丸太杯
月日は流れ一年半がたった。
今回も、いつもの声が聞こえる。たまに、見る夢だ。
「大会で優勝して」
それだけ言うと、少女はいつも去ってゆく。
そして、それがすごい大事な事がして、毎回問いかけてしまう。
「待ってくれ、何の大会に優勝したらいいんだ!」
そして、今日も目を覚ます。
「お兄ちゃん、目が覚めたの?」
「うん、おはよう」
「お母さんがもう、朝ご飯出来てるって、私先、下に行ってるね」
「うん、僕もすぐ行くよ」
下に降りる音がした後、声が聞こえる。
「お母さんお兄ちゃん起きたよ」
待たせては、悪いのでさっさと軽い身支度を済まして、テーブルに向かう。テーブルには、既に、主人のトウヤさん、その奥さんのアカネさん、その子供のハナコちゃんの3人みんなが集まっていた。
「お待たせしまいすいません」
「いや、構わないよ、昨日も大会あったんだろ」
「お父さんすごいんだよ、お兄ちゃん、また優勝したの」
「ハナコは、本当にお兄ちゃん好きなんだな」
「うん、大好き」
「ライトくん、これからもハナコを頼んだよ」
「はい」
「このままでは、ご飯が冷めてしまう、そろそろ、食べようか」
食に感謝を告げ、楽しく歓談をしながらご飯を食べる。
そし身支度を済ませた後、アカネさんに会いに行く。
「アカネさん、昨日の優勝賞金です。」
「あ、また全部、もういいって言ってるのに」
「命を助けて貰ったうえに、住まわせて貰ってるですから、当然ですよ。それに、お小遣いアカネさんから貰ってますし、あまり使う事もありませんから」
そう、アカネさん達家族に救われたのだ。僕は、町の前に倒れていた僕を見つけた、アカネさんがつれ帰った、目を覚ました僕は、名前以外の自分を事を覚えていなかった。そして、怪我が治るまでずっと看病してくれた。
「お小遣いって、いわないと受け取らないからでしょう。毎回こんな貰っちゃって、うちもう小金持ちよ、お父さんより、収入多いんだから。お金に困ったらいつでも言ってね」
ちなみに、豆腐屋をしているらしい。
もう習慣になり始めた会話をして、家を出る。
後ろからトコトコ、着いてくる足音に振り返るとハナコちゃんがついてきていた。
「一緒に行っていい?」
「いいよ、はぐれないようにね」
「うん、ずっと手繋いでる」
「今日は、隣町で開催がだから、隣町まで行くよ。」
「ワッカター」
馬を借りて、隣町へ向かう。
「わあああ、速い」
「落ちないようにしっかり掴んでいてね。」
「ねぇ、お兄ちゃんは、どうしていろいろな大会に出ているの?」
「大会に優勝しなきゃいけないんだけど、何の大会に優勝しなきゃいけないの分からないから、かったぱしから出てるんだよ」
「ふぅん変なの、じゃあその何かの大会に優勝したらどうなるの?」
「僕も分からない、でも、その大会で優勝したら、思い出せる気がするんだ。」
話し込んでいるうちに、馬は会場についた。
「丸太杯、参加者の方は、こちらの控室になります。」
「じゃ行ってくるね、何かあったらこの鈴を鳴らして、すぐ駆けつけるから」
「うん、頑張ってね」
ハナコちゃんと別れ、控室に向かう。
「参加者の方ですか?」
「はい」
「開始は10分後です。急いでください。5分前に、アナウンスしますので、それまでお待ちください。」
僕が控室に入ると、視線が集まる。
「おい、あいつ」
「ああ、数々の大会で優勝しまくってるって聞く」
「その名も、うさ耳デッドアイズだ」
「「それだ!」」
「ぎゃああああ、その名を口にするな!」
何で、こんな異名が付いたかというと、異名づけに大会出た時の事だ。決勝戦のお題は、相手の異名を考える事であった。そこで、俺の特徴の死んだ魚のような目、そして、なぜか外れないうさ耳から、この異名ができた。
補足、死んだ魚の目のA dead fish's eyesの魚の部分を省いてできたらしい。
そして、ある一人の男のせいで、この異名は、広がることになる。
「今日も騒がしいな、うさ耳デッドアイズ」
「だから、その名で呼ぶなぁぁぁ!、なんで、騒いでると思ってる!」
「お前のいつもの発作じゃないのか?」
「違うわー!会うたび、会うたび、その名で呼んで、この名、広めやがって」
「この俺、漆黒の貴公子タケルが付けてやったんだ、かっこいいだろ、何が不満なんだ。」
漆黒の貴公子タケルは、決勝で俺が付けた。ちなみに、貴公子ではなく、奇行師という意味でつけた。正直黒歴史なので、そっちも広めてほしくない。
「ちなみに、お前の出場名もうさ耳デッドアイズに変更しておいたぞ」
「何の嫌がらせだよ!」
そう、こいつが俺にこの名を付け、広めた張本人である。こいつは、大会で俺に負けてから、俺を勝手にライバルし、俺の出る大会、出る大会に、現れるようになった。
「お前にもっと、うさ耳デッドアイズとしての自覚を持たせるためだ。」
「持ちたくないわー!」
「5分前になりました、参加者の皆さんは、一回戦会場まで向かって下さい。」
アナウンスが終わった瞬間、空気が変わり、みんな一斉に会場まで走り出した。
「今回の参加者は56人らしい」
「急ぐぞ」
「絶対、後ろ6人には、なりたくねー」
「なんだなんだ!」
気が付くと周りには、俺とタケルとローブの男?しか残っていなかった。
「なんなんだ」
「分からん」
「良し行くぞ、うさ耳デッドアイズ」
「だからその名で呼ぶなって!」