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ダリア、ちょっと学校に行ってきます。4

正直、見ていて気分がスッキリした。心があの空のように晴天を取り戻したかのようだ。


暴力は駄目だと言っておきながら、気絶して倒れているイジメっこ共と情けなく地面に頭を擦り付ける渡辺カルレをぼんやりと眺め、快感に似た感情を持つ自分がいた。矛盾を感じない自分がいた。


生まれながらにして魔法の使えなかった俺は、最悪の人生のスタートを切った。それは、生まれながらにして人間の最底辺にいることだ。


魔法を使えない。ただそれだけの理由で、だ。暗黙の了解がそこにはあるのだ。


子供の頃ならそんな理不尽な掟など、まだ知るよしもない。だが、歳を重ねるにつれ、理不尽に同調していく。教わりもしない理不尽が、身体に染み込んでいく。


俺はその理不尽な掟の矛先にいる。


理不尽だとは思った。だが、みんなもそうだったから、俺も合わせるしかなかった。周りに溶け込む為に。自分が浮かないように。


そうして出来上がったのが、いびつなピラミッド型の図だった。


一番面積の多い最底辺に、他の段より数が多くならなけばならない最底辺に、たった一人で孤独に存在する俺。


最底辺にいる俺が、上に立つ者に逆らってはいけないのだ。逆らう事は許されないのだ。ただ、頭を縦に振るしかないのだ。


だから、暴力を否定していた。上に立つ者への暴力は許されないからだ。警察沙汰にならない為の保身と言うのもあったが、心の隅っこではやり返したい気持ちがあった。最底辺に居たくない自分がいた。


そして、俺は悟った。


こいつらには逆らわなければならない。抵抗しなければならない。意見しなければならない。そうしなければ、俺は成長出来ない。


代行者達を召喚した本当の理由に、俺は辿り着けない。



「ダリアおい! 聞いてんのか!? 謝ってんだから許せよ!」


「口を慎みなさい」


「いだいいだい!! 頼むダリア!!」


渡辺カルレがイサメの足を掴んで引き離そうと頑張っているが、イサメの足はびくともしない。



最底辺という己の価値観を払拭する為に、俺は言う。なんでもいい。言うんだ、俺!


ふぅ……、と息を吐き気持ちを落ち着かせる。



「この前貸した1万円……返してくれないかな? そうしたら許すよ」



よっしゃ言ったぞ俺! 取り合えず言ったぞ、俺! お金は大事だからな! 天下の回りものだからな!



「はぁ!? あるわけねぇだ───いだだだだだだ!! あるある! でもまだ用意できない!」


「それは無いと言うのですよ」


「じ、じゃあ夏休み明けでいいや」


折角の夏休みにこんな奴らに顔は合わせたくないしな。


「宜しいのですか?」


「ああ、いいよ」


「畏まりました」


イサメは渡辺カルレから足を離して姿勢を正し、俺に一礼。


「そう言えば昼食がまだだったね」


「はっ。直ぐにご用意致します」


ここに長居はしたくなかった俺は話題を変え、イジメっこ共を打見し、この場を後にした。



 ☆



「く、くそがっ!!」


悲痛に満ちた顔の渡辺カルレが、小刻みに震える手をなんとか胸ポケットまで持って行き、画面のついた箱型の機械を取り出した。


画面を指でなぞり終えると、耳に当てた。


「……くそっ!」


機械からの応答は無く、渡辺カルレが3回ほど掛け直したところで、


『……なんだよ。何回も掛けてくんじゃねーよ。死にてーのか?』


不機嫌で殺気に溢れた低い声が返ってきた。


「あ、兄貴! 頼む! ちょっと懲らしめて欲しい奴がいるんだ!」


『あん? 俺がタダで動くとは思ってねーよな?』


「分かってるよ! 3万は直ぐにでも払える!」


『……馬鹿にしてんのか?』


抑圧感が渡辺カルレの身体にのし掛かる。


「び、美人なんだ! それもスゲーんだ! スタイルもスゲーんだ! 兄貴ならぜってー気に入るって!」


『なんだ、相手は女かよ。早く言えよ』


声のトーンが上がった。今の話で機嫌が良くなったようだ。


「あいつマジ強かったけど、兄貴ならどうってことねぇ!」


『当たり前だろ。で、相手の情報は分かってんだろうな?』


「ちょっと時間をくれ! そしたら分かるから!」


『ちっ……使えねー野郎だ』


それだけ言うと、声の主は応答しなくなった。



その場には、渡辺カルレの勝利に満ちた静かな笑い声だけが残った。

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