ダリア、引っ越しします。6
「今後このような事が無いようにお願い致します、ルシファー殿」
イサメがジト目になりながら釘を刺す。その言葉にリュウがうんうんと頷き、俺の左手の小指を握って見上げてきた。
リュウの手って柔らかいな。一瞬ドキッとしたが、クールな俺は直ぐに平静を取り戻せた。
「……ねぇ、ダリアぁ?」
「ん?」
「ルシファー、酷いんだよ……?」
「へー」
「石、投げてくるし……スライディング、をしてくるし……バナナ、の皮を、投げてくるし……。今朝なんか、夜中に起こされ、たんだよ……?」
「そ、そうか」
コメントに困る。
ルシファーの背筋は常に伸びているし、カンペを読んでるみたいにスラスラ言葉も出てくる。悪魔を象徴する容姿を見なければ、聖人君子という印象が強い。
そんな事をするようには見えない、ってのが本音だ。
「ダリア様、ルシファーは猫を被っているので今の姿が本性じゃないんですよ」
どうやらナイトに心を読まれてしまったみたいだ。
「暇潰しで起こしてきたんですよ? 酷くないですか? しかも私なんか胸が少し大きいからってだけで、無駄肉やら乳牛やらデカメロンやらツインテールやら悪口言われるんですよ?」
胸とツインテールの関連性が良く分かんないんだけど。
「私は上げるとキリがありませんけれど、今朝は油性のマジックで顔を描かれましたわね。思わずグーパンものでしたわよ」
シロはそう言って、ルシファーにジャブを向けながら怒りを表現する。
なんの事だかいまいち状況が掴めていないが、ルシファーが皆からズタボロに非難されているのは分かった。
今まで饒舌だったが、いきなりの猛攻で黙秘を余儀なくされたルシファーだったがここでようやく口を開いた。
「ダリア様に助けを乞うなど、己の程度の低さを認めているようなものだぞ? ダリア様に頼らず自分で来い! 相手してやる」
「言ったわね。その翼を手羽先にしてあげる」
「……髪の毛、全部、抜いてやる……!」
「角をヘシ折ってやりますわ」
「待て。そういう物理的なのは止めて口喧嘩なんてどうだ? な?」
少し冷や汗を流したルシファーが念を押すように言う。
今までの話からしてルシファーが奇行に走っているのは本当みたいだ。俺の前だと紳士的なのにな。
「ダリア様」
不意にイサメが声を掛けてきた。
「皆様はどうやら取り込み中のようですし、先に最上階へ参りましょうか」
「え? いや、でも……」
「茶番の為にダリア様をいつまでもこの場に立たせている訳にはいきません」
「その通りだ。馬鹿は放っておこう」
黒猫が低い声と共にピョンと跳ね、イサメの肩に飛び乗る。
「長い時間歩いているのだ、早く休むべきだろう」
別に足は疲れてないが、驚いてばかりで心が休まる暇は無かったな。変な疲れがあるのは確かだ。
「ではダリア様、こちらへ」
イサメが俺を先導するように前に立って歩き出す。
ルシファーに代わって案内してくれるみたいだが、確かイサメは建築に関わっていなかった筈だ。なぜこんな迷路染みた屋敷の道が分かるのだろうと思ったら、ちゃんと屋敷の図面を持っていた。
凄いな。俺なんか図面を見ても現在地すら分からないのに。
「あ、お待ち下さいダリア様!」
俺達に気付いたのか、ルシファーが呼び止めてくる。振り返ると、みんなひざまづいていた。
「ダリア様の御前であのような非礼を……お許し下さい」
「も、申し訳ありませんしダリア様。みっともない姿を晒してしまって……」
「……ごめん、なさい……」
「如何なる処罰をもお受けしますわ」
相変わらずの低姿勢である。で、相変わらず慣れない俺は返す言葉に困らせる。
そんな代行者達を見下ろし、イサメが溜め息を吐いた。
「ダリア様が呆れて声も出ないようです。しばらくそこで反省していたらどうですか? あとの案内はわたくしがしますのでご安心下さい」
「で、でもさ、反省してるみたいだしさ」
「寛大なるお心、流石にございます。ですがダリア様、甘やかしては付け上がってしまいます。言うべき時に言わなければ」
別に粗相はしてないと思うけど。
「だ、大丈夫。俺は気にしてないから」
「……そうですか。申し訳ありません、軽率な発言でした」




