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34 急襲


 白神は山盛りの食料を抱えて歩いていた。


 三食分、それも待っているユキのことも考えて様々なものを買い、ついでにとユキ好みの保存食も大量に買い直したために、これだけの大荷物になってしまったのだ。


 道行く人の好奇の目をひきながら歩く。鞄だけでもあれば少しは目立たないんだけどな、とため息をつく白神。


 本来、自他共に認める面倒くさがり屋である白神はただ買い物に行く、なんてことは絶対にせず、普段なら武器の手入れ道具から衣類系のものまでまとめて買い込むのだが、今回ばかりは食料系のものだけにとどめて早めに切り上げていた。

 これでも一応はあの少女に気を使っているのだ。



(ユキには色々と不安定な部分が多いからな・・・)



 あの少女の抱えているもの、それを白神はほとんど知らないが、それが影響したであろう少女の振る舞いは何度も目にしている。だからこそ長時間、あの少女を一人にしておくのは非常に危険だと理解していた。


 荷物を落とさぬよう気をつけながらも早足で宿まで戻る白神。

 そこで、



(?)



 宿の前の通りを包む、どこか騒々しい空気に気づく。

 はしるのは嫌な予感。

 白神は慌てて宿の階段を駆け上がり、少女が待っているであろう部屋へと飛び込む。



「ユキ、大丈夫かーーーっ!?」



 思わず絶句する白神。



 そこには、誰もいなかった。



 開け放たれた窓、そして置かれたままの白神の荷物。焦るな、そう自分に言い聞かせながら周囲を見回し、即座に現状を推測する。



(部屋に押し入られた形跡はない・・・開いている窓、置かれたままの荷物からすると、外から誰かに呼ばれたのか?)



 白神は手早く必要な荷物だけを(まと)め、窓から飛び降りる。



「!?」



 いきなり降りてきた白神に驚いたのか、近くに立っていた商人らしき男がびっくりしたような表情でこちらを向く。



(ちょうどいい)



 白神は躊躇(ためら)うことなくその商人らしき男に尋ねる。



「ここで何があったのか教えてくれないか」


「あ、ああ、いいよ。それが、少し前に帝国の兵隊が何人も来て、この通りをしばらく封鎖したんだよ。ちょっと前にそれも解除されたんだけどーーー」


「その帝国兵たちはどこに向かった?」



 声を抑え、低い声で聞く白神。

 自分でも目つきが鋭くなっているとわかる。それを勘違いしたのか慌てたように答える商人らしき男。



「そ、そこまではわからない。けど、帝国の馬車が二手に分かれて通りを別々に進んでたからーーー」


「どの方向だ?」


「っ、確か、この通りを左右にーーー」


「要するに、向かったのは街の中心部方面と外れの方面だな?」


「そ、そうだ」



 無理やり話を早く進め、そこまで聞くと白神は一気に地面を蹴り、屋根の上へと飛び上がる。


 眼下(がんか)で商人らしき男が呆然としているのが見える。白神はそんなどうでもいいことは無視して建物の上を躊躇いなく跳び移っていく。



(たぶん、街の中心部に向かったのは会談に向かう馬車・・・そして街の外れ、監獄(かんごく)の方向に向かったのは間違いなくーーーユキだ)



 ずっと調べてきたことが、今ここで役に立つ。



(監獄の近くには人がそんなに住んでいなかった・・・だから続いてる道も少ない。そして馬車が通れるような道は限られているし、目立つし速度も出ない馬車なら追いつくのは難しくない)



 迷いなく最短の経路を選びながら馬車を探す。


 大通りであっても迷いなく跳び越える白神。道行く人が頭上を過ぎた影に顔を上げた時にはすでに白神は次の建物へと跳び移っている。速度を上げ、獲物を探すかのように鋭い視線を通りに向ける白神。

 そして。



(見つけた)



 少し先に見えたのは赤い軍服を纏った数十人の兵士たちに囲まれ、通りを進む一台の馬車。


 その内の数人の兵士が(かか)げている、槍で貫かれた竜を(えが)いた紅の旗は間違いなく帝国軍のもの。前方の兵士たちが道行く人を押し退けるようにして馬車はゆっくりと進んでいる。


 速度を落として間合いを見極め、大剣に手をかけた時に気づく。



「っ! 強化兵、か」



 その兵士たちの中、他とは違う機動性を重視しているであろう赤い軍服を身に纏った兵士たちを見て白神は呟く。その数は4人ほど。馬車を挟むようにして前に2人、後ろに2人といるのがそうなのだろう。そしてその両奥にいるのは数十の一般兵。


 数としてはこちらが圧倒的に不利。だが、白神は構うことなく屋根を蹴り、横からえぐり込むようにして一気に後方の兵士たちへと急襲をかける。


 陽光に鈍く輝く大剣。


 こちらの存在にようやく気づき、真下の帝国強化兵は顔を上げ、驚きに目を見開く。


 ゴシャ!と。落下の速度を打ち消すために寝かせて振り抜いた大剣がその帝国強化兵を捉え、一撃で吹き飛ばす。衝撃でそのまま道に面した建物へと突き刺さるその強化兵に見向きもせず、白神は着地するや否や地面を蹴ってその隣にいた帝国強化兵との間合いを詰める。


 驚愕しながら、それでもなんとか(つるぎ)を抜こうとする帝国強化兵に対して容赦なく大剣を扇のように横にして振るう。手に伝わるのは空気の抵抗と骨が砕ける感触。その帝国強化兵は派手(はで)に吹き飛ばされ、後続の一般兵を巻き込んで転がっていく。


 その音に驚いたのか馬が(いなな)き、ようやく事態を飲み込めたのか通行人たちの悲鳴があちこちから上がる。



「これで、半分」



 感情を抑え込み、冴えきった頭で呟く白神。

 後ろの半分さえ潰してしまえば、(はさ)みうちにされる可能性もなくなり、あとは向かってくる兵士だけを順に叩いていけばいい。そうすれば数の優劣など無いに等しいのだから。


 案の定、慌てたように前にいた帝国強化兵の一人が剣を抜き放ちながら一気に突っ込んでくる。あまりにも真っ直ぐな、訓練通りに仕留めることしか考えていないであろう突進。強化兵としての『力』で加速し、人間離れした速度で迫ってくる。

 だが。



「っ!?」



 眼前(がんぜん)に迫った大剣の腹を見て、目を見開く帝国の強化兵。白神にとって、そんな速いだけの攻撃など警戒する必要がなかった。

 なぜなら。



 ただ、それを上回るだけの速度で大剣を振るだけでいいのだから。



 吹き飛ばされ、その帝国強化兵は前方の一般兵を巻き込み転がっていく。

 それを見送りながら、最後の帝国強化兵の元へと向かう白神。もはや負傷と恐怖で他の一般兵が使い物にならなくなっているのがこちらからでも見てとれる今、警戒すべきものはそれだけだった。


 残る最後の敵、強化兵がいるであろう馬車の向こうへと一気に回り込む。



「ひ、ひぃっ!?」



 そこにいたのは剣を構えた一人の帝国強化兵。だが、その剣は狙いが定まらないほどに揺れていて、その顔面は恐怖にひきつっている。まだ新兵なのだろう、ガクガクと膝を震わせながら後ずさっていく若い帝国強化兵。



「ば、化け物・・・」



 その口から漏れたのは震える声。

 白神は鋭い視線をそちらに向け、こちらに向けられている剣を完全に無視して、その首へと大剣を突きつける。



「やるのか、やらないのか。今なら選ばせてやる。」



 冷たくそう言い放っただけでその若い帝国強化兵は間抜けな悲鳴を上げて剣を落とし、地面へとへたり込む。


 ふっ、と。


 一度息を吐き出し、完全に敵を無力化したと判断した白神は強引に自らの『力』を抑え込む。白神の目的は、殺戮(さつりく)などではないのだから。


 その強化兵の落とした剣を念のために遠くまで蹴り飛ばし、他の一般兵を威圧するように一瞥(いちべつ)してから馬車の扉を開ける。



「くそっ!」



 それと同時に中から飛び出してきた帝国一般兵が突き出してくる剣をかわし、体勢を崩した兵士へと蹴りを見舞(みま)う。そのまま吹き飛んでいくその兵士には目もくれず、出てきたもう一人の帝国一般兵を大剣の腹で殴り飛ばす。


 迅速な無力化。


 白神は中に兵士が残っていないことを確認すると、捕らわれているはずの少女へと呼びかける。



「ユキっ!」



 その声に反応して薄暗い馬車の中、怯えるような気配だけが伝わってくる。状況が一切わからず、一人怯えているであろう少女。白神はとりあえず大剣を仕舞うとできるだけゆっくり、そして普段のようにもう一度呼びかける。



「ユキ、俺だ、白神だ。とにかく急いで出るぞ」



 少しの静寂の後。



「・・・しら、かみっ」



 走ってくる音と同時にぼすっ、と胸の辺りに飛び込んでくるユキ。いきなりの上半身への衝撃に馬車から転げ落ちそうになるが、なんとか踏みとどまって少女の体を受け止める。



「怪我はないか?」



 白神の問いかけに答えず、少女はただ怯えたようにぎゅっと力を込めて抱きついてくる。よほど怖かったのだろう、顔を(うず)める少女の両肩は小さく震えていた。



「大丈夫だ、もう大丈夫だから。とりあえずここから離れよう、な?」



 少女を落ち着かせようとできるだけ優しく声をかけながら、白神はその小柄な体を抱き上げる。



「っ」



 体を強張(こわば)らせる少女。

 白神はできるだけ揺らさぬよう、そしてざわめく周囲を気にすることなく一気に馬車から建物の屋根へと跳び上がる。


 震えたままのユキ。そんな少女を落とさぬようしっかりと抱え、建物の上を駆け抜けていく。


 周囲の通行人たちがざわめいているのがわかるが、気にしてなどいられない。事態が知られ、追手(おって)が放たれる前に逃げなければ、さらなる危機的な状況へと追い込まれてしまう。それも、今回の相手は帝国軍なのだ。


 焦りを抑えながら次の通りを跳び越えた、まさにその時。


 ふっ、と。

 下を歩く一人の人間と目が合う。その身に纏っているのは先ほど倒した帝国強化兵たちと同じ軍服。



「っ! しっかり掴まれ!」



 白神は少女の背中を支えていた右腕を放し、代わりに左腕全体に少女を乗せるようにして抱える。そして空いた右手で即座に大剣を外し、迎撃体勢をとる。

 その瞬間。



「っ!」



 響くのは金属同士がぶつかり合う鈍い音。


 斜め下から矢のごとく跳び上がってきた帝国強化兵の剣と、少女を抱えたまま回転し正面からそれを防いだ白神の大剣とがぶつかり合ったのだ。人間離れした速度でぶつかり合ったその反動で互いに弾き飛ばされる。


 それを利用して距離をとり、即座に跳んでそのまま逃げ切ろうとする白神。


 しかし、相手の帝国強化兵もそこまで甘くはない。反動を殺すや否や、すぐに体勢を立て直して追いかけてくる。



(くそ、速い・・・このままじゃ追いつかれる!)



 こちらの武器は重い大剣であり、さらに少女まで抱えている。元々の条件からして不利なのは考えるまでもなかった。


 それでも屋根を跳ぶ位置や、障害となるほどの高さの建物を上手く利用してなんとか間合いを保とうと試みるが、次第に詰められていく距離。強化兵にとっては一足(いっそく)で詰められるだけの距離へと間合いは狭まっていく。


 普通に考えるならば、何らかの手を打たなければならないだろう。


 だが、白神はあえてそのままの速度で跳び移り続ける。

 そして。



「ーーーっ」



 白神が次の建物へと跳んだ瞬間、狙い()ましたように相手の帝国強化兵が矢のような速度で突っ込んでくる。空中という身動きのとれない瞬間を突いた、必殺を狙う一撃。


 こちらの首を背後から狙う剣。


 その瞬間、金属が擦れる独特な音が響く。それを見切った白神が大剣を使い、空中でその剣を受け止めたのだ。

 そして。



「!?」



 その威力さえ利用して、くるりと一回転する白神。

 そのまま即座に狙いを定め、大剣を加速させていく。そして風を切って進む大剣が相手に命中するまでの僅かな間、その帝国強化兵と視線が交差する。



 勝利を目前にしてなお冷たく見据える白神の瞳。そして、敗北を目前にした帝国強化兵の瞳にあるのは、ただ純粋な驚きだった。



 白神は大剣をさらに加速させ、驚愕を顔に張りつけたままの帝国強化兵を容赦なく、そして言葉そのままに叩き落とす。

 響くのは鈍い音。


 とん、と。


 その反動を利用して屋根の上へと着地する白神。そのまま下に目をやることなく建物の上を跳び移っていく。

 早くこの辺りから離れなければ、周囲を警戒しながらそう強く思う。


 戦闘は少女を危険にさらすことになるし、下手をすれば帝国だけではなく騒ぎを聞きつけた連邦の兵士にまで追われることになりかねない。


 そして、なにより。


 ぐっと大剣を握る手に力を込める。今回は急襲が成功したこともあり、相手が帝国の強化兵たちでも少しは手加減ができた。しかし追手の追撃、それも高い能力を持った強化兵の追撃を受ければ手加減なんてできるはずがない。殺るか、殺られるかの世界で戦わざるをえないのだ。

 だからこそ。



 この少女にだけは、起こり得るかもしれない凄惨(せいさん)な光景を見せたくはなかった。





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