21 2つの表情
朝。
窓から射し込む日差しによってユキは目が覚めた。
(あれ、もうこんな時間?)
あの少年の朝は早く、日が昇る頃にはユキも起こされていたのだ。暑くなる前にできるだけ歩いて距離を稼ぐ、それが理由らしい。確かに昼の炎天下の移動は辛く、涼しいうちに進むべきだというのはわかるのだが、早起きは早起きでまた違った辛さがあるのだ。
ずいぶんと眠れたためか体は軽い。起こされなかったことを不思議に思いながらも体を起こす。
そこで。
「あっ・・・」
部屋の扉の隣。
そこで少年は座ったまま眠っていた。
片膝を立て、そこに額を乗せるようにして眠っている少年。その表情は見えないが、その姿は穏やかそうに見える。
起こしてはいけない、そう思いつつもゆっくりとベッドから降りる。ユキは夜、いつも先に寝てしまうし、朝も少年は必ず先に起きていたので、眠っている少年の姿を見るのは初めてなのだ。そろり、そろりと足音を立てないように気をつけながら、ゆっくりと近づいてみる。
いつもあれだけ子ども扱いされているため、一度くらいは少年の子どもっぽい姿を見てみたかったのだ。
物音を立てて起こしてはいけないという緊張感と、少年の寝顔を見れるという期待感とで少しどきどきしながらもゆっくりと近づいていく。次第に狭まる距離。そして、微かな寝息が聞こえるほどの距離まで来た所で。
ギシ、と。板が少し傷んでいたのか小さく、本当に小さく床が鳴る。
その瞬間。
信じられないほどの速度で大剣が首筋へと押し当てられた。
「あぁ」
首筋に当たるのは冷たく、固い鉄の感触。
こちらを見据えるのは鋭い視線。その冷たすぎる瞳を見ただけで体がすくむ。あまりの出来事に反応すらできず、小さく呻いてへたり込んでしまう。
「・・・ユキか。おどかすなよ、危ないだろ」
大剣を下ろし、ため息をつきながら立ち上がる少年。それと同時にその肩から力が抜け、いつもながらのやる気のなさそうな視線に戻る。
わずかな物音に反応するありえないほどの速度。こちらを認識するや否や即座に大剣を止めるだけの判断力。そして、あの冷たすぎる瞳。
それはいつも見ている少年とはあまりにも違いすぎて、まるで人格が変わったようだと、そう思うほどに普段の姿からはかけ離れていた。
「大丈夫か? 立てるか?」
座り込んだまま呆然と見上げていると、少年が手を差し出してくる。
「・・・自分で立てる」
少年の手を握って立ち上がるのはさすがに恥ずかしすぎるので、慌てて一人で立ち上がる。
と、そこで、
「っと、危ないぞ」
座り込んだ体勢から急に立ち上がったためにふらつき、倒れそうになった体を少年に支えられる。それでもよろめく体。そんな体勢を立て直すため、とっさにその手を握りしめてしまう。
「・・・あ、ありがとう」
慌てて手を離すが、恥じらいから顔が赤くなっているのが自分でもわかる。それをさらに恥ずかしく感じてしまい、知られまいととにかく下を向く。
そんな感情を知ってか知らずか少年は大剣を背負いながらこちらに背を向け、扉を開ける。
「それじゃあ、朝飯食べて出発するか」
こちらに背を向けたまま軽く言う少年。
「・・・うん」
ユキは小さく頷く。
今の少年からは、先ほどまでの冷たさは全く感じられなかった。
そこにあるのはいつものようにこちらを気遣ってくれる少年の姿。そんな少年の秘める二面性、それはいったいどのようにして作られたのだろうか。少年の過去はいったいどのようなものだったのだろうか。
そんなことばかりを考えていると。
「おい、早く行くぞ」
「っ、わかった」
さっさと荷物を持ち、歩いていく少年。
ユキは置いていかれないように小走りで追いかける。
そんなまだ薄暗い廊下に射し込む陽射しは明るくて。これから暑くなるであろうことを告げていた。




