってくれ」
「……わかりました。では案内いたしましょう」
キィイ――
重い扉が開かれる。中をのぞいてみると、本当に何もない原色の青い部屋があった。窓も、内側から開けるドアノブもなかった。勿論天井も真っ青である。
「たしかに辛そうだが、たった一日。我慢しよう」
「では、研究をはじめますよ」
扉は閉められ、ガチャリと施錠された音がする。それが男の聞いた最後の音であった。足音は聞こえない。遮音にも優れた部屋なのだろう。
「うわ。真っ青だ、気分が悪くなってきたぞ。こんなときは目を閉じればいいんだ。そうすれば俺に見える色は黒だ」
男は目を閉じて時が経つのを待った。しかし、何度眠っても一日が経たない。
「こんなにも一日が長いとは……、やっぱり1000万の価値はあるな。それにしても、やけに寒い気がする。一体今何時なんだ」
「あぁ、起きたら青青青。目を閉じても青が焼きついて離れない」
「眠れなくなった……。今の俺はどんな顔をしているんだ」
「おーい、ここから出してくれぇぇえ!!」
場面は切り替わって、研究室の中で中年の博士と助手の男がその様子をモニターで見ていた。
「4日ですね、もろいものです」
助手の男は、青い部屋の中でもがく男の姿を見て冷静に言う。博士はモルモットを見るような冷酷な目でこう言った。
「コイツも晴れて立派な精神障害者。この施設に入ってくれれば、薬漬けにして大もうけできる。親族にはこの事を連絡していないらしいし、都合がいい。つくづく馬鹿な男だよ」
研究室には、博士と男の薄気味悪い笑い声が響き渡った。
※こんな病院はありえません。医師から処方された薬はちゃんと飲みましょう。(真に受けないように!)




