ダリア、召喚します。3
今度は“聖女の書物”に目を通し、書かれた文を読み上げる。
「--------」
これは詠唱と呼ばれる行為だ。放つ言葉に意味は無く、錠を解くために鍵を開ける様な行為だ。
「--------」
一回召喚が出来てしまえば、魔法陣と詠唱の仮定をすっ飛ばして召喚する事が可能になる。王国最強の召喚士は数万の兵を1秒足らずで召喚出来るとか。羨ましい。
「--------」
……あー、来週どうすっかな。お金。まあ召喚魔法は失敗するだろうな。
俺が魔法を使える……いや、代わりに使わせる、が正しいか。最後の頼みの綱だったけど、全然魔法陣に反応無いし。
「--------」
詠唱が終わったが、反応無し。
みんなにギャフンと言わせられる、とか考えたけど……やっぱり俺は波風立てないで生きるのが賢明って事だな。
そうだな、と自分に言い聞かせる。
あと半年ちょっと……頑張るか。
「……ん?」
しばらく眺めていると、魔法陣に変化が起きた。紫色に、妖しく、光出したのだ。
その直後、
「あっつ……!」
小遣い叩いて買った“聖女の書物”がいきなり発火した。
「ちょっ……!」
ついでに自由ノートも発火した。
あ、いや、え? 駄目だって 。自由ノートは思い出の品なんだから止めて。いやマジで。
“聖女の書物”は落下して魔法陣に引火し、自由ノートは中空で六つの火の塊に分列した。
「な、ナニコレ……」
ちょ、ちょっと待って。てかなんで燃えてんの? こんなの“聖女の書物”には載ってなかった。
失敗の可能性は無いと行っていい。自分の実力にあった使役出来るものを呼び出す召喚魔法だからだ。
失敗した場合は何も召喚されないか、俺の時みたいに主人に反抗する変な奴が出るだけだ。それも自分で対処出来るレベルの。
一応例外はある。更に高位の召喚魔法で上位の存在を呼び出した場合、呼び出したもののレベルが高過ぎて制御出来ず、暴れ出すケースだ。
……しかし、なんだろうか。この異様な空気は。
持って来たランプが割れ、虫が飛び立ち、小動物が逃げ出し、木々が揺らめき、地鳴りが響く。何より際立ったのが───
「はっ……」
月が3倍くらいデカくなっていた事だ。
これはヤバい。絶対。
Lv.7の俺が言うのもなんだが、ヤバい。生物的な本能だ。
取り敢えず魔法陣を片付けよう。家族旅行で買った木刀で木っ端微塵にしてやる。覚悟しろ。
木刀を振り上げ、思い切り降り下ろす。
「……あ」
……折れた。
宙に浮いてる火の塊にやられた。や、やるなこいつ。
……い、いや。まだ分からないぞ。召喚が成功したかもしれないじゃないか。失敗して変なのが出て来ても、勝てる筈だ。前回勝ったんだから。
折れた木刀を構え、燃え続ける魔法陣を睨む。
魔法陣の印が次々に書き換えられている……。俺が頑張って描いた魔法陣の原型が、そこには無い。別の、より複雑な魔法陣がそこには描かれていた。
宙に浮く六つの火の塊はそれぞれが虚空に向かって何か文字を連ねている。と思ったら、弾けて魔法陣に吸収されてしまった。
俺は思わず神に祈った。
だが、俺の祈りも虚しく、魔法陣はその存在をより強大にする。
雷が起こり、木々が凍り付き、地面が焼け、月が赤く染まり───
音が消えた。
視界が消えた。
そして、魂が抜けた。
───気が付くと、森っぽい場所に立っていた。さっきと同じ場所だ。ランプは割れたままである。
ふと時間を確認すると、20時49分。少し進んでいる。
何も起こってない……。な、なんだよ……。失敗かよ……。
「はぁぁ……」
安堵の溜め息を吐いた瞬間、ある気配に気付いた。気配の出所は、魔法陣のあった場所。
俺が振り向くより先に、気配の方から男性の声が届く。
「我等が偉大なる主よ。その呼び掛けに、微力ながら馳せ参じました」
腰の低い発言に目を丸くしながら、魔法陣のあった所にいるもの達を見下ろす。
月明かりで照らされ、そのもの達を確認出来た。数は5人と1匹。
そして、俺が召喚したもの達は、みな膝をつき頭を垂れている、と言う異様な風景を作り出していた。




