ダリア、夏期講習に出ます。2
「それで、ダリア様。本日は何処かお出掛けに?」
メイドさんが机の脇にぶら下がった鞄を手に取る
「ああ。今日学校で夏期講習と進路説明会があるんだよ。俺ももう高3だし」
「学校……ですか。差し出がましい様ですが、どうやらダリア様は“零魔法症”の疑いを掛けられているみたいですね」
「……まぁな」
流石、俺の記憶を元にしている事はある。
「……失言でした。申し訳ありません」
何故今の発言をしたかは分からないが、多文俺を見下してくる奴らに一子報いてやりたいのだろう。そんな気がする。
違うんだよな。俺はそういうのがしたいんじゃない。具体的な事は俺にも分からないが、違う。
それに、Lv.7の俺の代行者なんだから、実力も割れてくる。せいぜい同学年程度、Lv.17・18くらいがいいトコだろう。そんなんじゃ通用しないさ。
───9時。10時から進路説明会があり、午後に夏期講習がある。
40分ぐらいで学校に着くので、普通に間に合う。因みに徒歩と乗り物を次いで行く。自転車でも行けるが、時間がかかるしイタズラされるからな。
玄関に鍵を掛け、アパートを出る。俺の一歩後ろには、メイドさん。160は超える身長、その背筋はスラッと伸び、凛とした佇まい。シワの無いメイド服。肩まで伸びた金の髪は日光に当てられより美しさを増し、エメラルドの瞳と白い肌にマッチしている。
宝石のような彼女を連れ、学校へと歩き出す。
石畳の道、レンガ造りの建物、その建物を繋ぐ宙に浮いた渡り廊下、所々に置かれた観葉植物。王都に初めて来たときは感動した街並みも、今では慣れてしまい、寧ろこの通学路に至っては気だるさがある。
「……ダリア様。1つ宜しいでしょうか?」
と彼女が声を発したのは、俺が空に魔物を発見した時だった。
「何?」
久しぶりに見た大型の飛行種にテンションの上がる俺。近所の方達も空に指を差し声を上げている。
うっわデッカいな。ワイバーンっぽいな。降りて来たら被害出るな。まあこれだけ人の目についてんだから、誰かが退治しに来んだろ。
「我々は貴方様の力そのもの。わたくしめの実力、頭の片隅に置かせて貰っても宜しいでしょうか?」
「え?」
ワイバーンが急に向きを変え、滑空を始める。
てかこっちに向かって来てる。
物凄いスピードで。
嘘だろ。
ワイバーンが着陸するのに数秒も掛からなかった。
咆哮を空に放ち、翼を広げ、4mの巨体を揺さぶり、怒りを露にする。
それもその筈。ワイバーンの怒りの矛先は俺の目の前にあるのだ。ワイバーンの標的は行商人。同族の鱗や卵を運んでいる彼を許せなかったのだろう。
行商人は尻餅を付きただただ恐怖におののき、近所の方達は叫びながら散り散りに逃げて行く。
《ワイバーン 推定Lv.31》
硬い鱗と鋭い爪を持ち火炎を吐くそいつは、常人での討伐は不可能な存在である。
逃げるしかない。ワイバーンが行商人に気を取られている内に。出ないと死ぬ。
いや、逃げられるか? 俺の足で?
「ダリア様、あの存在は危険でございます」
目の前の存在に圧倒されていたが、メイドさんの呼び掛けで正気に戻った。
「ダリア様にお怪我をされては、わたくしの存在意義が無くなってしまいます」
後ろに居たメイドさんが俺の前に出て、ワイバーンに向かって歩き出す。
「あ、ちょっ……!」
メイドさんを止めようとしたが、足がすくんで動かない。情けない。
「お、おい! 馬鹿、死ぬぞ!」
俺の叫びに見向きもせず、落ちていた木の棒切れを拾い上げ、構える。そして、ワイバーンの標的がメイドさんに変わった。
「ご安心下さい、ダリア様。こんなLv.30程度の小物など───」
ワイバーンが大口を開き、メイドさんに襲い掛かる。
「わたくしの眼中にもありません」
メイドさんが棒切れを振り抜き、先ず、ワイバーンの首が飛んだ。
次に首を無くした胴体が崩れ落ちた。
そして、返り血を浴びず、服にシワすら作らない彼女がとんでもない事を言い放った。
「Lv.46はありますので」




