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3 ハスイ草


 照りつける太陽が低くなり始めていた。

 白神はユキを連れて街を歩いていく。辺りを見回してみるが、相変わらず人通りは少ない。それでも少しだけ暑さがましになったためか、人の数自体は増えてきていた。


 しかし、それと同時にこちらに向けられる視線も増えていた。そう、ユキが着ているのは白い囚人服なのだ。薄汚れた簡素な囚人服はそこそこに人目を引く。牢獄から逃げてきました、と公言しながら歩いているようなものなのだ。

 なるべく急がないといけないな、と思っていると。



「?」



 少し後ろを歩くユキの様子がおかしい。

 明らかに歩き方が変なのだ。(うつむ)いたまま、まるで足の裏になるべく体重をかけないようにして歩いているように見える。どうやら足が痛むらしい。



「そういえばお前、裸足だったな。てっきり慣れてるのかと思ってたんだけど・・・足、見せてみろ」



 とりあえずユキを道の端に連れていく。



「私はべつにーーー」


「わかったから座れって」



 少し渋るユキを道の端に積まれていた箱の上に座らせ、その足を見てみると、



「あー、だいぶ酷いな」



 その白く細い足の裏は土にまみれ、所々からは血も出ていた。これでは歩くだけでも相当な痛みを感じるだろう。



「ちょっと待てよ、簡単な治療くらいならしてやるから」



 とりあえず腰の鞄を下ろす白神。そしてその中から水筒を取り出し、入っている水を使ってその両足を洗っていく。



「っ」



 しみるのか唇を噛むユキ。

 白神は鞄から1つの袋を取り出し、中に入っている葉を1枚引っ張り出す。そしてそのまま少女の足の裏にぺたりと貼り付けた。



「それって?」



 不思議そうな顔をしてその葉を見つめるユキに白神は包帯を取り出しながら答える。



「薬草だよ。ハスイ草っていう血止め効果のある葉っぱ。応急手当くらいなら大体これで出来るな」



 その足に何枚かのいらない布を重ね、上から包帯を巻き付けていく。


 言えばもっと早く手当してやれたのに、と思うのだが、目の前の少女はどうやら弱みを見せたくなかったらしい。貴族としての教育なのか、それとも単に強がりなだけなのか。

 まあ、どっちもあるんだろうな、と白神はため息をつく。



「よし、できた」



 外れないようそこそこ固く結び、一応それっぽい形にする。不格好と言えば不格好だが、それでも無いよりはましだろう。


 水筒などを仕舞い、立ち上がる白神。そのままユキの頭に軽く手をのせ、もう大丈夫だと伝える。



(これで一応は歩けるはず。とりあえず最初はユキに服と靴を買ってやらないといけないか)



 少女から、正確には少女の家族から大金をふんだくることになってしまった以上、それ相応のことはしてやるべきだろう。本来ならあの金額は少女を諦めさせるために決めたもので、本当に貰うつもりは全くなかったのだ。


 一応、罪悪感がないこともないので、そこそこ高いものでも買ってやるか、と一人考えていた白神にありがとう、と(うつむ)きながら小さな声で礼を言うユキ。心なしかその頬は赤くなっているように見える。

 そんなに恥ずかしがるようなことなのか、と首をかしげる白神。



「まあ、これで歩けるだろ。とにかく行くぞ、今は時間が惜しい」


「・・・うん」



 小さく頷いて地面に降りるユキ。

 布の巻かれた足で地面をこわごわと歩いてみて、痛みがほとんど無かったのか目を丸くしている。そしてしばらく歩き回った後、感動したような顔でこちらに走り寄ってくる。なんというのだろうか、まるで新しい靴を履いたばかりの子供のようだった。



「すごい、ぜんぜん痛くない!」



 そう言って嬉しそうな顔を向けてくるユキ。適当に包帯を巻いただけなんだけどな、と白神はその姿を見ながら苦笑する。



「ちなみにその足、風呂入ったらすごく痛むと思うぞ」


「!!」


「と言っても宿を見つけられたらの話だけどな。最悪この暑い中、虫に囲まれながら野宿だ」


「!?」



 先ほどの嬉しそうな表情から一変して恐怖の表情のまま固まるユキ。なんともからかいがいがあると言うか、退屈することはなさそうだった。


 表情豊かな奴だな、と少し呆れながらも白神は歩き出す。ユキのためにもさっさと服と靴を買って、なるべく早く宿を見つけてやらないとな、なんてことを思いながら。



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