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低レアさんのほどほど無双  作者: 亜空間会話(以下略)
一章「罪に沈みしもの」
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006 設置魔法・2

 どうぞ。

 魔法工房という名前の施設は、街はずれの古びた館だった。


 八面体と立方体と、その他俺が名前を知らない謎の立体をいくつか混ぜ合わせたような水色こんぺいとうが立派な台に載っており、周囲と内部を赤い光が巡っている。ゲーム内では見たことのないシロモノだが、新しくできたものなのだろうか。


 門番がいないようなので、入り口らしいところへ向かうと――地面がギョリッとえぐれて、岩人形ができあがった。


『見ない客人だね。城崩しのご依頼なら受けないが?』


 極めたらそこまでやれるのかとは思うが、買い物ではないし、金で解決できそうでもない。聞こえてくるのは飄々として、かつ内心を感じさせない冷徹な男性の声だった。


「四番マーケットのカティナさんのご紹介で……こちらで設置魔法を作っているとお聞きしまして」

『姪がね。で? 買い物じゃないのかね』


「お……私、設置魔法を作りたいんです」

『ああ、そう。私の仕事が減るなら大歓迎だ、適性を見ようか』


 招き入れるとは言いつつ、うんざりしたような口調である。扉に魔法陣が浮かび上がり、きしみもなく開いた。真っ暗な廊下に光の流れる線が走っており、どうやらそれを目印にしてやってこい、ということらしい。




 変な置物やどんな生き物かわからない骨格標本、警備用らしい騎士人形のあいだを通り抜けつつ、主の部屋らしい場所に着いた。


「ようこそ。なんだいその魂のブレは」

「アバターですか?」


「はっ、神の祝福とやらかい。なんでもいいけどね」


 優しさゼロの若々しいおじさん、といった風貌の魔術師である。こちらもエルフらしく、耳は尖っていた。


「ふん、そうだねぇ。魔力はある方だし、適性は不可思議な調律を受けている。使えるだろうし作れるだろうけど、君はそれで何をするのかね」

「生き抜くのに、遠回りをしなきゃいけないようなので……」


「で? 生き抜いた先に何があるのか、考えたのかね」

「まず、死なないことばかり考えてます。まだ、そこまでは」


 いかにも低ランクのモンスターらしいねとおじさんは頬を歪めて笑う。


「いくつか訂正。生き抜くなんて言ってるが違うね? そこまで死に近付いたことがないが、危険を前もってぜんぶ取り払っておきたい」

「は、はい」


「死なないこと、じゃなくて明日の生活だろ? できるだけ安楽な日々」

「……はい」


 思いっきり図星である。というか言ってることほとんど全部を問いただされている。


「私はぜんぶ持ってるよ、だがつまらない。何かしら挑むべきものがないと、生って張り合いがないものに変わる。そうだね……では、何日かここで生活しようか。教えることは教えるし、材料も渡す、作ってみるといい」


 ただで教えてくれそうにもないのに、なぜかおじさんは笑いながらそう言った。


「そうそう名乗ってなかったね、私はニディス。君は」

「ジクス、です」


「そうか。じゃあ我が弟子ジクス、別室に」


 ニディスさんは「こっち」という方向へ、俺も続く。館内にヤバいトラップのたぐいはなく、生活しやすいように整えられているようだった。


「言っとくが、あちこち見ても面白いものはないよ。実用主義なんだ」

「はい」


 よしいい返事、と欠片もそう思っていなさそうな声で吐き捨てる。


「お、あったあった。売ってない現物を置いてるのがこの部屋だ。私が君に使うと即死してしまうから、とりあえず事故が起きても安全なこの部屋で爆発を見てみよう」

「え、大丈夫なんですか?」


「制御できないものを作るやつはただのバカだよ」

「そ、そうですね」


 厭世的だし言い方に棘があるし、こんな状況でもなければあんまりお近付きになりたくないタイプだな、とクソ失礼なことを考えつつ爆発を見っ……耳が潰れそうな爆音、目がチカチカするし空気が変な味がするしで俺はその場に倒れ込んでしまった。


「この距離でダメージを受けるのはまだレベルが足りないからかな。回復はしておくけど」

「す、すみません」


 仕組みについてはその辺の本を読んでもらうけど、と説明をぶん投げつつ、ニディスさんは「非力でもモンスターを狩れるのが強みだね」と俺でも知っていることをつぶやく。


「属性は本人の持つ魔力によって変わる。……なんだか、それなりには詳しそうな顔をしているね。もっと深奥を知りたいという顔だ」

「はい、少しだけ調べてきました」


「いいね、熱心だ。ちょっとそこの本を開いて。図解が載っているから、それを見ながら細かい説明をしていこうか。どこを調節すればいいのかも教える。実践してもらうよ」

「はい!」


 少しやわらかくなった声を聞いて、俺は「師匠ができた」なんて素直に喜んでいた。けれど、少し後になるまで、これが喜べる事態ではなかったのだと気付くことはできなかった。

 チートエルフ師匠おじさん登場。別に仕事の邪魔とかではない(事実)。言ってることはいろいろひどいですが、実感がこもってるあたりやさぐれてるだけっぽい。

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