ナイト、依頼を受けてきます。5
「まあ、昔はそうでもなかったんじゃが……今は強い魔物が沢山おってのぅ───」
ザイゲツさんが語り出す。
同時に、「んー……」と私は思考を始める。
護衛対象が5人かぁ……。別に1人でも5人でも変わらないけど、なんか詐欺に合った気分だ。ダリア様が5人だったらメッチャ高ぶるけど。
……ん? ダリア様が5人? なんだそのパラダイスは。行きたい。凄い行きたい。眼福じゃないか。
そんな事になったら頭の中が真っ白になって抱き締めてしまいそうだ。まあダリア様の理想の死に方の1つに“圧迫死or窒息死(巨乳で挟まれての)”ってあったし、運悪く旅立ってしまっても悔いはないだろう。
いや待って。旅立たせちゃ駄目でしょ。何を考えているんだ私は。
そもそもダリア様に触れられない程のヘタレなのに抱擁なんて夢のまた夢だ。
イサメとコロネが羨ましい。どうしてダリア様の近くにいてあんなにどっしりと構えて居られるのだろう。私なんか、ダリア様が眩しすぎて直視出来ない。
サングラスが欲しい。心のサングラスが。
「───と、言うわけじゃ」
あ、なんか話が終わってしまった。どういうわけですか、教えて下さい。
老婆は座り直し、老齢とは思えない確りとした双眸で私達を見据え、軽くお辞儀をする。
「どうか、頼めんじゃろうか?」
……あの、ごめんなさい。聞いてなかったです。
「分かりました。引き受けましょう。その為に来ました」
聞いてないのに私は自信満々に答えた。あとでメタトロンに話の内容を聞いておこう。
と、そこへ、
「待てよ婆ちゃん!」
扉を乱暴に開き、部屋に1人の青年が入ってきた。老婆の近くまで我が物顔で歩いてくると、細い目で私達を一瞥し、老婆に話しかける。
「……こんなのを信用すんのか? 実力も分かんねぇんだぜ?」
「勝手入るなガラツ。ダイナ殿らに失礼じゃぞ。下がれ」
今の“ダイナ”は私の偽名だ。で、メタトロンは“トロン”という名前で活動している。
「待てよ婆ちゃん。俺だって行くんだから別に口出ししたっていいじゃんかよ!」
「この人達は強い」
「婆ちゃん! あの場所は危険なのに護衛が2人ってのは、やっぱ納得いかねーよ!」
「ワシの目を疑っとるのか?」
「そうじゃねぇけど」
「じゃあ口は出さんでもいいじゃろうが」
「でも婆ちゃんも歳なんだしさぁ」
ザイゲツさんの言葉に全く引く気の無い青年を眺め、私は思う。
時間かかりそうだなぁ……。
「あの」
この状況を打破する為に挙手しながら立ち上がってみた。これで主導権は私に移る。
「ガラツさん、だったかしら? 一応ランクSの依頼は何度か受けて達成しています。私達の実力に不満があるようなら、証拠をお見せしますよ?」
「どうやってっすか?」
「メタトロン、ヤマタノオロチの依頼書出して」
「良イノデスカ? 目立ツヨウナ行動ハ避ケルベキデハ?」
「大丈夫よ。高難易度の依頼をたった2人で受けてるんだから十分目立ってるわよ。それに正体も隠してるんだし」
「アア、確カニソウデスネ」
メタトロンは納得し、懐から黒の依頼を机の上に置いた。
「こ、この依頼書は……!?」
「ま、マジかよ。ランクSSの依頼書とか初めて見たし……」
老婆ザイゲツさんと青年ラガツさんが目を大きくして驚嘆の声を出す。
私は依頼達成の証拠であるヤマタノオロチの首を1つ異空間から取り出し、2人に見せる。
「討伐対象のヤマタノオロチの首です。まだ達成報告はしていませんが」
「確か……竜道山に出たんだったかの? まさか2人で倒したのか?」
「いえ。私1人ですね」
「自分ハ離レテ、パラパラ踊ッテマシタ」
なんかメタトロンがボケているが、まあスルーしよう。
「1人で倒したのか? それに今の空間に歪みを発生させる魔法……どうやらワシの予想の遥か上を行く実力者だったみたいじゃな。空間に干渉するなど、神の域に足を踏み入れていなければ出来ん芸当じゃ」
「分かって頂けて何よりです。ガラツさんはどうです?」
「……分かった。疑って悪かったっすね」
ガラツさんが「お願いします」とお辞儀をする。
ひねくれた青年かと思ったら、そうでもないみたいだ。まあザイゲツさんの事を心配してたしね。彼女を気にかけての態度だったのだろう。
私も共感出来る。ダリア様に得体のしれない者が接触し、そいつがダリア様に危害を加えないとしても、私だって眉間にシワを寄せる。悪態もつくだろう。
だから彼の態度は正しい。お婆ちゃん思いね。




