007 銀鏡の剣士
どうぞ。
攻める、と言えるほど質問をできるわけでもなく、通りいっぺんのあれこれを聞いてから深堀りしたいところや分からないところを尋ねるくらいで一日が終わった。客を泊めるために開けてある部屋に入れてもらい、食事の用意ができるまで待っているといい、と言われたところである。
なお、食事の用意をしてくれているのはメイド人形さんだ。ごく当たり前のようにモンスターである「ハウス・オートマタ」が魔法工房にいるのには驚いたが、家事全般は無論のこと赤ん坊の世話や子供の寝かしつけ、お風呂の世話までもできてしまうというのだからすごい。ゲームだとヒーラーとしてかなり強かった印象があるが、フレーバーテキストにも「家事が得意」と書かれていたりDEXが高かったりと、いちおうそれっぽい匂わせはあった。
「生産系スキルを修めるとDEXに補正がかかる、かぁ……」
携帯ゲーム時代には「知っとかないと損する要素」ナンバーワンだった間違いない事実だが、師匠の経験からしても確実なのだそうだ。モンスターはランクによって取れるスキルの数に差があり、星2=Dランクだと枠はたった三つしかない。
ふつうのネトゲならばクラフト系とバトル系はステータスが分けられていて、いいものを作れるかどうかはやるかやらないかだけのことだったりする。しかし、携帯ゲーム機だったり端末でやるソシャゲだと、生産と戦闘は同じステータスを基準にして扱われる。生産の熟練度が上がるとあちこちのステータスに加算や補正がかかる、と言われるともっと頑張ろうという気になれる。
三つの枠のうちひとつを「狩猟魔法」という罠作成スキルで埋められたのは、本当に幸運だった。DEXが上がれば、命中率が上がって速度の差をある程度まで詰めることができるし、狩猟魔法の威力にも補正が乗る。
「さてと、別に上がっちゃいないだろーけど」
俺はステータスの数字ひとつ上がった下がったで一喜一憂するし、理想のステータスを持ったモンスターを捕まえるまで五十体は粘る廃人だった。五十くらいならまだマシで、気に入ったものだと日に十五から二十体を二、三か月がんばったこともある。
さて、ステータスを確認する前におさらいしておこう。
鉄っぽい色のリビングアーマー、右手にブロードソードと左手にほとんど前腕と一体化したバックラー、目が光ったりせず中身がいっさい不明の鎧さんが「銀鏡の剣士」である。ソシャゲ版では覚醒すると鎧がかなり銀色に近付き、剣に赤い宝石が付くが、低レアなのでそれくらいしか変化がない。人気もないためガチャのピックアップに選ばれたためしもなく、覚醒○○系統として登場したのもかなり後のことだったので、察するにやっつけ仕事なのだろう。
携帯ゲーム機の方ではDランク、こっちでは星2のこいつは、ガード時に受けたダメージを一度だけ倍にして反射するアビリティを持っている。反射はガード中にしかできずターン中一度だけ、かつDランクのステータスだとガードする前に集中攻撃されて終わりだったりする。だから弱いのかといえばそうでもなく、対人戦で対策をするのは常識であり、こいつを入れるなんてカモになりに行くようなものだとされている。
実際、体力で受けきれるギリギリを二倍撃にされるとかなりキツいものがある……のだが、実のところ「ガード中ダメージ反射」はAランクの焔舞「ヘリオ・シャイラ」が回数無制限で倍率は一倍、こっちが最強だったりする。ランク・レベル・装備・入手方法・難易度の五種類を縛るキツすぎる縛りプレイだとクリアまで使う変態もいるが、だいたいクセが少なくてステータスもそこそこ高いBランクあたりを入手できるタイミングで使わなくなるのが普通だ。
背景ストーリーが特にないのは低ランクキャラにありがちな現象だが、系列から察することのできるキャラもいる。同じ「どろっぷんオーシャン」から出てきたしずくが分化して共食いし、素質を開花させて進化を続ける「どろっぷん」は来歴がはっきりしているし、もともとのゲームの世界観からして「モンスターは宝石から生まれたもの」ということははっきりしている。
「……いまさらだけど、この世界ってどういう状態なんだろう」
冒険の旅に出よう、という話ならゲームとしてのスタート地点にいたことも理解できるが、この「真珠の街」に配置されたイベントは多い。どういう経緯であそこにいたのか、そして世界にはびこるモンスターがどれほど残っているのか、シナリオでようやく協力してくれることになった、ゲームシステムの根幹にかかわる人物たちは俺たちにどんな顔をするのか。
「ニディス……師匠の名前って、聞いたことないよな……?」
一部界隈からカルト的人気を誇っていた「クロニカ・エムロード」だが、いろいろ読んでいた考察の中にもニディスという名前はなかったように思う。設置魔法をスキルとして覚えているエルフというのも初耳だし、このスキルの名前が「狩猟魔法」だった、なんて話も聞いたことがない。
「もっと違う、とんでもないことが起きるのか」
知っている部分があるだけの、別物なのだとしたら。
「しばらく暮らしてみるしかないよな……」
スタート地点から始まった=このゲームは今からスタートした、ではないかもしれないという重要な問題が持ち上がりましたね。モアイさま(仮)も別に嘘は言ってないし……嘘じゃないし情報を欠けさせてもいないのに、説明してるうちに「おい」ってなる感じ。