32 優先すべきこと
「それじゃあ、ちゃんと荷物も置いていくし、なるべく早く帰ってくるから心配せずに待っててくれよ」
外の様子を窺い、危険がないことを確認しながら白神は言う。
あの後、宿の人間に気づかれぬよう白神が一人で宿をとり、部屋に入ってから窓を開けて下に飛び降り、そこから少女を抱えて入ったりと危険性を減らすためになかなか面倒くさいことをしたのだが、それでも避けられないことがあった。
そう、鞄の中には街から離れた時用の保存食しかないため、ろくな食べ物がないのだ。さすがに昼、夜、朝と三食無しは体に響く。抜くことはできないだろう。
そのため、食料を買いにいかなければならないのだ。
食事がついているような宿は高いし、何より食べる時に顔を見られてしまう。だからこそ安い宿に泊まっているのだが、こんな場合には狙われている少女を置いて白神だけで動かなければならないのだ。
だが前回とは違い、ユキを置いていくのは今朝のことがあるため非常に心配だった。
案の定、
「・・・本当に、帰ってくるの?」
こちらの袖を握りしめたまま俯く少女。
前回、この時間に外出した時にはすんなりと行けたのだが、やはり今回ばかりは今朝のことを引きずっているらしい。
ぽん、と少女の頭に手をのせる。
「帰ってくるに決まってるだろ、荷物も置いていくんだから」
「でもーーー」
「それに、お前にあの短刀を預けたままだからな。あれは前にも言ったけど、結構大切にしてるやつなんだ。返してもらってないのにいなくなったりしないさ。ちゃんとフラルまではお前が預かっててくれよ」
その言葉を聞いた少女は何かに耐えるようにしながらも小さく頷き、そして躊躇うような素振りを見せながらもゆっくりと袖から手を放す。心の中でほっ、と一息つく白神。
扉を開け、そこでもう一度少女へと振り返る。
「それじゃあ、行ってくる。帰ってきたらまた5回扉を叩くから、何があっても外には絶対に出るなよ」
「ーーーっ」
「約束はちゃんと守るよ、心配するな。それじゃあ、また後でな」
そう言い残し、少女には悪いが手早く扉を閉める。かなり心配なのだが、早く行って早く帰る、それが今できる最善のことだろう。
ここで時間をかけている間にも状況が変わってしまうかもしれないのだ。とりあえずは安全な今の内に動くしかない。
ふう、と息を吐き出しながら早足で進む。優先すべきことを間違える訳にはいかないのだ。
過ぎた時間は、取り戻せないのだから。




