ダリア、夏期講習に出ます。3
☆
『ダリア様、進路説明会のお時間が迫っています。急ぎましょう』
メイドさんがワイバーンを倒した後、しばらく状況が読み込めず、放心状態のまま学校に登校した。
頭の整理がつき、現実に帰って来たと思ったらメイドさんに大声で詫びられた。勿論ひざまづかれて。しかも、生徒達が出入りする正面玄関というオマケ付き。夏休みで生徒の数が少ないのが幸いだった。
今は多目的教室に向かっている所だが、後ろを歩くメイドさんの表情がおぼつかない。落ち込み過ぎだろ。
因みにメイドさんは保護者という名目で学校に立ち入りさせている。
で、ワイバーンの件である。
『Lv.46になります』
メイドさんのこの発言だが、普通に考えて有り得ない。
遠い昔に存在したと言われる世界を崩壊しかけない力を持つ魔王。それを討ち滅ぼしたと言われる、歴史に名を残した四人の英雄。
『英雄王』『双頭の剣客』『聖女』『不死鳥』
その英雄達のレベルこそ、人の限界レベルと言われている。
そのレベルが、
《Lv.45》
後にも先にもこのレベルを超える者は現れていない。一説には英雄王がLv.46だった表記されているものがあるが、定かではない。
そして現在。世界全体で確認されてるLv.45は、たった1人だけ。
『星呼び』
俺の憧れの人だけである。
そもそも、個人で国を傾けられる、文字通り生きる伝説と称されるLv.40台───“クラスレジェンド”に到達した者ですら多くはないのだ。
王国が確認しているクラスレジェンドは、7名だけである。星呼びも含めて。
数が多くないのは魔物にだって言える事だ。一番最近現れたLv.40を超える魔物だって10年も前になる。正確には2、3年周期で現れるが、表沙汰になる前には狩られているのがほとんどだ。
それをパッと出の、しかも俺の召喚したやつがLv.46だって? はは、ご冗談を。
ワイバーンを一撃で倒した事すら凄い事なのに。
「……ダリア様、先程の失態は必ずや取り戻しますゆえ」
メイドさんの力なき声が背中に当たる。
「少し驚いただけだって。気にするな」
「し、しかし……」
相変わらず腰が低い。というか、俺への忠誠心がとんでもない数値を叩き出してそうだ。
だが、ワイバーンを一捻りで潰した彼女の実力は本物。彼女だったら俺なんてデコピン一発でぶっ飛ばせるだろう。
だから、俺も心を引き締めなければならない。メイドさんが───代行者達が本当に俺に付いて来てくれるのかを。確めなければならない。
「な、なあ。じゃあさ……」
「はっ。なんなりと」
「か、カンチョーさせて」
何言ってんだ、俺。
「はっ。喜んで」
喜んじゃ駄目だろ。
メイドさんは滑らかな動きでクルリと反転し、尻をこちらに向けて来た。
「如何様にもお使い下さい!」
声を張るな。声を。
いや俺が悪いんだけどさ。流石に引くわ。
「じ、冗談だよ」
居たたまれなくなった俺は、一足先に教室に入る。
既に教室には結構な人数が集まっていた。俺の姿を発見した生徒達は、話題を俺への悪口にチェンジする。まあ、いつもの事なので気にしない。
「……見ろよ。黒江ダリアだぜ」
「……あいつが進路説明会に来てなんの意味があんだよ」
「……馬鹿なんだろ」
「……つーかさ、なんか後ろに変なのいない?」
「……何あれ……メイド?」
「……使用人がいないと生活もままならないんでしょ」
「……うわー。あんな奴に雇われるなんて、あのメイドさんも可愛そうね」
「下等生物が……」と舌打ちをするメイドさん。
「ダリア様、奴らの処分はいかほどに?」
席に着いた俺は進路説明会の資料に目を通しながら、斜め後ろに立つメイドさんの問いに答える。
「やらなくていいやらなくていい」
「しかしそれではダリア様の名が……」
「それより、学校探検でもしてきなよ」
メイドさんの存在はこの場では浮いている。外に出てて貰いたいのが本音だ。
「それではダリア様に何かあった時に護れません」
「でもマックロネコがいるし」
俺が自分の影に視線を落とすと、黒猫の頭が飛び出した。
「ダリア様のお気持ちをお察しろ、メイドさん。ダリア様は、お前がこの場で浮いてる事を気にしているんだ」
ストレートだね、猫さん。




