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低レアさんのほどほど無双  作者: 亜空間会話(以下略)
一章「罪に沈みしもの」
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004 オムレツ休憩(謎)

 得意分野その一、食レポしてみる。


 どうぞ。

 しばらく歩いていると、それなりに入りやすそうな雰囲気のレストランを見つけた。名前は「ド・アランジーナ」、いつものこのゲームのセンスそのまんまだ。近付いても不審に思われることすらないようで、そのまま入る。


 品のいい調度と落ち着いた空気、静かなジャズ調の音楽。表に出ていた看板を見る限り、値段はかなりおとなしめなのだが、すごく俺好みのお店である。案内されるままに小さな席について、メニューを見た。食べるならもっともレベルアップ効率がいい食べ物を選びたいところだが、ここにはあるだろうか。


 剣仕(ソディア)は魚介類、剛壁(カスト)は卵料理が好物なので、ハイブリッドの「銀鏡の剣士」は魚介系のクレープやらピザ、あと数は少ないが魚介系のオムレツなんかが大好物になる。どちらかだけでもいいのだが、ハイブリッドだと両方満たしておくのが無難だ……好みに合う料理を探すのがものすごく面倒なモンスターもいるので、まだ簡単な方である。


 アイスクリームなんてニッチなところを攻めてくるやつもいれば、麺類とかコーヒーなんておおざっぱなのか何なのか分からないところへ目をつけるやつもいて、なかなかややこしい。コーヒーだけ、アイテムのグラフィックがぜんぶ違うのに中身が同じ黒い液体なのは内緒だ。


「ご注文は、いかがなさいますか」

「じゃあ、このパテル魚のオムレツを」


「かしこまりました。お飲み物はどういたしましょう」

「アップルティーで」


 飲んだことはないが、なんとなく今の姿ならいける気がした。


 料理が来るのを待ちつつ、外の様子も眺めてみる。まずは腹ごしらえを、という人はいなかったのか、それとも食事すること自体が倉庫キャラっぽくて嫌なのか、レストラン街に来ている人はいないようだった。学校ではぼっちではなかったのだが、職業とか年齢が違う人とでもすぐ仲良くなれるほど人徳にあふれまくってもいなかったので、結局会話は得意ではない。


 俺自身、いきなりこんな体になっていたこともあって、いろいろ整理がついていない。いま話しかけられたとしてもどうにか逃げようとする方向にしか会話できないだろうし、周りに人がいないのは僥倖だった。いちばんに先輩に事情を話せたのはとても幸運だったと思うが、なぜ受け入れられているのかもわりかし謎だ。


 それっぽく見えるように髪の毛をくるくる指でいじってみると、見慣れた黒髪ではなくて、妙な麦わら色になっていた。


「なんだこれ……? もしかして、アバターの?」


 さっき見たときはこんな色ではなかった。もしも何かあるとすれば、アバターとして「銀鏡の剣士」を引き当てたことくらいだろう。ほかの人たちも、もしかすると何かがあるのかもしれない。また先輩と話す機会があれば、そっちの情報収集をしたいところだ。


 そんなことを考えていたら、案外時間が経っていたのか、料理がやってきた。


「こちら、パテル魚のオムレツセットとアップルティーです。ごゆっくりどうぞ」

「ええ、どうも」


 ひとまず、食事を楽しむことにしよう。




 ソシャゲならバトル以外のレベルアップ手段もそこそこ用意されているのはもちろん理解しているし、そういうアイテムがたまりすぎないように定期的に食事をして在庫の管理をするのもゲームの楽しみだった。連続して大皿に山盛りの料理を平らげているやつらの胃袋ってどうなってんだと思うことは多かったのだが、今の「満足だがまだ食える」という状態がそれらしい。どちらかというと精神的に「食べた」と思っている状態が大事で、栄養とか満腹感よりエネルギーを取り込んだこと自体がレベルアップにつながるようだ。


 食べた感想としては「めちゃくちゃ美味しい」以外に思い浮かばない。とろっとふわっとやわらかいし、赤身魚っぽいややかための魚肉にスパイスがキリッと効いた爽やか系のソースが寄り添っていて、飽きが来ない。こってりした料理に見えたのに驚くほどあっさり食べ終わってしまったし、それでいて満足感もある。初期金額の3000コインに対して120コインほどとそこまで安くはないが、この世界の相場がよくわからないにしては店選びを失敗しなかったようだ、とほくそ笑んでみる。


「……うーん」


 食事でレベル上げをするのは使わないけど入手した倉庫キャラの定番なので、俺もどうにかして戦わなきゃならないんだよな、と音にならないくらいにつぶやく。レベルが上がってまともに動けるようになればいいが、もしまともに動けなかったら低速の俺は囲まれて殴り殺される以外の道がない。


 ソシャゲ版では一部キャラの特技として設定されていた「設置魔法」なら、罠のように使ったり敵に投げ込んで爆発させたりできる。あれならなんとか戦えるかもしれない……いや、あれって本体の属性依存だったっけ。そうなると物理しか使えない「銀鏡の剣士」だと無属性魔法にしかならない……そもそもできるかどうかが不明なので、捕らぬ狸の皮算用なのだが。


 設置魔法を売っているところでいくつか買ってからどこで作っているのか、仕入れ先があるならそっちにアクセスして、とりあえず工房を探そう。お店の人に礼を言ってからお勘定を済ませ、俺は店を出た。

 おいしいお店で悠々と食事をするパート(なお他人)。経験値アイテム食わせないとまともに運用できないキャラっていますよね……主人公がそうなるなんてって感じですけど。動かなくてもいい狩りの方法を模索する主人公の明日はどっちだ。


 朝からちょっとペース落とした更新に切り替わります。

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