ダリア、引っ越しします。7
「──さて、最後にこちらの部屋になりますが」
場所は最上階の一室。豪華な装飾の施された扉をルシファーが開け放つ。
足を踏み入れ、俺は思う。
部屋が広すぎる。何世帯の家族が団欒できんだ、これ。目に見える窓全部が掃き出し窓だし、天井も高い。天窓には太陽が綺麗に収まっている。
この部屋の用途はなんだ? 憩いのスペースだろうか。まあそれなら頷け……
「ダリア様のお部屋になります」
全然違った。
「ぶふぉっ!?」
予想外の答えに吹き出す俺。
「ごふっ……! ごほっ……」
口と腹を押さえてむせ返る。危うく昼に食べたハンバーグが出そうになったが、なんとか堪えた。
「だ、ダリア様!? 体調が優れないのでしたら横に……」
「だ、大丈夫だイサメ。ちょっとむせただけだから。元気だから」
心配して俺の背中に手を回すイサメを宥め、ルシファーに向き直る。
「えっ? 俺の部屋? ま、マジ?」
「はい、マジです。……ダリア様からすれば小さく見えるでしょうが、6階の床面積を考えたらこれが限界でして」
いや小さく見えないよ。大き過ぎるよ。これ個人で使える部屋の規模を超えてるよ。
「そ、そう……。あのさ、ルシファー?」
「はっ」
「……部屋広い、ね」
「ダリア様のお心に比べれば小さきものです」
「いや、そうじゃなくて……」
俺の言葉が途切れる。
無理だ。俺には無理だ。折角俺の為に用意してくれたのに、それに文句をつけるなんて俺にはできない。
かと言ってこんな部屋で毎日を過ごせと言わたら、やはり無理だ。なんかこう……心が落ち着かない。部屋のスペックに俺のスペックが見合っていない。
どうするよ俺。自分で召喚した者達にこんなに気を使うなんて思わなかったぞ。
ヤバい。俺が言葉を濁してるもんだから、皆が困った表情で顔を見合わせているぞ。
「……ダリア様が過ごされていた住居がどの様な場所かを、知っているか?」
突然、俺の足元から低い声が飛んできた。スッと俺の横を小さな影が抜ける。コロネだ。
「ああ、ナイトに話は聞いてはいる。1Kのアパートだとか。部屋も6畳半ぐらいだろう?」
「そうだルシファー。ダリア様はこの様な部屋に慣れていないのではないか? 勝手な解釈でダリア様に押し付けるのはどうかと思うぞ?」
助け船を出すとは猫さんやるね。俺の気持ちを代弁してくれてるみたいだ。君の株がうなぎ登りだよ。
コロネに感心していると、リュウが不意に袖を引っ張ってきた。
「……ダリア、小さい方が、良いの……?」
「そ、そうねぇ……。どちらかと言うと小さくて良いかな。欲を言うなら10畳ぐらい」
欲を言うなら漫画本沢山置きたい。
「はっ、直ぐにでも仕切りを設けましょう。もしもの事を考え、簡易間仕切は準備してあります。ナイト!」
ルシファーの呼び掛けにナイトは軽く頷き、
「《クリアランス=リヴィリング》」
凛とした声で呟きながら右腕を横に振る。
腕の動きに呼応するように四方八方に帯状の魔法陣が現れ───たかと思うと、魔法陣が弾け飛び一瞬で壁ができた。
簡易間仕切りなんて言うから、よくデパートとかで見掛けるパーティションみたいなのを想像してたが、全然違った。普通に壁だ。見るからに分厚そうで遮音性能も高そう。
「あ、相変わらず凄い魔法使うね……」
いきなりの変化に俺は驚きを隠せない。いやホント、最近は毎日驚かされてばかりだ。
「大したことないですよ。予備で造っておいた壁を置いただけですから」
ナイトは謙遜を言いつつも、誇らしげに鼻をフフンと鳴らして胸を張る。
「あ、ダリア様? 10畳ぐらいと言っていたので5m×4mを目安に壁を置きましたが、こんな感じで良いですか?」
「え? あ、ああ。ありがとう。いいよ、こんな感じで」
これで20㎡って事か。これでも十分広いぞ。こんなに広いのか。甘く見てたわ。まあ散らかすのは得意だから直ぐに狭くなるかもな。……イサメに怒られそうだけど。
「───さて、ダリア様」
ルシファーが見取り図のファイルを閉じて頭を下げる。
「以上で屋敷の案内は終了となります。わざわざお付き合い下さりありがとうございます」
「い、いや。なんか……ごめんな、俺も我が儘言ってさ」
「そ、そんな……。ダリア様が謝ることなど何一つとしてありません。全ては私の至らなさゆえです。申し訳ありません」
ルシファーの歯切れが悪い。彼が悔やみながら膝を折りそうになったところで、俺は気付いた。
キョドってばかりでお礼を言ってないよな。『ありがとう』より先に『ごめん』が出るのは俺の悪い癖だと思う。
いやでもまあ、いきなりこんな待遇になったらビビるよ、普通。とくに俺みたいな奴は。
取り合えず、お礼は言った方がいいよな。みんな俺の為にしてくれているのに、俺の態度はそれを悪し様に言ってるようなものではないか。




