間話、悪夢の再来。2
「ディエル殿下、自分の国を悪く言うのはどうかと思いますぞ?」
落ち着いた口調の初老の紳士が方眉を上げる。
「済まないコウジ。許せ。気がどうかしていた。なんせこれは、国の存亡に関わるかもしれん。失敗は許されないのだからな」
「まさか殿下から弱気な発言を聞くとは……長生きはしてみるもんですな」
初老の紳士───コウジが天井を仰ぎながらしみじみと白い髭をさする。
「どこが弱気なのだ。それにコウジ、そなたはまだそのような歳でもあるまい! 白髪が多いだけだ」
気勢を取り戻したディエルが、本題の事を思い出してアレンに向き直る。
「……話が逸れてしまったな。なんにしても、私が思うの強い者を集める事だ。実際のところ、Lv.40を超える魔物の対処はそれしか無い」
そう。弱者の攻撃では強者を転ばす小石にもならない。
困ったものだ、とディエルが肩を落とす。
「幸いにもまだ吸血鬼とヤマタノオロチによる被害は出ていない。ヤマタノオロチのについては暫くは大丈夫でだろう。鈍い奴だからな。被害が出ない内に防衛網を敷き、その間に戦力補強を行う」
「戦力補強、と言いますと?」
「アレン殿、こちらをどうぞ」
アレンが疑問の声を漏らすと、コウジから何かの資料を渡された。その資料に目を落とし内容を確認する。そこには、人名と数字の列がズラリと並んでいた。
「これは……?」
「この前行われた軍の演習結果だ」
「第一師団と第二師団の一対一で行われた模擬戦ですね? これが何か?」
ディエルが引き出しから、またも資料を取り出しアレンに提示する。
「そしてこれが、国の観測隊が出した兵士一人一人のレベル測定結果。そしてこっちが、とある男の出した兵士一人一人のレベル測定結果だ。比較してみろ」
そう言われ、アレンは机に置かれた数字の羅列をしばらく眺め、ディエルに冷や汗をかいた顔を上げる。
「自分、こう言うの苦手でして……」
「まあこんな大量の人数を直ぐに比較しろと言われても無理だな。私も無理だ」
「お、お戯れを……」
「茶目っ気だ、許せ」
「それで、これが何か?」
「集計した結果、ある事が判明した」
随分と回り道するなこの人、と思いながらアレンはディエルの言葉を待つ。
「観測隊のレベル測定の精密度は7割弱。7割近く正確にレベルを測定出来る。……が、とある男のレベル測定の精密度は9割強だ!」
「そ、それはつまり」
「今までより、より正確に実力差を知る事が出来る。戦力を高めるにはこの男を頼るしかない。お前も知っているだろ? この男を」
そう言って、ディエルが机の上で写真を滑らせる。
「最上ヤスユキ……」
アレンから友人の名前が自然に出た。
「その者は2年前に賊との戦いで片眼を失って軍を引退。だが、半年前にクラスレジェンド入りを果たしたそうだ。『一隻眼』の異名を持ってな。既に軍に復帰する報せは預かっている」
「成るほど、ヤスユキが『一隻眼』だったのですか。それは初耳です。確か……“魔眼”を持つそうですね? この測定結果も、魔眼の力ですか?」
「そうだ」
ディエルは勢い良く立ち上がり、今までの話を含めて言葉を放つ。
「この問題は早急に対処しなければならない。しかし10年前の失態がある為に成功させねばならない。だが時間は掛けられない。そこで、そなたに質問だ」
「はっ」
「『一隻眼』の力を使い、兵士達の中から精鋭達を選りすぐるか、未だ見ぬ力を持つ民の中から思わぬ掘り出しものを探し当てるか、どちらが確実だと考える?」
前者は、観測隊が既に兵士達の実力をほぼ見定めているので、クラスレジェンドの発見は望めない。目的は、『一隻眼』がより正確にし、実力のある者を見極める事にある。という意。
後者は、軍が把握してない実力者、若しくはクラスレジェンドの発見が目的だ。本人が知らないだけで、潜在能力を秘めている者もいる。という意。
「なっ! 国民を戦場に出すのですか!?」
「慌てるな。そこまで私も愚かではない。戦う意思のあるものに呼び掛けるさ。今は猫の手でも借りたいのだ。そなたも考えてくれ、この国が良くなる為に、な」
「そう、ですな……。そういう事なら後者が宜しいかと」
「そうかそうか! やはりな! それで行こう! おいコウジ、直ぐに取り掛かるぞ」
「承知いたしました、殿下」
喜びを見せ行動に移るディエルと、国を守る決意を今一度心に誓うアレン。
国の為に最善尽くべく思考を巡らしたディエルのこの策も、後に起こる“悪夢の再来”の前では机上の空論でしかない事を、今の2人は知るよしもない。




