過去
その晩、一人で、先代様が待つ、大和湖の西の畔に向かう。
畔に着くと、空中に一人の人間が浮いていた。
「今日は、月が綺麗だね」
「昔あった時は、気づきませんでしたが、貴方は、人間じゃないんですね」
「うん、違うよ。僕は、神さ」
「はは、神ですか。おかしいとは、思っていたんですよ。あんなに、強かったあなたが死ぬ分けがない。」
それは、まだ俺が勇者ではなかった頃、俺の住んでいたのは、辺境の村だった。そこは、名産品の大豆製品を売り、生計を立てていた。そして、俺は・・・豆腐屋の息子だった。
「会場に運ぶの手伝っておくれ」
「わかったよ」
今日は、豆腐祭が開催されるのである。
豆腐祭とは、豆腐屋が集まり、みんなに豆腐を食べてもらい、投票で一番を決める大会である。
そして、会場まで、豆腐を運ぶ。
「こっちはもういいから、開始まで時間あるから、露店でも見ておいで」
「ありがとう、開始5分前には、戻るよ」
そして、露店を見て周る。
「おーい、そこの少年、豆腐救いしていくかい」
「豆腐すくいなんて、あるのか」
きっと、金魚すくいの豆腐バージョンだろ。
「じゃあ、1回」
お金を払い、ポイを貰おうと手を差し出す。
「ほれ」
渡されたのは、ポイではなかった。箸と桶だった。
「箸ですくうのか」
でも、これどうやったら、終わりなんだ?時間制限とかか。
そんな事を考えていると屋台のおっちゃんは、豆腐を水槽からすくい横にあった、ミニコンベアーに乗せた。
「さぁ、今にも火に飛び込もうとしている、豆腐を救ってくれ」
「なんでやねん」
「何してる、速くしないと豆腐を救えないぞ」
意味の分からない、状況に嘆いていると、もう豆腐は、ミニコンベアーの半分近くまで進んでいた。
「ちくしょう」
悔しいが、金は払ってしまったので、やるしかない。
「この豆腐柔らけー、そしてもろい」
「自家製の超柔らか豆腐だ!」
もはや、嫌がらせとしか思えねー。
なんとか、豆腐の四分の一ほど、を救う事に成功する。
「やったー、この調子でいけば」
何か、すごい達成感があった。
そうして、達成感に浸っていると。・・・・豆腐は、火の中にその身を投げた。
「しまった!豆腐!!!!!!!!」
「おい、あの少年、膝をついて、何か叫んでるぞ」
「何があったのかしら」
「きっと、大切な何かを失ったんだよ」
「そっとしておいてあげましょう」
「は!」
俺は、何をしているんだ。
恥ずかしくなったので、救った分の豆腐を袋に入れ貰い、そそくさと、その場を離れる。
休憩がてら、椅子に座り、さっきの豆腐を食べる。
「美味しい」
それは、救いの味がした。