ナイト、依頼を受けてきます。1
掲示板の前で私は右往左往していた。
「あー……どれがいいのかなぁ。報酬の良いやつは時間が掛かるのよね。でも早く済ませればダリア様に会いに行けるし……」
「ナイト様ナラ、ドレモ達成スル早サニ変ワリハナイノデハ?」
「1秒でも早く会いたいじゃない?」
「シカシ、ココデ迷ッテイテハ本末転倒デハ?」
「ぐっ……確かに」
隣で掲示板を眺める黄色いマントの小柄な者に正論を付かれた。
目深に被った黄色いフードからは顔の輪郭は見えず、黄色いマントで首から足下までを覆って全身を全く見せないこの者の名は、メタトロン。ルシファーの翼に宿る三天使の1体である。
心配性のルシファーが気を利かせて私の護衛につけてきたのだ。天使なら別に正体がバレても問題にはならない。寧ろ神の使いと言われる天使を使役出来るのは名誉な事だそうだ。興味無いけど。
で、私が今居る場所はヴィジランテが経営する酒場の中。一般人が普通に飲みに来るし、ヴィジランテのメンバーの憩いの場としても開放されている。
カウンターの脇には掲示板が置かれ、多くの依頼書が張られていて、掲示板から漏れた依頼書は掲示板下の長テーブルに纏めて閉じてある。
ヴィジランテの仕組みは至って簡単だ。依頼書に書かれた対象物を手に入れ、依頼書と一緒に係りの者に提出する。これだけだ。報酬の方は大体が後払いになるので、後日訪れなければならない。
そして、依頼は毎日更新される。その日に発注された依頼もその日に達成される事がザラにあるので、注意が必要だ。競争社会なのだ。だから私も毎日通い詰め、吟味する必要がある。無駄を無くす為に。
登録していなくても受けられる。勿論、何かあった場合には自己責任になるが。
しかし……暑い。特に顔が。
今の私の服装はメタトロンと同じく全身を覆う赤色のマントを装備。そして赤いフルフェイスのヘルムを被って正体を隠している。
その理由は、バレると面倒になりそうだからである。なんせ新顔のくせに難易度はランクA以上しか受けてない。これだけで十分噂になるだろう。
要はプライベートの問題だ。私は素で王都を堂々と歩けるから、街中でのダリア様の護衛や買い出しが出来る。ダリア様に迷惑を掛けない為に、なるべく露出は控えている。
あー、やっぱり暑い。マントの下は涼しい格好をしているが、顔はとてつもなく暑い。夏は嫌いだ。暑いから。
「ナイト様、凄イノヲ見付ケマシタヨ」
メタトロンはそう言って、暑さでやられそうになっている私に1枚の黒い依頼書を差し出してきた。
「……何これ?」
「報酬額ガ他ノモノヨリ高カッタノデ持ッテキタノデスガ」
依頼書を見てみると、一目で危険な内容であると理解出来た。黒の背景の上に真っ赤な文字が連なっている。他の依頼書は背景が薄い茶色で文字が黒なのに、これは明らかにレベルが違う。
取り敢えず、重要そうなところ音読してみる。
「……えーっと、ヤマタノオロチの討伐依頼。推定Lv.44。“竜道山”に生息」
読んでいたら赤字のせいで眼が痛くなった。赤は好きな色だが、この配色は殺意しか感じない。
「危険度ランクハ……SSミタイデスネ」
メタトロンが私の手元の依頼書を覗いてくる。
危険度ランクとは、言葉の通りその依頼のリスクの規模を示すものである。このSSは、この国最強の『星呼び』をもってしても死ぬことを覚悟して挑まなければならない程の危険性を持つ。
だが滅多に出回る事はない。数年に1回あるかないかの気まぐれな自然災害のようなものだ。実際、討伐対象が起こす被害の規模は自然災害並みだが。
まあ討伐対象の強さなどどうでいい。資金を早く稼ぎたい。
目をスライドさせ、黒い依頼書の下に書かれた報酬額を見る。
「おぶっ……!?」
思わず変な寄生を上げてしまった。ダリア様が居なくて良かった。居たら絶対失笑される。はしたないって言われる。
今の行いを懺悔し、再び依頼書に目をやる。
いやまあ、こんなに報酬が凄いのか、SSは。自然災害と戦うようなものだもんね。それを考えれば妥当か。
「よっし。じゃあこれにしようか」
「畏マリマシタ。シカシ“竜道山”デスカ……険シイ山道ダト聞イテイマスガ」
「そうね。でも飛行魔法使うから大丈夫大丈夫」
依頼書を懐にしまって外に出ると、なんか変な奴らに絡まれた。
「ようよう兄ちゃん。良さげなヘルム被ってんじゃねぇか」
「兄ちゃん……?」
思わぬ言葉に首を傾げる私。
そう言えばそう見えるかも知れない。今の私は全身が見えてない上、フルフェイスヘルムと高いヒールのお陰で、190くらいの身長がある。だが身体には防具を身に付けていない為、マントの上からでも線が細いのが分かる。
そんな高身長の女性はそうはいないし、細いからひ弱に見えたのだろうが……いや待て。私、胸はある方だと思ってるんだけど……胸当てと勘違いしてるのだろうか?
なんか性別を間違われるって……結構ショックね。
ダリア様に間違われたら壁に頭を打ち付ける自信がある。




