009 狩猟魔法?・1
とても高い評価をつけてくださった方がいるようです。文章5点はまだ到達できていないのではと自身疑いつつではありますが、これを励みに、皆様に楽しい時間をお届けできるよう、これからも精進して参ります。
さらなる修行回、どうぞ。
設置魔法の作り方はごく簡単、核となる鉱石と、起動キーと制御装置を兼ね備えたかぎ爪があればいい。四つのかぎ爪でつかまれた「設置タイプ」、円筒に鉱石がはめ込まれた弾薬のような「投擲タイプ」、あとはアクセサリーに様々な効果を付与するのも広義では近いものらしい。
「私がこれを学び始めたころには「狩猟魔法」と呼んでいたんだけどね。投擲タイプが廃れてからは設置魔法と呼ばれるようになった。地面に置くだけでは扱いづらいこともあるだろう、投げる方も学んでもらうよ」
「はい。材料の違いとかありますか?」
「単に込める魔法が違うだけだ。ただ、魔法としての難易度がすこし上がるからね……君の魔術師としての腕前が試されることになる」
主に後半を強調しつつ、ニディス師匠は怖い目をした。
「だ、大丈夫ですよ!」
せいいっぱいにこやかに返事をしてみるのだが「ほう」という顔はまったく笑っていない。どうやら――というのは俺の推測だから当たってるかどうかわからない、という意味なのだが――「無属性」は魔力に関してはかなり辛抱強く育てなければならないらしく、もともと魔法には向いていないようだ。無属性モンスターはだいたい物理型か自己強化付きの特技が関の山で、数少ない魔法も〈ソードアロー〉やら〈メテオランス〉といった、防御力の影響を受けにくい遠距離攻撃くらいにしかならない。
……何が言いたいかというと。
「適性はあり、式も理解している……わりには、下手くそすぎる」
「すみません、本当に」
完成品を師匠に見てもらうたびに「魔法陣のここが歪んでいる、これでは暴発する」と言われどおしで、ステータスが足りないのと感覚が鈍いのとで「魔法」というものをまったくうまくやれないようだった。
「しかし、そうだな……戦い自体は不可能ではないかもしれない。大変こすっからい手段に出ることになるが」
「計画自体はできてます。ちょっと自信はないですけど」
「君は本当に生き急ぐね。レベルが低いうちにできることを模索するのはいいが、少しはレベルを上げてから物事に挑んだ方がいい。少し心配なので、計画をどのように行うのかを説明してくれ」
「わかりました」
なんだよ心配してくれてんじゃんと思いつつ、俺は概要から何から、失敗したときのリカバリーまでも細かく話した。
「……ふむ、ふむ。確かに、君がいま持っているすべてを活かした戦術であることは認める。しかし、賭けの要素が非常に大きいな。明日にしたまえ」
「どうして……ですか?」
もう少し詰める、と師匠は鉱石を取り出した。
「君の作った狩猟魔法陣を見て、どのような失敗をしているのかを検証した。式の間違いは特になく、全体的な魔力の流れにも問題はないように思える……しかし、非常に重要な点において致命的なミスがみられる」
「な、なんですかそれ」
「ひとつ。式に間違いがなければ魔法は正常に発動するはずだが、その式を書いている文字、ここをわずかに覚え間違えている。似た文字をふたつ、混同しているね」
「あっ」
ルーペで拡大されてみると、確かに魔力で書かれた文字が少し違う。とめはねはらいの忘れみたいなわずかなミスだが、他がほとんど正しいだけあってそのミスが際立って大きく見えた。
「もうひとつ。ルーペのもうひとつのレンズで、これと君の作ったものを比べてみるんだ」
「師匠のですか? なんか尻尾みたいなのが……」
そうだ、とニディス師匠はうなずく。魔法を細かく見るのに使うレンズらしく、こういうマジックアイテムから出ている尻尾はだいたいスイッチにつながっているのだそうだ。
「適性はともかく、君は魔法を撃ったことがないようだ。そのせいで魔法を発動すること自体をイメージできず、発動に必要なキー、君のいう尻尾みたいなものを付けられていない。思考発動はできるが補正がかかりにくくなり、威力も想定とは違うものになる」
「な、なるほど……」
魔法の研究ばっかやってるだけあって、たちどころに問題を見抜いた。やはりすごい人だ。
「――では。もう一度、魔力文字の書写をやり直してもらう」
「はい」
さすがにうなずくしかなかった。
「そしてだ、隔壁越しでもいい、一度これを爆発させてみよう」
「へ? 暴発は」
「する。しかし、魔法を発動したという意識が大切だ」
「は、はい」
師匠が張ったバリアを確認してから、俺は自分の作った設置魔法〈レッサー・マイン〉に向けて念じた。すると――まず鉱石の内側で光が弾けて亀裂だらけになり、次に破片がものすごい勢いで飛び散った。
「同時に行われる工程が、伝達ミスでふたつに分かれている。私の作った方も爆破してみるといい」
「いいんですか?」
無論だと言われたので、もう一度同じように念じると、例の尻尾みたいなものが導火線のようにすっと消えて、爆炎と破片が隔壁を揺るがした。
「……ふむ、君から明確に魔法の気配が感じられるな。飲み物を用意させるので、眠らないようにそれを飲みつつ書写をしてくれ」
「はい!」
……元気よく返事してしまったが、食後の書写はさすがに眠くて舟をこいでいたことはバレていたらしい。決意を新たにしつつ、俺は灯りを前にひたすら文字を書き続けた。
課題を見つけて修正してくれる師匠。先生ってこうあるべきですよね。私は
「大人になった姿が見たい」(小1・小2の担任、それぞれ別人)
「土壇場以外で本気を出す方法を見つけろ」(中学の学年主任)
「魔王かお前は」(高1の担任)
などといろいろ言われてきました。最後のほんと謎。
次回、初戦闘っぽいもの。