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ダリア、ちょっと学校に行ってきます。5

 ☆



太陽が地平線にその巨体を隠し始めた夕方、部屋で魔法学の宿題をやっていると、インターホンが鳴った。


何も言わずに滑らかな動きで立ち上がるイサメ。


「俺が出るよ」


「し、しかしダリア様……」


「いいっていいって」


こんなボロアパートからメイドが出てきたら来客もビックリするだろう。まあ俺の部屋はイサメのおかげで新築以上に綺麗だけど。アパートから出る時も人目をはばからって出掛けている。


ペンをノートの上に転がし、玄関に向かう。


ドアノブを捻ると同時にイジメっこ共の報復の事が頭をよぎったが、流石にアパートまでは来ないだろうと思い、ドアを開く。



「あの、ダリア様……中途半端な時間に失礼します」



眼前に巨乳が広がった。



「あ、ああ……ナイトか。どうしたの?」


「はい。ダリア様のお顔見るために」


そ、そうか。それはご足労痛み入るな。


「なんか……前も思ったけど、露出が凄いね」


頭から足までを芸術作品を見るかのように眺め、総評したらこの答えが出た。街中でも中々その谷間は見ないぞ。


「は、はしたない……ですか? 暑いので……」


ナイトがしょんぼりと肩を落とす。いや、良いと思うよ。グッジュブグッジュブ。眼福眼福。


「節度と言うものがあるでしょう、ナイト殿」


いつの間にか後ろにイサメが立っていた。


「ダリア様がそう仰るのならそうなのです。貴女の露出は下品に見え、常識が疑われる、と言う事です」


あの……それではまるで俺が法律みたいな言い方ですね。


「だ、ダリア様……申し訳ありません!」


ナイトが声を荒げてひざまづく。


「次からはこのような失態は犯しません! ですから、見捨てないで下さい!」


いや、だから大袈裟なのよね、君ら。ファッションセンスに疎い俺にどうこう言う権利は無いし、女性に意見するなんてもっての他だ。


ただ、あえて言わせて貰うなら、


「あの、さ。近所の迷惑になるから……」


ここ玄関なんですよ。ドア開けっ放しなんですよ。



 ☆



イサメは、街灯と月明かりのみが照らす人気(ひとけ)の少ない夜道を歩いていた。


薄暗いと言うのにその存在感が失われる事が無いのは、メイド服のせいではない。肩まで伸びた金の髪とエメラルドの瞳は星の様に輝き、凛とした佇まいが気品を醸し出している。それは、荒野に咲く一輪の花のように。


その手には、レジ袋が握られていた。ダリアがふと呟いた『アイスが切れてる……』と言う言葉を聞き取り、買ってきた次第だ。主人の喜ぶ姿を想像すると、自然に身体が踊ってしまう。


(いけないいけない。こんな腑抜けた顔では、ダリア様になんと言われるか……)


気を取り直し平静を保とうとするも、やはり口角が上がってしまう。が、急にイサメの表情が不穏なものに変わった。



「……確かにこいつぁ、上玉だな」



物影からケラケラと笑った身なりのだらしない男が現れたからだ。


(ん……? 何処かで見たような……)


男の顔を見た途端、頭に何かが甦り、思考を始める。



……確か、ナイト殿が持ってきたヴィジランテ関係の書類の中に、奴の顔があった。ヴィジランテで悪名を轟かせ過ぎて追われる身になった、A級の賞金首だったはず。


名前は……


「渡辺カロス……だったでしょうか?」


「お、何々? 俺の事知ってる感じ?」


嘲笑いながら大手を振る渡辺カロス。小者臭がぷんぷんする。あと一つ、この男には思い当たる事があった。


「弟さんにでも、仕返しを頼まれたのですか?」


「あん? あんなクズと一緒にすんじゃねーよ。つーか、なんで兄弟だって知ってんだよ?」


「ふふ、分からない方がどうかしています。渡辺カルレと貴方、お二人からは醜悪さが滲み出ていますからね。見ていて気分が悪い。わたくしが笑っている内に消えて頂けませんか?」


適当に言葉を並べて挑発すると、渡辺カロスが目を細めて、声のトーンを下げる。


「お嬢さん度胸あるねー。そいつをぶち壊してオモチャにするのが楽しいんだよなぁ、これが」


渡辺カロスがわたくしの顔を舐めるように見つめ、いやらしい笑みを作る。


気持ち悪い。渡辺カルレの兄だと言うのも納得する。邪魔だから片付けたいが……まあ、賞金首だし身体が変形しても問題は無いだろう。付き出せば金銭に交換出来る。


しかし、


「はぁ……」


手に下げたレジ袋を見て溜め息が出る。


ダリア様、帰るのが少し遅くなりそうです。

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