ダリア、ちょっと学校に行ってきます。2
「ど、どこから出て来てんだよ」
「影のある場所ならどこでも、だ」
コロネはジャンプし、俺の肩に羽のように落ちる。猫の大人サイズなのにこいつ軽いな。
「ふむ。乗り心地の良い肩だ」
「………」
「何か言いたげだな」
「聞いてくれるか?」
「勿論だ」
少し間を開け、呟く。
「……ハゲるなら前からの方がいいよな」
「………」
あれ。なんか俺間違ったこと言ったか?
頭を切り替える為に楽しい事を考えようとして、手始めに自虐ネタから攻めただけなんだが。
「たまに父親に電話するとさ、開口一番が『1ミリ後退しました……』なんだよ。悲しくなるね、息子として」
「……ダリア様」
「髪は女の命って言うけど、あれ嘘だよ。男の方が大事だよ、髪」
「ダリア様、俺の質問聞いてたか?」
スルーしてんだよ。考えたくないんだよ。察してくれよ。
「何故、俺らを召喚したんだ?」
「……そんなもの、己で察しなさい」
洗面所の鏡越しにイサメが現れた。
「わざわざダリア様から答えを頂く質問ですか?」
「分からないから聞いているんだ。イサメは分かるのか?」
「無論です。ダリア様の力を証明するためです」
「それは暴力的な意味でだろう? だがそれはダリア様の思うところではない。俺らの召喚に成功しても、ダリア様の顔は未だに晴れていない」
「………」
威勢の良かったイサメが黙り込む。頭を捻り、彼女は言葉を紡ぐ。
「……ダリア様をお守りする為です」
「ルシファーもそう言って頭を悩ませていたな。だが何をもって守るのか、何をもって守ったとするのか。俺らでは一生、答えにた辿り着けない」
コロネが軽い足音を立てながら床に下り、頭を垂れる。
「だからお聞かせ願いたい。───我々を召喚した理由を。本当の意味で貴方を守らせて頂く為に……」
「わたくしからも、どうか……」
イサメもひざまづき、頭を垂れる。
「こ、答えか……」
なんだろうなぁ……。
あの時は魔法が使えることを証明出来れば良かっただけだ。あとは学校の奴らをギャフンと言わせるとか。そんなその場しのぎの事を考えてた気がする。
でもそんな答えではコロネの方は満足しないだろう。
勘弁して下さい。何も考えて無い俺にそんな難問は答えられないのです。だがここまで思ってくれる彼らの為に何か答えは出さなければならない。
いや、でも、本当に勘弁して下さい。考え過ぎて毛根が死滅してしまいます。
「そ、そうだなぁ……」
俺は駄目な奴だ。
「答え合わせは……保留、でいいかな?」
彼らが深く追求して来ないのを良いことに、あやふやな答えで済ますのだから。
「それは代行者達全員の前で答えたいと言う事か? まあダリア様にもタイミングがあるだろうからな。俺とした事が、早計な発言だった。すまない」
「確かにコロネ殿とわたくしだけでなく、我々全員で聞かねばならない問いでございました。流石の判断でございます」
「ま、まあな」
俺なんかよりよっぽど出来てるよ、イサメとコロネは。
「……ん?」
ふと、何が頭をよぎる。
「どうされましたか、ダリア様?」
「……いや、なんでもない」
今日、なんかイベントがあったような……そんな気がする。なんだっけな……。
……あ、駄目だ分からん。色々考え過ぎて頭の体力がすっからかんだ。なんも思い出せない。思い出せないって事は、多分大した事ない用事だろうな。
気楽に考えていたら、残酷にもイサメが記憶を手繰り寄せる言葉を放った。
「話は戻りますが、金をせびる下等生物共はいかがなさいますか?」
うああああああああああああああ。
そうだったよコンチクショーめ。どうすんだよあのイジメっこ共は。なんも対策してないよ。ボコられて終わりだよ。
「能無しのわたくしめには、やはり力でねじ伏せる以外に策がございません。そうすれば、おいそれとダリア様に手出しはしなくなると……」
暴力はなぁ……。
……いや、駄目だ。
始めから俺には、イサメが俺の為を思って出してくれたこの策を否定出来る権利は無い。
「……そ、そうだな。やっぱり、それが早いよな」
否定出来る訳が無い。
否定するなんて虫が良過ぎる。
俺は彼女らの問いに何も答えて無いのだから。




